ある日のこと。


キャバッローネファミリーに、ある客人が現れた。


受け付けたのは獄寺。


「誰だ? ここに何の用だ」


「んー? キミがディーノが言ってた、獄寺隼人くんか?」


「こっちは誰だって聞いてんだよ」


体格のいい男だった。気持ちのいい笑顔を浮かべ、息子がどうのと言っている。


「ああ悪い悪い! キミがあまりにも聞いた通りの人物だったもので、つい。…オレは家光。とあるファミリーの…CEDEFっていう機関の沢田家光と言うんだが…ここのボスに会わせてもらえるか?」


「………分かった。着いてこい」


男…家光の所属を聞き、獄寺はあっさりと家光を通す。その様子に逆に家光が驚く。


「おいおい、そんな、こんなあからさまに怪しい、アポも取ってない男を簡単に通しちゃいかんよ。オレが身分を偽った…たとえば自爆をしに来た鉄砲玉だったらどうするんだ」


自ら言うのは何ではあるが、最もな言い分をする家光に獄寺は振り向きもせずに言う。


「CEDEF…ボンゴレファミリーの門外顧問機関の名称だな。そして沢田家光とくれば、そこのボスにしてボンゴレのNo.2。別名はボンゴレの若獅子だったか?」


「……よく知ってる。情報通ってのは嘘じゃなさそうだ。だが、まさかオレの顔まで知ってたのか?」


「顔までは知らねえし意味もねえ。今や金さえ出せば誰だって好きな顔になれる世の中だ。だが……」


「だが?」


ここで、獄寺はようやく振り返る。その目が家光を射抜く。


「あんたの持つ雰囲気はあのボンゴレ10代目に通じるものがある。身に纏う空気は誰にも変えられない。だからあんたは本当にあの沢田家光で、あの人の父親なんだろうよ。…これがあんたを通す理由だ。文句あるか?」


「…いいや、ない。ああ、なんでキミはボンゴレのファミリーじゃないんだ! いいや、キミみたいな優秀な子がどうしてどこのファミリーにも相手にされなかったんだ! あのスラムのマフィアの目はみんな節穴だ!!」


大袈裟に嘆く家光をおべっかとして受け取ったのか、獄寺は無言で進む。愛想のない獄寺に気を悪くする様子も見せず、家光は話し続ける。


「そういえば獄寺くんはうちのせがれと知り合いなのか? そうなら是非友達になってほしい。あいつは優柔不断で面倒くさがりで勉強も運動も駄目で好きな子をうっかりストーキングしちゃう子なんだが、でも優しい奴なんだ」


自分の息子だというのに随分ないい草だった。いや、この場合は自分の息子だからこそ、だろうか。


「友達…ね。生憎オレには今までそういう付き合いをしたことのある知り合いはいない。だからどう接すればいいのか分からない。…そしてそれ以前に、未来のボンゴレのボスの友人に値するような地位にもオレじゃ就けねえだろうぜ」


「ツナが初めての友達になるわけだな? 体当たりで接して大丈夫だ。そして獄寺くんなら立派な役どころに就けると思うし、それ以前に友達に地位なんて関係ない。好きな時に頼って大丈夫だ」


