『腕』 を失った 『リボーン』





どれだけその身が不自由になろうとも、リボーンは不満を漏らすことはない。



例え腕がなくなり引き金を二度と引けなくなろうとも。


例え腕がなくなり恋人を二度と抱きしめられなくなろうとも。



彼は不満を漏らすことはない。



そんなの、まるで重要ではないというように。


こんなもの、なくても良いんだ。というように。



彼にとっては腕の一本や二本、なくなったところでとりわけ騒ぐようなことではないらしい。


良いんだ。と、彼は言う。





あいつを守れたから、代わりに腕がなくなっても平気なんだ。





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その言葉に恋人は涙する。










『足』 を失った 『獄寺』





「あなたの隣に立てないこと。それが一番悔しいです」


彼は苦笑して、隣に座る恋人にそう告げた。



「あなたと一緒に歩けないこと。それが一番悲しいです」


彼は俯いて、隣に座る恋人にそう告げた。



「あなたと任務に就けないこと。それが一番残念です」


彼は寂しそうに、隣に座る恋人にそう告げた。



「あなたと共に行けないこと。それが一番無念です」


彼は少しだけ辛そうに、隣に座る恋人にそう告げた。





「だけど、あなたが無事だったことは、一番嬉しいです」





彼は自分が庇った恋人が五体満足なのを確認するとにこっと笑った。


今まで黙っていた恋人から拳骨が飛んできた。





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とびきり痛い拳骨。










『目』 を失った 『リボーン』





光などがなくなっても、彼にとって生活に不備は生じないらしい。


彼は目が見えてないのが嘘のように、当たり前に生活している。


例えば廊下で誰かと擦れ違っても普通に挨拶してくるし、人とぶつかりそうになってもひらりと避ける。


まるで目が見えているかのように。



「リボーンさん、本当に何も見えないんですか?」


「見事に何も見えないな」


「その割には勘が鋭いようですが」


「あれぐらい、気配が読めれば誰にでも出来る。お前にだって出来るさ」


「無理ですよ」


「そうか? つか、日常生活よりもお前の顔が見れないことが辛いんだが」


「気配を読んでどうにかしてください」


「無理言うなよ」





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こんな日常会話も出来ちゃいます。










『耳』 を失った 『獄寺』





そりゃあ、扱っている武器を考えれば。


この日が来ることなんて、火を見るよりも明らかで。


なのに何の対策も施していなかったということは。


それはつまり、必然で。



大丈夫だと思っていた。


平気だと信じていた。


何も聞こえなくなるぐらい、なんでもないと。



だけど。



あの人の声が届かないことが、こんなにも切ないことだとは今まで知らなくて。


不覚にも泣きそうになると、あの人がぐいっとオレを引っ張って。自分の胸に押し当ててくれて。


すると感じる、あの人のあたたかさと鼓動。



こぼれた涙は、けれど先ほど流しかけた冷たい涙とは全然違うあたたかさを持っていた。





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なんてあたたかい、なみだと、あなた。










『声』 を失った 『リボーン』





元々無駄口を叩かないリボーンは、今まで以上に行動で意思を示すようになった。



生徒がたるんでいると思えば、叱咤ではなく銃弾を飛ばし、


指示が甘いと思えば、自ら手本を行動して見せ、


死地に味方がいれば、襟首掴んで引き摺り出す。



寡黙なヒットマンとして、彼は更に名を上げた。


それは恋人の前でも変わりはなく。



「ねぇ、リボーンさん」


恋人の甘い囁きに。



「オレのこと、どう思ってます?」


恋人の甘える一声に。



リボーンはいつものように行動で想いを示す。


恋人の唇に、自分のそれを押し付けることで。





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好きだっていうこと。










『身体』 を失った 『獄寺』





オレのすぐ目の前に、10代目がいる。


10代目のほかに、笹川やハルもいる。ランボもいて、姉貴もいて。


そしてあの人の姿も。



