IF...



そういえば、いつもオレからだったよね。


何がって? ―――キスだよ。


もう何度もしてるってのに、いつもオレから。


ああ、そういえば告白もオレからだったね。


キミはその想いをオレに告げるつもりがないようだったから、業を煮やしたオレが告白して、そのままキスまでしたんだよね。


キミは物凄く顔を真っ赤にさせてさ。いやもうあの可愛さったら。


―――――まぁともかく。今の今までキミはオレにキスすることなんてなかった。


―――だから。



「―――10代目」


「え? どうしたの獄寺くん。忘れ物?」


「忘れ物……は、はい。忘れ物です」


「? 何忘れたの? わざわざ戻ってくるって事は、大事なものなんだよね」


「は、はい。その……その」


「………?」


「10代目!!」


「え?」



―――――ちゅっ



「―――っ!?」


「その…い、いってきます!」


「あ、獄寺くん!」


「はい!!」


「―――いってらっしゃい」



だからあの時、キミがオレにキスしてくれたのが物凄く嬉しかったんだ。


……なのに、何故だろうね。


凄く嬉しいはずなのに。


キミがいなくなった途端、いきなり降り出した雨に胸騒ぎがするのは。



それから一週間。


三日で帰ってくるはずのキミから何の連絡もなくて。


ついでに、雨も未だ降り続けていて。


オレは部屋のベッドに寝転がりながら時計を弄くる。


それは、いつだったかキミと一緒に買い物したとき買ったもので。


オレはその時計の分針を戻していく。


たとえそれを一週間分戻したとしても、キミが戻ってくるわけじゃない。


……そんなこと、分かってる……………つもり。


けれどオレはそれを止めることが出来なくて。


部屋でじっとしていることなんか出来なくて。


気が付くと、オレは家を飛び出していた。


肩で息をしながら、辿り着いたのは近くの公園。


…まだ、キミがオレの傍にいたとき、よく話をしたところ。


そう、キミがいなくなる前も、ここで話をしたね。


……ここから見える夕暮れの景色がとても好きだって言ってたね。


だから帰ってきたら一緒に見ようって、約束したね。


時間は夕暮れの時間なんてとっくに過ぎているけど。


それ以前に、未だに雨が降っているから夕日なんて見えやしないんだけど。


「………何やってんだろ、オレ」


傘も持たずに家を飛び出したから、オレはびしょ濡れで。


オレに降り注ぐ雨は冷たくて。吹き抜ける風は寒くて。


けれどオレに、家に帰るなんて選択肢を選ぶことは出来なくて。


………帰りたく、なかった。


だって、家に帰ってもキミはいない。


だったら、何処にいても同じだと思った。だから。


もう眠れない夜はこりごりだった。


電話しても繋がらない。


忘れがちなんだけど、彼はマフィアで。今行っているところはイタリアで。


何の事故に巻き込まれてないなんて保証は何もなくて。


だって一般人だって、いつ何の事故に巻き込まれるか分からないのに。


彼の職業を考えれば事故に巻き込まれる可能性は高くなるのは当たり前で。


オレは不安で不安でしょうがなかった。


不安に押し潰されそうで、もう一歩も歩けなかった。歩きたくなかった。


いつもお傍にいますとか言うくせに。


いつも傍にいたくせに。


どうしてキミは、今オレの傍にいないのさ……


「どうして、ここにいないのさ。獄寺くん……」


ぽつりと呟く。


それに応えるものは、誰もいない。


だって、知ってる。


もう彼が何処にもいないことを、知ってる。


いやな夢を見た。


彼に別れを告げられる夢。


夢だって、その一言で片付けられるはずなのに。


目覚めたとき、オレは泣いていて…


そしてその三日後だった。


彼が帰ってくるはずのその日に、彼の死を告げられたのは。


信じたくなかった。頭のどこかで、夢の通りになってやっぱりと思ってしまう心を認めたくなかった。


けれど日にちが経つにつれ、オレは"もしも"を考えるようになる。


"もしも"この雨が降らなければ、


"もしも"オレがあの夢を見らなければ、


"もしも"――オレがあの時、意地でもキミを引き止めていれば。


キミはオレの隣にいたんじゃないかって。


考えても仕方がないことだけど。


それでもオレは、それをやめることが出来なくて。


気が付けば雨は止んでいて。


夜空を見上げると、雲の間から星が輝いて見えて。


その星の輝きが綺麗で、……夢の中で見た彼を思い出して……オレはまた泣いて。


泣きながら、オレはまたも"もしも"を思い浮かべる。


"もしも"あの日キミがオレにキスしなければ。


"もしも"オレがキミを好きにならなければ。


"もしも"初めから出会わなければ。


もしも……………もしも………





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キミが生きててくれるなら、オレはキミと別れても構わないのに。


タイトルの歌の歌詞を元に。