「そして好きな時に頼られろって?」


「もちろん嫌なら断ってもいい。友達ってのは対等なものだからな。無論頼みを断った程度で関係が切れるはずもない」


そこまで聞いた獄寺は、おかしそうに笑った。


「やっぱり、あんたあのボンゴレ10代目の親父さんだな」


「ん?」


「ボンゴレ10代目からも、以前まったく同じことを言わたぜ」


「……オレがお節介を焼く間でもなかったか」


あいつ奥手だったはずなんだけどな。と家光は頭を掻いた。


獄寺はディーノの主務室のドアを開く。


「ボス、客人だぜ」





獄寺は家光を部屋まで通すとさっさと仕事に戻った。


ボス同士の会話を聞く気は獄寺にはない。あの部屋にはロマーリオもいたから護衛としている必要もない。


それから暫くして、獄寺はディーノとばったり会った。


「隼人!!」


「ん? なんだよ。話はもう終わったのか?」


「日本に行くぞ!!」


獄寺はデジャヴを覚えた。





家光も一緒に日本まで行くらしい。息子であるツナに会うのは随分と久し振りだと獄寺に話していた。


なんでも、今まで妻子に己の本当の職…裏稼業であることは黙っていたらしい。そして妻にはこれからも言うつもりはない。流石に息子のツナには告げるつもりらしいが。


…ボンゴレ10代目候補は、何人もいた。だが全員暗殺された。


…平和な国で飽和に暮らしていた、ボンゴレ9代目の孫息子を残して。


恐らくは、彼は本来ならばマフィアになんて誰もならせる予定じゃなかった。だからこそ祖父や父が裏稼業を営んでいながらも何も知らず育てられた。


(それが…他に跡継ぎがいないと見るやいきなりマフィアへの道と進ませる…か)


獄寺は自分とまったく違う同い年の若き10代目を思い出し、少し同情した。


同情して…しかし、思い直す。


(いや……違うか? ボンゴレ9代目は穏健派なんだろ? なのにあんな子供をいきなり殺し殺されの世界に持っていくか?)


ならば、と獄寺は考える。自分の仕入れた情報が正しいのなら。跡継ぎ以上の意味があるとするならば。


(…まさか、あのボンゴレ10代目の存在に気付いた他の人間に殺されないよう、あえてその道を示したのか?)


わざわざあのリボーンを呼んでまで鍛えて。


陰ながら、あのボンゴレ10代目を暗殺しようとする輩もいるだろう。だがリボーンならば、そんな奴らなど誰にも知られずに返り討ちにすることなどたやすい。


(あるいは…)


ボンゴレ9代目の決断は神の采配と言われている。なら、あの子供こそが真のボンゴレ10代目に相応しい人物…ということになるのだろうか。


「…なんにしても、本人は嫌がってたけどな」


「ん? 何か言ったか獄寺くん」


小さく漏らした呟きが耳に入ったのか、家光が獄寺に尋ねる。


「…なんでもねえよ」


獄寺はそう答え、家光の話の聞き手に専念した。家光は家族の話を楽しそうに語った。


―――獄寺はその話を、眩しそうに聞いている。





長旅を終わらせ、獄寺は数ヶ月振りに並盛の土を踏みしめた。


そしてその並盛は……


「う"お"ぉおおおい! 待ちやがれ!!」


「うわー!!」


「………」


なんか、いきなり襲撃を受けていた。敵であろう奴の馬鹿でかい声がここまで響いてくる。


日本は平和な国のはずなのだが、少なくとも並盛の治安は悪くなる一方のようだ。自分はまったくの無関係と言い張れないのが少し気不味い。


「あの声……」


「よお知らんが、行ってくる!」


「あ、おい待て隼人!!」


ディーノの声を背後から聞きながら、獄寺は騒ぎの中心まで走り出す。


「…せっかくの親子の再会なんだ。誰だか知らねーが邪魔すんじゃねえよ」


そんな呟きを風に溶かしながら、獄寺はそのその場所へと走り急いだ。


攻撃を仕掛けているのは長い銀髪を持ち黒衣の服を纏った男だった。襲われているのは一人の少年。それからボンゴレメンバー。一般人も大勢いる。女子供も。


顔をしかめる獄寺。と、不意に銀髪の男がこちらを向いた。


「あん?」


目が合った。嫌な予感。


「なんだあ? ガン付けてくれやがって。なんか文句あんのか!!」


なんだこのチンピラ。


いきなり因縁を付けられて獄寺は辟易とした。


「ご、獄寺くん!?」


ボンゴレ10代目が驚いた声でこちらを見ている。男の目が据る。


「…お前もあいつらの知り合いか。何なんだ一体。オレはただあいつを仕留めればそれでいいってのに」


あいつ…あの額から炎を燃やしている少年か。何なんだはこっちが言いたい。状況が掴めない。あいつはボンゴレ10代目を襲ってたんじゃないのか?


