キミはいつでもオレの傍にいてくれた。
辛いときも。
苦しいときも。
いつだって、支えてくれた。
だから、今度は、オレの番。
もうキミを離さない。
一生、傍にいる―――――
「いってきまーす!!」
オレの名前は獄寺隼人!!
10代目とリボーンさんの間に生まれた一人娘だ!!
並盛中学校2年A組所属、成績トップ!! 趣味はピアノ!!
今日も今日とて元気に登校!! でも今日はちょっと寝坊しちまって食パンをくわえて絶賛全力疾走中!!
さあ! あの十字路を越えれば並中はすぐそこだ!!
と、十字路の曲がり角のところで誰かが飛び出してきやがった!
当然よけきれず、オレとそいつはぶつかる。
ドン!!
「ってぇー…何しやがんだ!! って、なんだ、雲雀か」
「ああ、ごめん」
飛び出してきたのは風紀委員長の雲雀恭弥だった。一応オレの知り合い。
ぶつかって倒れたオレの上に雲雀は倒れていた。雲雀の手がオレの手首に重なっている。
「………」
「ん? なんだよ。どうした?」
雲雀が黙ってじっとオレを見ている…なんだ? 視線はオレの目の下…鼻? …いや、唇? に向いている。食パンの食いかすでも付いているのだろうか。
「…隼人……」
「ん?」
雲雀がゆっくりと顔を近付けてくる。なんだ? 一体どうしたんだ?
「ひば…」
り。と言おうとしたところで雲雀が消えた。吹っ飛んだ。
代わりに10代目が現れた。目が血走っていて呼吸が荒い。…ふむ。どうやら全速疾走して雲雀を横から蹴っ飛ばしたようだ。流石10代目。ワイルドだ。
10代目が倒れているオレに手を差し伸べてくれる。オレはその手を取って身を起こした。
「ああ!! 獄寺くん!!」
「10代目?」
掴んだ手を引っ張られてそのまま抱きしめられる。
「大丈夫!? 無事!? 雲雀さんに何されたの!? このまま警察行く!? 裁判起こす!?」
「10代目。落ち着いてください」
オレは10代目に事の顛末を話した。走っていたら、ぶつかって二人とも倒れたと。
「…そうだったんだ…」
「はい。そうです」
「でも雲雀さん…絶対キスするつもりだったた……」
「はい?」
よく聞こえなかった。
「なんでもない…とにかく! 今から二人で学校行こう?」
「そうですね!!」
オレと10代目は手を繋いで歩きだした。
「そういえば10代目、食器を片付けていたのでは?」
「リボーンに任せてきた!!」
なるほど。
一方、その頃のリボーン。
「…ち。ツナの野郎。オレに面倒ごとを任せやがって…」
キュッキュといい音を立てながら食器を洗うリボーン。
食器を片付けると、次は掃除。小さな身体で掃除機を悪戦苦闘しながら操る。
「…ふ。完璧だな」
掃除し終わった部屋を見てリボーンは満足気に笑った。
学校に着いた。
途中まで全力疾走していたおかげで遅刻は免れたようだ。
通路を歩いていると向こう側から白衣を着た男がやって来た。シャマルだ。
「出たなこのセクハラ親父!!」
「よう、シャマル」
「おう隼人。今日もいい身体してるな」
シャマルは相変わらずだ。
「見るな! 獄寺くんが汚れる!!」
10代目がオレの前に出る。
「相変わらずだなー、ボンゴレ坊主」
シャマルが笑いながら近付いてくる。10代目がオレを引き寄せる。
シャマルはオレの横を通りすぎ―――
「隙あり!!」
「ん?」
「な!?」
オレのスカートを思いっきりたくし上げた。
「白ーーーーー!!!」
そう叫ぶとシャマルは走って去っていった。10代目が慌ててオレのスカートを戻す。
