「………はぁ」
「…骸さん、何で柿ピーがあんなアンニュイなんですか?」
「おや犬。よくアンニュイなんて単語知ってましたね。今夜は赤飯かな?」
「あれ? 何でオレ馬鹿にされてるの?」
「……………はぁ」
「―――じゃなくて。なんで柿ピーはさっきからあんななんですか?」
「あんな、というと?」
「だから、なんで柿ピーはさっきから窓の縁に肘置いて頬杖付いて遠い眼して乙女顔負けな溜め息付いてんですかってことですよ!!」
「はっはっは。状況説明感謝致しますよ犬。台詞だけだとどうしても描写に苦労しますからね」
「そんな裏ネタはどうでもいいんです! それよりも柿ピーの身に一体何が!?」
「ああ、あれはただの恋煩いですから。気にしないでも良いですよ」
「…は? 恋……?」
「ええ…あ、犬には少しばかり難しかったですかね。恋煩いというのは…」
「いやそれくらい知ってますよ! で、相手は誰なんです! まさか二次元じゃないですよね?」
「いえ、並盛中の三位くんだそうですよ」
「へ…? それって……」
「ええ男の子ですね。しかしどんな恋愛もその人の自由です。茨の道でしょうけど応援…って、犬?」
「うぅ…」
「犬? 相手が男の子というショックは分かりますが、しかし柿も…」
「柿ピーがリアルの人間に興味を持つなんて、今夜は赤飯だ!!」
「―――えぇそうですね。今夜は赤飯二倍です。忙しくなりそうですね」
「…………………はぁ」
「…ここって。なんなの」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
これが黒曜ですよM・M。
「…それで、相手はどんな奴なんです?」
「何の話ですか?」
「柿ピーの想い人の話です」
「おや犬。想い人なんて詩人みたいな台詞、貴方には似合いませんね。今夜は晩御飯抜きです」
「あれ? 何これ虐め? ていうか虐待?」
「まぁそれはともかく柿の想い人ですね。バーズの鳥が撮ってきたのがありますので見てみましょうか」
「はぁ―――――ってっ!?」
「どうしました犬? そんなに画面に噛り付いて。僕が見えないじゃないですか」
「…………………………」
「犬? 犬どうしましたか? 何か不審な点でも?」
「―――――骸さん…」
「はい?」
「三位の奴の名前…何ていうんですか?」
「えっとですね、獄寺…隼人くん――ですね」
「ごくでら…ごくでら、はやと……」
「―――犬?」
「ちょっくら柿ピーに手袋投げてきます」
「あ、犬―――…行ってしまいました」
「…放っといていいんですか? 骸さん」
「おやM・M。…いえ、僕はこういうのは許せないたちですから。ちゃんと制裁は加えますよ」
「…一体、どんな?」
「気になりますか?」
「そりゃあ…」
「ええ、犬にはおやつ抜きの刑です」
「………はぁ?」
「犬がヨーロッパの決闘法を知っていて、しかもそれを決行するなんて許せません。少しばかり厳しい気もしますがこれも犬のためです」
「え、いや…仲間同士の決闘の方は…?」
「え? 一体それのどこがいけないんですか?」
「………もういいです」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
もう帰ろうかしら…
「―――ぐ…」
「気付いたか、少年」
「な、テメー…ぅ………」
「あまり無理をするな。…というか、オレの鋼球を喰らってよく話せるな」
「……? あんた、さっきとなんか違うな」
「―――そうだな」
「……………」
「……………」
「………なぁ、若いの…」
「んー? 何だよオッサン」
「一つ、訊ねたい事がある」
「…オレに、答えられることなら」
「―――あの、銀髪の少年…」
「獄寺が、どうかしたのか?」
「…獄寺、か……そういえば柿と犬がなにやら騒いでいたな」
「言っとくけどオッサン。獄寺は先約付きだから、今更手は出せねぇぜ?」
「おや、そうなのか?」
「ああ、そうなんだ」
「しかし―――知ってるか? 欲しいものは力尽くで奪うのがマフィアだ」
「獄寺は、渡さねぇよ」
「そんな台詞は、オレを倒せるようになってから言うがいい。オレごときにやられているようじゃ、この先も護れないだろうさ」
「………ああ、そうだな」
「なに、その若さであれだけ出来ればオレなんてあっという間に追い抜くさ」
「当たり前だ。ツナに出来てオレに出来ないわけがない」
「…あれ? 何この子の年不相応な黒いオーラ」
「んー? なんか言ったかオッサン」
「い、いや…それにしても、獄寺とやらもそんなに思われて幸せ者だな」