ここで追いかけてきたらしいディーノが獄寺に追いつき、男は逃げた。家光はいなかった。





その次の日、キャバッローネの貸し切っているホテル、その獄寺に当てられた部屋にあるものが届けられた。


それは一つの指輪。


「………?」


心当たりがまったくない獄寺。ひとまず自身のボスに報告しに行った。


「おーい、ボスー」


「ん? 何だどうした隼人」


「なんかこんなのが届いたんだけど」


「ん…? こ、これはボンゴレリング!?」


「ボンゴレリング?」


なんだそれと疑問符を浮かべる獄寺。確か昨日、ディーノがツナに言ってたような。あまり詳しくは知らない。


ディーノといえば獄寺に説明する余裕すらないようで、電話を取り出しどこかへと繋いだ。


「おいコラリボーン! どういうことだ!!」


『なんだ藪から棒に。何の話だ?』


「とぼけんな! 隼人にボンゴレリングを送ったのはお前だろ!! 隼人はボンゴレにはやらんからな!!」


『お前は相変わらず獄寺を束縛してんなー…』


「うるせえ! それに隼人はキャバッローネの人間だ! ボンゴレリングはボンゴレの人間が付けるべきだろ!!」


『ああ、そこについては心配すんな。こっちには既にボヴィーノファミリーのアホ牛がメンバー入りしている。こっちはどこのファミリーのもんでも受け入れる覚悟は出来てるぞ』