「あ…あのクソ親父…いつか絶対殺す……!!」
「まあまあ10代目」
「なんで獄寺くんあんな奴を庇うの!?」
「まあ…シャマルのあの行動は昔から変わりませんし」
スキンシップのようなものですよ。と10代目に説明するが…
「う…うう…!!」
10代目は目から滝のような涙を流した。
「じゅ、10代目!?」
「獄寺くん…そんな昔からシャマルに陵辱を受けてたんだね…それが当たり前と洗脳されてたんだね…その時にオレが、オレがついていたら…!!」
10代目が泣きながらオレを抱きしめた。
「もう大丈夫だからね!! オレが守るからね!! 一生離さないからね!!」
「10代目………はい。ありがとうございます…」
オレも10代目を抱きしめ返した。
「………何やってんだ? お前ら」
「あ…ディーノさん」
「よう、跳ね馬」
気付けば呆れた顔で跳ね馬のディーノがこちらを見ていた。
「授業始めるぞー。さっさと教室に入れー」
「おう。…さ。10代目。行きましょう」
「うん、うん…」
10代目を促し、教室に入る。
「…どっちが保護者だよ」
そんなディーノの呟きが聞こえたような気がした。
授業は正直退屈でつまらない。ノートを取る気も起きない。
おひさまの光がぽかぽかと身体に当たり、眠気を誘う。
…………………。
……………。
………。
と、背中に何かがぶつかった。
「ん?」
折りたたまれた紙が落ちていた。なんだ? 拾う。
紙を広げる。
「獄寺の三サイズは?」
「………」
自分の三サイズか。しかし残念なことにオレは自分の三サイズなど知らない。
オレは隣の10代目に話しかける。
(…10代目)
(ん? 何?)
(オレの三サイズ、知ってますか?)
「ぶーーーーー!?」
10代目が吹き出した。
「つ、ツナ? どうした?」
跳ね馬が心配そうに声かける。
「な、なんでもない、なんでもないです……」
10代目がこちらを向く。
(ど、どうしたの、急に…)
(いえ…こんなものが先程…)
と、オレは10代目にメモを渡す。
10代目はメモを見て、一瞬で破り捨てた。
(10代目!?)
10代目の目は何故か怒りで満ちていた…
こ、怖い…
ガクガク。
オレは震えた。
授業が終わったあと、10代目は何故か山本をぶん殴っていた。
さて、次の授業は体育だな。更衣室に行くか。
「あ、獄寺くん更衣室に行くの? 一緒に行こうー」
「おう笹川。行くか」
「…私も…」
「ああ」
クロームと笹川と一緒に移動した。
更衣室に入り、着替える。
「…獄寺くんって、肌きれいだよねー」
「そうか?」
「うん。…それに……」
クロームがつん、とオレの胸をつつく。
「胸も…きれい……」
「そうか。ありがとうな」
「ねえ、今度みんなで銭湯に行かない?」
「私…いい銭湯知ってる…割引券も持ってる…」
「そうだなー…今度行くか」
きゃー! と笹川が歓声を上げる。クロームも嬉しそうだ。
「洗いっこしようねー!!」
「お風呂上りのマッサージ機は…格別」
はしゃいでいる笹川とクローム。
楽しそうだ。
その日の授業はバレーボールだった。
「獄寺くん! そっち行ったよ!!」
「任せとけ!!」
コートから飛んでくるボール。それをアタックしようとジャンプする…と。
カシャカシャカシャカシャ!!!
「ん?」
シャッターを切る音が何度も聞こえた。
アタックしたあと見てみればカメラ構える男子が沢山。
なんだ? 写真部か?