だけど、みんなオレには気付かない。


オレはすぐ傍にいるというのに。


だけどそれも、そのはずで。



これはオレが見ている夢だから。


オレが過去を、見ているだけだから。





自覚すると同時、場面が一転する。


そこは無機質な、暗い、病院の一室。


そこでは傷だらけのオレが、たくさんの点滴を打たれながら眠っていた。


オレはどうにか自分の身体に戻れないかと何度か重ね合わせてみるけれど。



何度やっても、何日試せど。オレの身体は動かない。





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そうして日々は過ぎていく。










『記憶』 を失った 『リボーン』





例えば。オレが望むなら。


リボーンさんを血みどろの世界から逃がす事が出来るのだろうか。



例えば、オレが願うなら。


リボーンさんを呪われた道から開放する事が出来るのだろうか。



自問して、すぐに無理だという結論に辿り着く。


リボーンさんはこの世界ではあまりにも顔が知れ渡っているし、呪いだって別に解けてるわけでもない。


だけれど、この目の前の一見何の変哲もない少年に、事実そのままを突きつけるのも気が引ける。


どうしたものか。どうしたらいい? と思い悩む。アドバイスを聞きたい本人を前に、オレの口は閉ざされたまま。



「? どうした? オレの事を知っているなら、さっさと教えてくれ」



何も知らない覚えてない最強ヒットマンに、オレはなんて答えれば良い?





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誰か教えてくれ。










『心』 を失った 『獄寺』





オレは獄寺を車椅子に乗せて歩く。


穏やかな日差し。のどかな午後。風は涼しく、遠くからは鳥の鳴き声が聞こえる。



「平和だな。獄寺」


「………」



だけど、獄寺はオレの声に答えない。


それでもオレは獄寺に声を掛けるのをやめない。



「いい景色だな」



少し小高い丘に登れば、遠くがよく見える。


オレは暫く景色を見ていたが、ふと視線に気付いて目をやった。獄寺がオレを見ていた。



「…どうした?」


「………」



問いかけるも、答えはない。


オレは獄寺の髪を優しく撫でた。


獄寺が気持ちよさそうに目を細めた。



それだけで、オレにはもう充分だった。





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それは青い空を白い鳥が飛ぶような、そんなある一日のこと。










『自由』 を失った 『リボーン』





呪いが全身を回り、身動きが取れなくなった。


彼がそうなる直前まで会っていたのは、恋人だった。


暫く会えなくなるかも知れない。と告げたとき、恋人は驚いて、悲しんだ。


彼は恋人を悲しませてしまった自分を呪った。





呪いは日々進行し、留まる術さえ知らない。


これでは恋人のところへ帰れない。


彼は恋人が自分を心配していると聞いて、愛する人を不安がらせている自分を呪った。





呪いに苦しめられる。だけど彼が思うのは愛しい恋人の事だけだった。


ある日、恋人が自分を想って泣いている、という話を聞いた。


彼はどうにか、自分は平気だということを告げられないかとペンを取ろうとした。


けれど。今の彼には恋人に手紙を書くだけの自由すらなかった。





オレは無力な自分を呪った。





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呪いは呪いを呼ぶ。










『命』 を失った 『どちらか





雨が降っていた。


土砂降り雨の中、一人の男が傘も差さずに立っていた。


彼の目の前には、墓標がある。



それは彼の大事な大切な愛しい人の、墓だった。


それは彼の目の前で死んだ、恋人の墓だった。



彼は墓石を優しく撫でる。


そのときの彼の顔は、とても穏やかだった。



「―――」



彼がぽつりと言葉を放つ。


それは眠っている恋人の名前だった。



彼は墓石から手を離す。


彼は懐から銃を取り出す。



何の迷いも抱かせない動作で、彼は自分のこめかみに銃口を向けて。そのまま引き金を引いた。


当たり前のように銃声が鳴り、当然のように銃弾が発射されて。



必然のように彼は死んだ。





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『命』を失った『ふたり』