「こっちはなんの覚悟も出来てねーよ!! とにかく駄目だ!! 絶対許さん!!」


『分かった分かった。じゃあもうお前には頼まん。…どうせそこに獄寺がいるんだろ? 代われ』


「………」


ディーノは憎々しげに携帯電話を獄寺に差し出す。獄寺は渡された携帯電話を耳に当てる。


「はい。お電話代わりました、獄寺です」


『よお獄寺。お前、ボンゴレの守護者になるつもりはねーか?』


「…ええと、一体何のお話でしょうか。送られてきた指輪と関係があるんですか?」


『ん? なんだディーノから何も聞いちゃいねえのか? 相変わらずへなちょこな奴だ』


言って、リボーンは獄寺にボンゴレリングと守護者について説明する。獄寺は守護者の重大さを手に持つ指輪から感じた。


「…なるほど。お話は分かりました。それで、守護者の件ですが……」


ちらり。と獄寺は隣にいるディーノを見遣る。ディーノは腕をクロスさせてバツ印を作っていた。


そしてその眼はこう言っていた。頼む。行くな。断ってくれ。と。


「………」


『ん? どうした? お前のしたいようにすればいい。ディーノが文句言っても気にすんな』


「………そうですね…リボーンさん、返答の前にひとつ質問してもいいですか?」


『なんだ? 言ってみろ』


「姉貴はボンゴレにいるんですか?」


『そうだな、いるな』


それを聞いた獄寺は、見るもの全てを魅了してしまうような、そんな綺麗な笑顔を浮かべた。


「謹んで辞退させて頂きます!!」


「隼人!!」


『ち…!!』


ボンゴレの守護者に選ばれたというのは光栄だが、その場にあの姉がいるとなれば話は別だ。


獄寺はその話を蹴った。





話は蹴ったが、それならそれでボンゴレリングを返しに行かなければならない。


獄寺は沢田家へ赴く。ディーノも着いてきた。


「…部下のお使いにボスが付き添うなんて、聞いたことないぜ?」


「心配なんだ」


「心配ねえ…このボンゴレリングか? 確かに昨日の奴やその仲間が襲ってくるかも知れねえな」


「いやそうじゃなくて、いやそれもあるんだけど、でもそれだけじゃなくて」


「何なんだよ」


呆れる獄寺に必死なディーノ。しっかりものの弟と間抜けな兄。恐らく誰も、二人がボスと部下の関係だと言っても信じない。逆だと思われる。


「隼人は押しに弱いところがあるから…もしかしたら気付いたら守護者になってるかも知れないと思うと…!!」


「なんだその話か。まああのリボーンさんに見込まれたのは嬉しいんだけどな。姉貴がいなかったら引き受けてたかも」


「ありがとう!! 毒蠍生まれてきてくれて本当にありがとう!!!」


ディーノはこの場にいぬビアンキに心の底から感謝した。獄寺がジト目でディーノを見る。


「姉貴の話はやめろ。…そういえば、昨日の奴は何なんだ。お前の知り合いか?」


「ん? ああ、あいつはオレが通ってた学校の同級生でなー、まさかこんな形で会うとは」


まいったまいったと笑うディーノ。対して、獄寺は少し複雑そうな顔をした。





沢田家に着くとツナがリボーンと何か話していた。厳密に言えば、ツナの方は喚いていた。


どうやら彼は彼で、ボンゴレリングについて何か言いたいことがあるらしい。だが自分はともかくボンゴレ10代目たる彼は逃げられないだろう。可哀想に。


「よー、ツナ、リボーン、おはよう」


「よー」


「え? …あ! 獄寺くん! それにディーノさん」


「よお獄寺。何か用か?」


獄寺は握っていた手のひらを開く。嵐のボンゴレリングが現れる。


「これを…」


お返しに来たんですが。と言いかけるが、それより前にツナが反応した。


「あ! ボンゴレリング! 獄寺くんも守護者に選ばれたの!?」


「え、いや、」


「本当リボーン強引だよね! でもこれから獄寺くんが一緒に戦ってくれるなら心強いかも!!」


「いや、だから、」


「この間の骸との一件も大活躍だったからね! あの時の傷は大丈夫? もう治った?」


「治ったけど、いやそうじゃなくて、」


やばい。


獄寺は思った。


押し切られる。


獄寺の頬を冷や汗が流れる。


「―――隼人は守護者にならん! だからボンゴレリングを返しに来たんだ!!」


と、ディーノが獄寺の肩を掴み自身へと引き寄せそう宣言する。


途端、ツナとリボーンは少し顔を俯かせ影を作り、小さく舌打ちをした。


この二人仲いいなあ。獄寺は呑気にそう考えた。


「獄寺くん…一体オレの何が不満なの!?」


「いや、別にボンゴレ10代目に不満はない」


「じゃあディーノさんに軟禁されてるの!? 実は出歩くのにもディーノさんの許可が必要で、断っても着いてくるとか!?」


「…いや、別にんなことは……………ねえよ?」


「今の間は!?」


ディーノの嘆く言葉は無視。


「そうじゃなくて、オレが守護者を断ったのはボンゴレ10代目にもうちのボスにも関係はねえ」


「なら、どうして…?」


「それは…」



姉が怖いからです。



「………」


なんだか、冷静になって考えてみるとひたすら情けなかった。


「―――オレは、守護者の器じゃねえから…」


「獄寺くん…そんなことないのに、なんて謙虚…!!」


獄寺は意地を張った。ツナはあっさりと騙された。


「そ、そんなことより久し振りの親子の再会はどうだったんだよ。10年振りぐらいに会ったんだろ?」


気不味くなった獄寺は話題を変えるが、ツナは顔を強ばらせた。