一呼吸おいて10代目がやってきてカメラを蹴って踏みつけていた。悲鳴が上がる。
「馬鹿野郎!! 男ならカメラなんて惰弱なもの使わず脳内写真で永久保存しろ!!」
10代目はよく分からないことを叫んでいた。
そんなこんなで授業が終わった。帰り支度をする。
「10代目。帰りましょうか」
「ああ、うん」
「獄寺くん、またねー!!」
「おう、じゃあな笹川」
笹川に手を振り、教室から出ようとしたところで…誰かとぶつかる。
「ん?」
「こんにちは。隼人くん」
骸だった。他校の生徒だってのになんでこんなところにいるんだろう。
「授業が終わるまでずっと張り込んでました」
「そうか。余程お前は暇なんだな」
骸がオレの背に手を回し、力を入れる。
「ああ…隼人くん。今日も美しい。愛らしい。いい香りがする」
骸がオレの髪に顔をうずめる。
と、後ろから手が伸びてきて骸の肩をとんとんと叩く。10代目だった。10代目は笑顔で、
「ご・く・で・ら・く・んから手を離さんかいボケーーー!!!」
と言って骸を思いっきりぶん殴った。
しかし骸はオレを離さず、結果オレも一緒に吹っ飛んだ。
「ご、獄寺くん!!」
「クフフ。大丈夫ですか? 隼人くん」
「いってー…」
起き上がろうとするが、骸が手を離してくれない。
「…おい。離せ」
「クフフ。嫌です」
面倒くせぇ…
と、後ろから強い力でひっぺがされた。
10代目だった。
10代目に抱きしめられる。
「これはこれは。お父義さん」
「誰がお父義さんだ!!」
「娘さんをお借りしてもいいですか? 放課後デートしたいんです」
「絶対に許さん!!」
「じゃあ一緒に帰りましょう。送りますよ」
「駄目!!」
「クフフ。取り付く島もありませんねぇ」
「行こ! 獄寺くん!!」
「あ、はい!」
オレは10代目に引っ張られてその場を後にした。
立ち止まる機会を失ったのか、オレたちはずっと走り通しだった。立ち止まったのは下駄箱で靴を履き変えた時ぐらいだ。
急いで坂道を駆け上がる。走って。手を繋いで。
結局自宅玄関まで全力疾走していた。玄関で息切れを起こし、手を床につく。
「ん? 帰ってきたのか」
エプロン姿のリボーンさんが出迎えてくれた。
「た、ただいま帰りました…リボーンさん」
「そんなに急いでどうしたんだ? 誰かに追われたのか?」
「いやぁ…今日も今日とて変態共に追われてさー…大変だったわ」
そうだったのか。
「まぁ、いい。手を洗ってうがいしてこい。おやつを準備しよう」
「今日のおやつはなんですか?」
「ミルクレープだ」
おやつは毎日リボーンさんの手作りだ。とても美味い。
オレは走ってきた疲れも吹き飛んでうきうきと洗面台に向かった。
テーブルの上には既におやつのミルクレープと紅茶が用意されていた。
「いただきます」
フォークで一口大に分け、口に入れる。
「んんーーー」
おいしい。
思わず感嘆の声が出る。
幸せだ。
「………」
と、視線を感じ、見れば10代目とリボーンさんがオレを見ていた。にこにこと笑いながら。
「どうしたんですか?」
「なんでもないよ」
「なんでもねーぞ」
そう言って二人も食べだした。
「?」
オレにはよく分からなかった。
「さて、じゃあオレは飯でも作るかな。今日はハンバーグだぞ」
「あ! オレも手伝います!!」
「え…?」
「む…」
二人が同時に固まった。どうしたのだろう。
「いや…獄寺。気持ちは嬉しいが…」
「オレ…いつもリボーンさんに家事を押し付けてばかりじゃないですか。だからオレ…リボーンさんのお役に立ちたいんです!!」
「………獄寺…」
暫し見つめ合う、オレとリボーンさん。
「……わかっ…」
「獄寺くん!!」
リボーンさんが何か言いかけ、それを遮るように10代目が声を張り上げる。
「はい。なんでしょうか10代目」
「べ、勉強教えて!!」
「勉強…ですか」
「そう! 宿題も出たし! 獄寺くんに見てもらいたいんだよ!!」
「そういうことなら…分かりました!!」
オレは準備をすべく後ろに置いてある鞄に手をかけた。
後ろで「己を見失うなリボーン!!」という声が聞こえたような気がした。
「どうかしましたか?」
「なんでもない!!」
リボーンさんは食器を持って台所へ向かっていた。
「じゃあ、勉強しましょうか」
「ああ、うん。よろしく。獄寺くん」
「はい!」
10代目の隣に座る。ノートを広げる。
「まずは宿題から片付けちまいましょうか」
「………」
「? 10代目?」
見れば、10代目はノートではなく何故かオレの方を見ていた。
「どうしました? オレの顔に何かついてます?」
「あ、い、いや、なんでもない!」
そう言うと10代目は慌ててノートに視線を移した。
…?
