もしも、こうなることが初めから分かっていたのなら。


貴方は、オレたちと出会うことを拒否しましたか?



初めから



貴方が全てを信じられなくなったのは、いつからだっただろうか。


初めは名も何も知らないような奴ら、一目見ただけの人間。


オレたちは、最初はそれぐらいの方が長生き出来ると。むしろ歓迎すらしていたが。


その範囲がだんだん、だんだん狭ばってきて。


やがて付き合いの悪いファミリー、そして新たに入ってきた仲間すらも疑い出して。


オレたちが貴方の異変に気付いたときには、もう手遅れで。


貴方は狂気に取り憑かれていた。


貴方の眼には、きっと誰もかもが敵に見えたんですね。


貴方はとうとう、10年の付き合いのオレたちでさえ疑いだして。


貴方は何かを叫びながら、オレを殴って。押し倒して。


その眼にオレを映していても、貴方はオレを理解出来ていないんですね。



―――ねぇ、10代目?



もしも、こうなることが初めから分かっていたのなら。


貴方は、オレたちと出会うことを拒否しましたか?



―――したでしょうね。



だって。もしもオレ達と出会わなければ、貴方はきっとマフィアになんてならなくて。


普通の生活をして、普通の結婚をして、普通の幸せをかみ締めて。



―――普通に、死んでいったのでしょうから。



少なくとも、狂い死になんてことにはならなかったでしょうから。


……でもね。10代目。


オレは後悔してませんよ。


…貴方と出逢ったこと、後悔してませんよ。


オレは貴方と出逢って、今まさに貴方に殺されんとしていますけど。


それでもオレは、オレにとっては、貴方に出逢えなかった人生の方がよっぽど無意味ですから。


……でも、そうですね。悔いがあったとするならば。


こうなってしまうまで、狂ってしまった貴方に気付けなかったこと。


そしてそれを救えなかったこと。


………ですかね。


気が付けば、貴方は銃を構えていて。


でもその手は震えていて。


ああ、怖いんですね。10代目。オレが。この世が。全てが。


オレはそっと震える貴方の手をオレの手で包んで。銃口を真っ直ぐオレの方へと向けて。


一瞬びくっと跳ねたそれは、けれどすぐ収まって。


――その眼が。一瞬だけオレを見てくれたように感じたのは……オレの思い上がりですかね。



10代目―――



貴方がもうオレを見てくれないのなら、オレが貴方を見ますから。


……もうすぐ、それすらも出来なくなりそうですけど。


オレは真っ直ぐに貴方を見て。


「10代目――」


恐らく、最後になるであろう言葉を吐く。


「今まで、有難う御座いました」


貴方の指が、弾けたように引き金を―――――





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響く銃声。そのあとに残るのは…