ん? なんだこの反応。


「ご、獄寺くん…うちの親父のこと、知ってるの?」


「あ、ああ…」


何か不味かっただろうか。と少し慌てる獄寺。そこに、


「いよーお獄寺くん! おはよう!!」


噂をすれば影なのか、家光がツナの背後からぬっと現れた。ツナが驚く。


「お、親父…!!」


「ツナー…獄寺くんに色々聞いたぞ? お前さんざんアプローチしては振られてるんだってなー」


「え!!」


ツナがギギギ、と首を鳴らしながら獄寺を見る。ゴクデラクンドコマデコノオヤジニハナシタノ。とその目が告げる。


「え、いやオレは少ししか…」


少し。その単語でツナはどこまで話されたと思ったのか、顔を赤らめて。


「学校行ってくるーーー!!!」


逃げた。


「あと、獄寺くんが守護者にならないならオレだってマフィアにならないからーーー!!!」


捨て台詞も吐いた。


「んな…あの野郎…」


「仕方ねえ。ディーノ、お前ボンゴレの未来のために獄寺を差し出せ」


「断る!!」


「獄寺、ボンゴレに来い。ビアンキならオレが追い出すから」


「オレが言うのもなんですが…女性には優しくするものです、リボーンさん」


獄寺はボンゴレリングをリボーンに返し、別れた。





「…よし、これで不安の種は消えた。隼人、お前は先に戻ってろ」


「お前は?」


「オレはリボーンに頼まれごとをされてるんだ。…滅茶苦茶気の進まない頼まれごとをな…」


少し遠い目をするディーノ。きっと強引に了承を取らされたんだろうな、と獄寺は推測。


「…いや、暇だしオレも行くわ」


「隼人?」


そもそもボスを一人で出歩かせるわけにはいかない。誰かひとりでも、部下がついてやらないと。


「さっきはオレに付き合ってくれたろ? 次はオレの番さ」


「い、いや…だが……」


「あん? なんだ? 何か文句あるのか?」


「隼人が着いてきてくれること自体は嬉しいけど、本当に嬉しいけど、行く先……いや、会う奴が…」


どうやら誰かと会うらしい。誰だろう。


「女か? …なんだ、お前も作る奴は作ってたんだな」


なら確かに着いていくのは好ましくないか。なら一旦別れたあと後を着けて…


「いやいや女なんかじゃない。オレが会うのは男だ」


「ああ、そう。じゃあ何の問題があるんだ?」


「………あーもういいよ! 分かってよ着いてこいよ!! ただし!! 絶対オレから離れるなよ!!」


「お、おう」


何故か切れたディーノに驚きつつ、獄寺は頷いた。





ディーノが向かった先はとある学校だった。ボンゴレ10代目も、その仲間も通っている中学校。


ディーノは獄寺を連れ無人の廊下を歩く。獄寺は初めての学校を珍しそうに見ていた。


広い施設だった。いくつもの部屋がありその中から大勢の人の気配を感じた。なのに聞こえるのは数人の声だけで獄寺は驚く。


やがて一つの立派な扉の前に到着した。扉の前にはこう書かれている。応接室。


ディーノはノックをする。中から返事が聞こえる。その声を獄寺は知っていた。


ディーノが扉を開き部屋の中の様子が明らかになる。革張りのソファ、立派な机。そして…


「ワオ。意外なお客さんだ」


雲雀恭弥。


「よお。お前の家庭教師をしにきたぜ」


「彼が? 嬉しいね。ありがとう。貴方はもう帰っていいよ


「隼人じゃねーよオレがだよ!!!」


「べ、勉強ならオレ出来るぞ!!」


「お前も何アピールしてるんだよ! そもそも家庭教師って勉強のことじゃねーよ!!」


「ん? じゃあ何? 貴方が僕と戦うって? 何勝ったら彼もらっていいの?」


「やらねーよ! ああもうどいつもこいつも!!」


「なんだよボス。お前あいつと戦ったら負けんのか?」


「誰が負けるか! でも何があるか分かんねーだろ!?


「雲雀、戦ってやれよ」


「仕方ないね。こてんぱんにしてあげる



「なんで話が成立したはずなのに恐ろしいんだ!?」



「まず貴方を立てないぐらいぼろぼろにする。そして貴方の前で…彼に手を出す!!



「隼人逃げろ! オレに構うな!!



「逃げたら貴方は殺す。そして様子を見に来た彼に手を出す!!」



「お前はマフィアよりも恐ろしいな!!」



「手を出すってなんだ? オレとも戦うってことか?」


「いや、その……手を、繋ぎたい…


「意外とピュアだなお前!!」


ディーノは驚愕した。





かくして、授業という名のディーノと雲雀の戦いが始まった。獄寺は少し離れたところで見ている。


「ボスー、がんばれー」


「ああ!」


獄寺の軽い声援に全力で応えるディーノ。雲雀がむっとする。


「ちょっと。僕にも応援してよ」


雲雀は気難しかった。


「雲雀ー、がんばれー」


「任せておいてよ」


雲雀は得意気に応えた。


雲雀はちょろかった。


しかし戦いが始まると二人は無言になり、真面目に戦っていた。


獄寺は片方がファインプレーを出すと感心したような声を上げ拍手をした。


拍手された方はやる気を出し動きを冴え渡らせ、もう片方は負けてなるものかと反撃する。


二人はもう授業とか修行とかどうでもよく、ただただ獄寺に見てもらいたいがためだけに戦っていた。


戦う場所は(リング戦が並盛中内だと判明したため)学校を飛び越えあらゆる場所に移った。獄寺も着いていった。雲雀側も草壁という人間が着いてきた。二人はメアドを交換した。