「よせって。今のところ獄寺はツナのだし」
「……………ん? 待て、さっきお前先約付きだから手は出せぬと…その先約とはお前ではないのか?」
「だったら良いんだけどなー、残念ながら今のところツナだ」
「…今のところ?」
「っそ、まぁ最後に勝つのはオレってことで」
「いやいやお前、さっき言ってる事と矛盾してないか? 今更手は出せないのではなかったか?」
「あっはっは。なに言ってんだオッサン。オッサンがさっき言ったんじゃねぇか」
「………ぬ?」
「欲しいものは力尽くで奪うのがマフィアだって」
「………」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
でもオレマフィアじゃねえけど。まあいいか。
「あの二人を瞬殺とは…流石だな雲雀……」
「キミが弱いだけでしょ。全く、そんなに怪我して――」
「あ? てめーがオレを心配するなんて一体どういった風の吹き回しだ?」
「五月蠅いな…どうだって良いだろう」
「へーへぇ。…っ、いて…」
「無理して立とうとしない。傷が開くでしょ?」
「うるせぇ…こんな所で寝てるわけにはいかねーんだよ。……10代目の、所に…」
「こんな時でも"10代目"? 全く、キミは本当に馬鹿だね」
「…何とでも言え。……っ」
「良いから、キミは寝てなよ」
「てめーはどこに行くんだ?」
「あの骸って奴の所に。借りを返しに」
「…待てよ」
「――何?」
「オレも、連れてけ」
「お断り」
「雲雀…っ」
「役立たずを連れて行く趣味はないの」
「―――ここに、桜クラ病の所詮薬がある」
「へぇ…それで?」
「これやるから。……連れてけ」
「キミは本当に取引が下手だね。それを僕が奪っちゃえば、それで終わりなのに」
「――雲雀」
「………」
「頼む…」
「…全く、キミは本当に……馬鹿だ」
「………」
「良いよ。貸し借りは作らない主義だから。連れてってあげる」
「―――っ!!」
「礼はいらない。…それよりも―――」
ガバッ
「…ん?」
「薬…口移しで飲ませてもらおうかな?」
「は!? ちょ、やめ…っのわ―――!!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
いただきます。
「うぐー…」
「気付いたか、犬」
「んあ…あぁ、柿ピーもやられたんだ…」
「有無を言わせずな…凄まじかった……」
「そりゃ、好きな子の前だと良いところの一つでも見せたいんじゃん?」
「…そうか、やっぱりあの二人はそんな関係なのか……」
「んにゃ。それは違うっぽい」
「…? どういう事だ?」
「あいつ喧嘩ランキングは三位でも、アイドルランキングは一位だったから」
「そうなのか…まぁ、あれほどの容姿だとな」
「外見もさることながら、天然な性格で男女問わずのアイドルだそうだ」
「―――天然。萌えだな」
「柿ピー? 戻ってこーい?」
「…ああ、するとそうか、まだオレにもチャンスはあるか」
「オレにもな」
「お前には負けん。というか犬。お前よくもこれからって時に邪魔してくれたな」
「ああ、柿ピーの視線が痛いよ。人間変わる時は変わるんだな…」
「そもそもお前さえ来なければ今頃…」
(あーもしもしすみません、柿、犬)
「あれ? 骸さんの声だ」
(少しばかりピンチなので、お二人の身体憑依させて下さいませんかね)
「すいません少し待って下さい。今犬と大事な話してるんです」
(おや柿が反論するとは珍しいですね…もしかして、あの三位くんの事ですか?)
「そーなんですよ骸さん。柿ピーったらあの三位にべた惚れで」
(うーん、困りましたねー…実はですね、僕も彼のこと気に入っちゃいまして)
・・・・・・・・・・。
「「―――はいっ!?」」
(いやー、あの色気、たまりませんねー。あ、僕結構本気ですよ?)
「ちょっと待って下さい! 駄目ですよ骸さん!!」
「オレだって本気なんです。一度で良い、チャンスを下さい!」
(そうですか? そこまで言うのでしたら…そうだ。ではお二人、今から走ってここまで来て下さい)
「「………はい?」」
(先に来た方にチャンスを与えます。ではスタート!)
「いえ、オレたちけっこーぼろぼろで…骸さんが憑依してくれないんですか?」
(お二人の決意を試させてもらいます。あ、あまりにも遅かったら二人とも失格です。彼は僕の物ということで)
「「―――――!!」」
―――ダッ
その日。
彼らは世界記録を更新した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
待ってろオレの獄寺隼人…!!