台所から「若いな」って声が聞こえてきた。
それからオレ達は宿題を片付けて復習して予習してリボーンさん手作りの晩御飯を食べた。相変わらずリボーンさんの食事は美味しかった。
食後まったりとしていると、リボーンさんから声が掛かった。
「獄寺。風呂に入ってこい」
「はい」
オレは立ち上がる。
「10代目」
「うん?」
「一緒に入りましょう」
にっこり笑顔でそう言ったら、10代目は吹き出した。
「ご、獄寺くん!?」
「はい?」
なにやら10代目が慌てている。
どうしたのだろう。何か問題でもあるのだろうか。
「獄寺」
リボーンさんに声掛けられる。
「はい」
「ツナは置いといて、オレと一緒に入るか」
「そ、そうしなよ獄寺くん!!」
「はぁ…」
10代目に背中を押され、オレとリボーンさんは風呂場に向かった。
風呂に張られたお湯の中にオレとリボーンさんは身を沈めさせる。
…気持ちいい。
湯船の中で身体を温める。そうしていると、リボーンさんがオレを見てきた。
「獄寺…」
「? はい?」
「お前、また胸がでかくなったんじゃねーのか?」
「そうですか?」
特に意識したことなかった。そういえば最近、ブラが少しきつくなってきたような気もする。
「今度の休み、新しい下着でも買いに行くか」
「そうですね」
「ツナには内緒な。あいつ連れていくと同じもんしか買わねーから」
「オレはそれでもいいんですけどね」
そんな話をしながら、風呂から上がる。
「リボーンさん、背中流しますよ」
「そうか」
リボーンさんの小さな背中を洗う。
…こんなに小さいのに、家事を完璧にこなすなんてやっぱりリボーンさんは凄い方だ。
「いつもご苦労様です」
「お前がそう言ってくれるだけで十分だ」
いつも渋くて素敵だなぁ、リボーンさん…
オレは胸キュンした。
「………獄寺」
「はい?」
「今………幸せか?」
オレの手がぴくりと跳ね、一瞬止まる。
「…幸せですよ」
オレは笑顔で答えた。リボーンさんはそうか、とだけ返した。
九時になる。あっという間に寝る時間だ。一日は早い。
「寝るか」
「寝ようか」
「眠りましょう」
大きな布団を敷いて、三人で入る。
リボーンさんを抱きしめて、10代目と向き合う。親子三人、川の字だ。
程なくして、二人の寝息が聞こえてきた。
「………」
オレは薄目を開けて、二人を見つめる。
昨日と同じ今日。今日と同じ明日。
ずっと変わらない、平穏な日々。
風呂場で、リボーンさんに言われた台詞を思い出す。
幸せか、と。
…オレは幸せです。幸せですよ、リボーンさん。
こんなにもオレによくしてくれる、二人がいるのだから。
だからオレは幸せなんです。
―――たとえこれが、偽りの日々だったとしても。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
幸せなんですよ。
リクエスト「ツナ父シリーズ?大好きです(^^)」
リクエストありがとうございました。