結局戦いが一段落したのは、雲雀が学校の様子が気になった時だった。


「ちょっと学校見てくる」


「あ、おい!!」


「気紛れな奴だな」


「こうしちゃられねえ! オレらも行くぞ!!」


「お? おう」





獄寺が学校内に足を踏み入れると、声が聞こえてきた。


「お前らの勝率はゼロ%から………」


「………」


「やっぱりゼロ%だああああああああ!!!」


なんだ。ただの馬鹿か。


そして学校は………獄寺のトラウマをそれはそれは目覚めさせてくれた。


「は、隼人…? 大丈夫か?」


「駄目かもしれねえ…」


どうやら今は嵐のリング戦、ボンゴレ側はビアンキが戦ったようだ。


獄寺は途中で進むのを諦めた。草壁に肩を借り、グラウンドで待つ。


「すまねえな」


「いいってことよ」


二人は友好を深めた。





獄寺は行けぬ代わりにディーノと携帯を繋ぎ、そこから音声で様子を伺った。


雲雀がヴァリアーに喧嘩を売ろうとしているが…リボーンが止めに入っている。


『落ち着け雲雀。ここで我慢すれば……きっといいことがあるぞ』


『いいこと?』


『…六道骸との、再戦』


『……………へえ』


…六道骸……


あの事件、獄寺は途中から記憶がない。気が付いたら全てが終わっていた。


何があったのかは分からないが…結局は逃げられたのだろう。


「………」


『キミ。この校舎はちゃんと直るんだろうね?』


『………………………………………はい。我々が責任を持って完全に修復してみせます』


すっげえ間があったな今。


獄寺は校舎の…自らの姉が作り出した毒物の惨状を思い浮かべ、また顔色を悪くさせた。


暫くして雲雀が出てきた。


「恭さん」


「…草壁。何彼と近い距離にいるの。咬み殺すよ」


雲雀は草壁をトンファーで殴った。不憫だ。


次にディーノが出てきた。ディーノは少し難しい顔をしていた。


「ボス。どうした?」


「あ? ああ…なんでもない。具合はもういいのか? 隼人」


「ああ、大分な。……なんだ、あの同級生のことか?」


「………」


図星らしい。キャバッローネのボスは嘘が下手だ。


「…次の対戦が…スクアーロと山本だそうだ」


「そうか」


「スクアーロは強い。…山本は死ぬかもしれない」


「…そんで、あの馬鹿は引く気はねえってか」


「ああ…」


「…そーかい」


獄寺は首を上げる。空が見える。星が見える。月が見える。風が吹く。


「…じゃあ、まあ…出来る限りのことをするとするかね」


煙草を取り出し火を点けて、吸った。


煙が舞う。





雨のリング戦。


獄寺はチェルベッロからフィールドを聞き出し、その周辺を調べる。


雨にちなんで水浸しの先頭フロア。完全に直すと言われているとはいえ、雲雀が知ったら怒りそうだ、と獄寺は嘆息した。


ともあれ、このフロアではある一定の水位を超えると鮫が放たれる仕掛けになっているらしい。


流石に勝負の最中に手出しは出来ないが…助けるならそこだろうか。


…どちらを助けることになるかは、知らないが。





敗者を待ち構える獄寺が迎えたのは、スクアーロだった。


(あいつが勝ったか…)


なんて恐ろしい日本人。雲雀といいこいつといい、日本人は化け物か。詳しくは知らないが晴れ戦の勝者も日本人だと聞くし。


ともあれ、獄寺は鮫を他のキャバッローネメンバーに任せ、スクアーロを運び出した。


次の霧戦は獄寺も見学した。スクアーロはディーノに任せた。


霧の守護者は未だ姿を見せないらしい。


「もし来なかったらお前が戦え」


「それはあらゆる理由から無理です。そもそもリングがありません」


「お、おい…この麗しい銀髪は何なんだ!」


「あ? ああお前が晴れの…オレは……」


「あ、10代目お久し振りっす!! オレの戦い見ててくれましたか!?」



「もうその話は終わったんだよぶっ殺すぞ!!



「なに、10代目!! …なるほど、沢田がボンゴレ10代目と思わせといて実は影武者で本物はお前か! 極限燃える展開だな!!」



「何から何までちげえよ!! オレは無関係だ!!



