拝啓、10代目。
お久し振りです。連絡を取るのが遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
そちらはどうですか? 日々快適な生活を過ごしていることと思います。ってか、そうじゃないとオレが許しません。
だって貴方はこれまでずっと厳しい鍛錬や辛い決断をしながら日々を乗り越えてきたのですから。今このときぐらい休めないなんて嘘ですよね?
貴方は毎日を笑いながら「楽しい」とすら仰っていましたけど、それだけではないこともオレは知っていました。
オレはそんな貴方の負担を少しでも和らげることが出来ていたでしょうか。
オレは貴方の右腕として、満足のいく働きが出来ていたでしょうか。
オレは誰もが知ってる通り、空回りしてばかりで周りに迷惑を掛けていましたから…少し心配です。
でも、そちらには他にも沢山ボンゴレの人間がいますから、オレ一人ぐらいが欠けても大丈夫だとも思ってます。
…意外ですか? オレだって10年もあれば多少は成長するんです。認めるべき奴は認めてます。
無論10代目に何か粗相を仕出かしたらオレが殺すから覚悟しておけ。とお伝え下さい。
…ああ、いえ。10代目にそんな小間使いを頼むわけにはいきませんね。後で個別にオレから手紙を書いておきますので。
……手紙を書き終わったらオレは町へ出ます。そこで用事があるんです。
そこでの用が終わったら………
「終わったら…」
そこでオレは一呼吸置いた。…オレはどうしたいと思った?
皆のところへ、帰りたいと思います。
…それが出来れば、どれほどいいか。
そうすることが出来れば、どれほどいいか。
けれどそれは出来なくて。
オレは皆のところへ帰れなくて。
嘘でも付こうかと思ったけど、でもそんなことに意味なんてきっとなくて。
でもそれを言うなら、この手紙にこそ意味がなくて。
…けれどやっぱり嘘は付きたくなくて。
…そこでの用事が終わったら…オレはまた別の仕事をしに行きます。
みんなと会えるのは、もう少し先になりそうです。
ですから10代目、それまでどうか。他のみんなと元気にお過ごし下さい。
敬具.
どうか元気でお過ごし下さい。
…これほど滑稽なものもそう他にないだろう。―――死者へ向けての手紙にそんなことを書くなんて。
10代目はオレがボンゴレを出ているときに撃たれて死んだ。
10年来の付き合いの馬鹿はオレの目の前で切られて死んだ。
10年来の腐れ縁のあいつは敵と合い討って死んだ。
みんな死んだ。
生まれたときからの付き合いの医師は病気で死んだ。
生まれたときからの付き合いの唯一の肉親は毒殺された。
全員死んだ。
兄弟のような仲だった泣き虫は仲間を守って死んだ。
顔を合わせればうるさく怒鳴りあってた兄貴面は単身敵地に乗り込んで死んだ。
最初は敵だったあのマフィア嫌いは裏切り者の嫌疑を掛けられ殺された。
そいつの従者は自殺した。
―――オレもそう出来たら楽だったのに。
同盟ファミリーのボスは部下の為に命を投げ出し。
生き延びた部下はボスの仇を取る為命を投げ出し。
情報屋の子供は敵に捕まり拷問の末死んで。
そしてあなたは、オレを庇った。
…嘘ですよね? あなたまで死んでしまうだなんて。
そりゃあこんな職業です。いつ誰が死んだっておかしくもないでしょう。けれど…けれど認めたくない。
オレはあなたをおぶって走りました。
オレの背に伝わる湿るものは、どうか汗でありますように。
オレの目に見える赤いものは、どうかオレの身体から流れていますように。
リボーンさん? リボーンさん起きていますか? 起きていますよね? 寝ないで下さいよね?
駄目なんですよこんなときに居眠りなんかしちゃあ。…そうだ。リボーンさん聞いて下さいよ。
オレ、10代目に手紙を書こうかと思ってるんです。それと他の奴らにも。今から書く内容言いますから、おかしなところがあったら訂正して下さいね?
―――拝啓、10代目……
そうしてオレは書く手紙の内容を言ったのに。リボーンさんは一言も口を挟んではくれなくて。
…完璧過ぎて突っ込み所がありませんでした? それは失礼を致しました。
リボーンさん? リボーンさん寝ないで下さいよ。起きて下さい。寝るぐらいなら起きて走って。寝たのなら多少は体力回復したでしょう?
「リボーンさん?」
リボーンさんは既に物言わず。
オレがおぶったときにはまだ微かに残っていた体温も今では欠片も残ってはなく。
遠く遠く、それでも聞こえていた心音も―――聞こえなくなっていた。
オレは手紙に続きを足す。
―――追伸。
リボーンさんが、今そちらへ向かいました。
リボーンさんも迎えて。みんなで楽しくお過ごし下さい。
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オレの声に出しただけの手紙は、みんなの所へ届いただろうか?