「…そろそろ時間ですが…ボンゴレ側の霧の守護者はまだですか?」


「ああ、もう少しだけ待ってください…!!」


と、その時体育館の入口から誰かが来た。一人ではない、複数人。


そのうち二人は知っている。柿本千種と城島犬。


その二人の間に立つのは華奢な少女。髑髏の眼帯。見覚えのある槍。


「…六道…骸?」


「―――否」


少女が声を発する。凛とした声。


「我が名はクローム。…クローム・髑髏」


クロームと名乗る少女は歩み寄る。


「…ボンゴレの霧の守護者として参上しました。あなたが私のボスですね。…よろしく」


と言って、クロームは口付けをする。


…獄寺の頬に。


「ってオレかよ! だからオレはボンゴレのボスじゃねーーー!!!」


「………あれ?」


クロームは小首を傾げた。


「…まあいいや。獄寺くん、携帯のアドレス交換しよ」


「お前はブレないな……」


「…骸様、やりました。獄寺くんのアドレスげっとです」


『クフフフフ…よくやりましたクローム』


「!?」


聞き覚えのある声が響き、辺りに霧が立ち込もる。


クロームの姿が骸へと変わった。


「ああ! 隼人くんお久し振りです!! お会いしたかった…! お元気でしたか!?」


「お、おう…」


なんだ。この変わりようは。


獄寺は唖然とした。


骸はとてもフレンドリーな態度で獄寺に接し、手を握る。


「ちゃんと食べてますか? お金に困ってませんか? 誰かに騙されてませんか? 何でも言って下さい。僕たちが全力でサポートしますから」


「ちょ…ちょっと待て。どうしたお前。こないだと随分違うが…」


獄寺の記憶の中にある骸と、今目の前にいる骸はあまりにも様子が違いすぎる。なんだこいつ。


「ああ…失礼。僕は目覚めたんです。そう、あの日…憑依弾を使い隼人くんの中には…」


「失礼。クローム・髑髏様…六道骸様? どちらかは分かりかねますが勝負の時間です」


うっかり爆弾を放ちそうになった骸をチェルベッロの発言が遮る。骸は煩わしそうな顔をした。


「…仕方ないですねえ。隼人くん、話はまたあとで」


骸はマーモンと対峙した。



割愛。



「隼人くん、見ててくれました? 僕の活躍」


「…強ぇなあ、お前。で? 何お前ボンゴレの人間になんの?」


「そうですねえ。隼人くんの傍にいるためですから止むを得ず」


「そっか。がんばれよ」


「頑張ります!! ああ、もう時間です…隼人くん、また今度…あ、何か困ったことがあればクロームとかに言ってくれれば僕が何とかしますから。それから…」


最後まで獄寺のことを気に掛けながら骸の姿は消え、代わりにクロームが現れた。クロームは気絶しており、獄寺に倒れ掛かる。


「おっと…」


「………」


(何者かは知らないが…この女も大変そうだな)


獄寺はいつの間にか消えてる柿本と犬のいた入り口を見ながらそう思った。


…だが、獄寺は知らなかった。





(クローム! 手筈通りに頼むぴょん!)


(……獄寺隼人の情報…向こうに留まり、少しでも調べてくれ…)


(…まかせて、千種、犬)





と、そんな約束で結ばれた絆が三人の中にあることを。


最も、獄寺はクロームをツナに預けるとさっさと帰ったのでクロームも朝一ダッシュで帰ったのだが。





獄寺は雲雀の授業を再開したらしいディーノのところまで向かった。


「頑張ってるかー」


「おお、獄寺さん」


「よお草壁。ほれ、差し入れ」


「ありがたい。あ、今飲み物を…」


「お前ら仲いいな!!」


「草壁本当に咬み殺すよ!?」


ボス二人から叱責が飛んできた。


「ボスー、負けてねえだろうな」


「あ、あったりまえよー! 誰が負けるか!!」


「そうか。雲雀ー、調子はどうよ」


「ふ…絶好調だね。何故ならキミが来てくれたから!!」


「そうか。よかったな」


獄寺の反応は淡白だった。


「今日の対戦は雲雀か。勝てるか?」


「キミは一体誰にそんなことを聞いてるのかな。僕が負けるわけないでしょ? 一撃で粉砕してあげるよ」


「そりゃ見物だな」


獄寺は本気に取っちゃいなかったが、雲雀は本気で、そして有言実行してみせた。


「すげえな雲雀」


「当然でしょ。…す、すごいと思ったなら…僕にご褒美とかくれてもいいんだよ? 貰ってあげるから」


雲雀はツンデレだった。


「ご褒美ねえ。金はあまり持ってないんだが…」


「お金はいらないよ別に」


「あっそ。じゃあ………」


と、獄寺の動きが急に止まる。考え込む。雲雀が怪訝顔になる。


「…? どうしたの?」


「な…なんでもない! ちょっと待ってろ!!」


言って獄寺は少し後ろに待機していた草壁により何かを聞いている。むっとする雲雀だが…突如項垂れた草壁を見て驚いた。


「何があったの!?」


「委員長! 獄寺さん不憫すぎます! この方今までご褒美とか貰ったことないからご褒美ほしいって言われても何あげたらいいか分からないそうです!!」


「あ、こら黙ってろよ!」


少し赤い顔で怒鳴る獄寺。しかし雲雀は心打たれた。あと少し離れたところにいたボンゴレメンバーも心打たれていた。


「ば、馬鹿にすんなよ!? ご褒美ぐらい貰ったことあらあ!! 三つぐらいのとき…ピアノを褒められたときに頭を撫でられたことぐらいあるよふざけんな!!」


獄寺の自爆エピソードを聞き、みんなは更に心打たれたという。


「隼人…! お前は俺が幸せにすっからな…!!」


ディーノが泣きながら獄寺に引っ付いてきた。


「やかましい! 馬鹿にすんな殺すぞ!!」


獄寺はディーノを殴った。





そして大空戦…


「…ディーノ。そいつ…連れて行くのか?」


「ああ」


獄寺の目の先にいるのは、包帯で全身を巻かれたスクアーロ。


「…その声はオレを助けたガキか……礼は言わねえからな」


「なんだ、あの時起きてたのか…別にいいよ礼なんて。んなもんがほしくて助けたわけじゃねえ」


「そうかよ」


獄寺たちは並盛中へと赴いた。


戦いは既に始まっていた。ボンゴレ10代目はなんか空飛んでた。


(人間離れしてやがる…すげえ)


もう頼りない日本人なんて言えないな。と獄寺は思った。少なくとも獄寺は空を飛べない。


と、観戦していた人間がこちらに気付く。彼は…あの日。日本に久し振りに来た日にスクアーロに襲われていた奴だ。


「あ、貴方は―――」


そいつは驚いた顔で獄寺に飛び込んできた。スクアーロとか全然見てなかった。


「な、なんだよ」


「ああ、貴方が獄寺殿! お噂はかねがね!! あ、申し遅れました。拙者、キャバッローネに世話になりましたバジリコンと申します。バジルとお呼び下さい。あとめあど交換して下さい」


「お、おう…」


この日本という地は出会ったらとりあえずメアド交換なのか。と獄寺は思った。


一方で獄寺が来たことを知った雲雀が獄寺にいいところを見せようと猛毒の中一人解毒してみせたりビアンキがクロームを人質に取るベルとマーモンに切れてポイズンクッキングを食らわしたりしていた。ランボは山本が助けた。


ツナも頑張ってザンザス倒してひとまずの決着を見せた。捕まりそうになるヴァリアーの面々。そんな中、満身創痍の状態でザンザスは獄寺に紙を放り投げた。


「……? なんだよ」


「カス鮫が世話になったなあ! あいつはどうでもいいが借りは返す!! 今度礼をするから連絡してこい!!」


ザンザスが投げた紙に書いてあったのは一つのアドレスと電話番号だった。どうやらザンザスのものらしい。


獄寺は律儀に携帯に打ち込んでいた。





後日。


「…なあ隼人」


「んー?」


「携帯を操作する時間…増えてね?」


「増えたなあ」


「何があったんだ?」


「連絡してくる奴が増えてなあ」


「………ちょい見せてみ」


「ほれ」


ディーノは獄寺の携帯電話のアドレス帳を開いてみた。


グループ別に分かれていた。


『ボンゴレ』


『風紀委員』


『昔馴染』


『CEDEF』


『黒曜』


『ヴァリアー』


あと、もちろんあって然るべきだが、『キャバッローネ』もあった。


「………この携帯…つーか隼人の人脈…とんでもないことになってんなあ…」


ディーノは遠い目をしながら携帯電話を獄寺に返した。


携帯電話が、また鳴った。





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ああもう、仕事にならねえ!!


リクエスト「IFリク、"キャバッローネの場合"でヴァリアー対決のお話をお願いします!」
リクエストありがとうございました。