- 10数年後 -
時期ボンゴレ10代目が正式な10代目となって。早くも数年が経過していた。
彼はマフィア社会に君臨してからというもの、毎日を多忙に過ごしている。
今日も今日とて10代目はその細腕一つで何百、何千もの人間を操って裏社会の秩序を保って。
そんな大物ともなれば、どうしても恨みを買うだろうに。何故だか彼はいつも独りで過ごしていた。
本来なら、自身の右腕ともいえる人物を携えなくてはならないというのに。
本人曰く、「ピンと来る人物がいないのだから仕方がない」らしい。
けれどそのような理由で護衛がいなくて、しかも死なれでもしたらそれこそ笑い話にもならない。
そんなわけで。彼との古い付き合いのメンバーが数人、隣接された部屋に護衛という名目であてがわれているのだが…
それすらも、10代目本人は気乗りしていないようで。
――そんなボンゴレ10代目が毎日毎日子供のように、何かを楽しみに待っているだなんて聞いても。誰も信じないことだろう。
年に数回。不定期に送られてくる、同い年の友達からの手紙を待っているだなんて。
そしてその日。…相変わらず一体どんな手法で運んでいるのか、とにかく――
手紙が、届いた。
住所不定、差出人不明、ついでに切手も張ってなくて、ただ白い、糊付けされた封筒には一言。
…ボンゴレ10代目の名前…沢田綱吉様、なんて文字だけ。
こんな書き方するの、この世にただ一人しかいない。
それが可笑しいのか、嬉しいのか。10代目は笑った。笑いながら、嬉々としながら。封を丁寧に開けていく。
手紙の内容は、季節の始まりから入る挨拶、それまであった日々の綴り、そして―――
体調の、回復の様子。
本来ならこうして手紙を書くことどころか、五年生きることすら出来ないだろうと、最初に来たある医者の手紙に書いてあった。
だから数年で手紙が途切れることも覚悟しておけ、とも…
しかし。10年。
そんな長い年月を、彼は生き耐えたというのだ。
そして実験の古傷も今は癒えてきているという…
移動するのに他人の力が必要だった時期は数年で終わった。今は走ることも出来るらしい。
心配されてた内臓機能の低下も、少しずつだが良い方向へと改善されてきて。
昔の記憶も九割方思い出し、それの悪夢に震えることも少なくなって。
…残るは、最後の実験の殺戮衝動と―――
最初の実験の、感情の起伏だけらしい。
「―――そっか。隼人…頑張ってるんだね」
手紙を読む彼の表情にはいつもの威厳に満ち溢れたマフィアのボスの顔は当てはまらない。
…そこにいるのは――…一人の友人からの手紙を読むだけの、独りの青年しかいなかった。
「―――ん?」
隼人の手紙が終わって、もう一枚の手紙があることを知る。
「…Dr.シャマル?」
それ以外に考えられないだろう。
彼からの手紙は最初の時以来だ。なんだというのだろうと、彼はぱらりとそれを開いて、目を通して…
そのまま大急ぎで、部屋を飛び出た。
しかしその途中、一回り以上年下のヒットマンに止められる。
「どこに行くつもりだ? ツナ」
「ちょっとね! 少し出るけど、護衛はいらないから!!」
「……はぁ? よく分からんが――…まぁいい。行って来い」
この察しの良すぎるヒットマンに、ツナは初めて感謝した。
そのヒットマンはヒットマンで、ツナのあそこまで嬉しそうな顔を見はのは初めてで、少しだけ面食らっていた。
年に数回、浮かれることはあっても。ああまで感情を破綻させたことは一度たりともなかったから。
今度鍛え直してやろうと密かに思いながら。そのヒットマンはツナのデスクの上の手紙を流し見る。
…鍵の掛かった引き出しの中のものは決して見ないようにといわれているが、着たばかりらしいこれなら条約違反には入らないだろう。
もちろん、それは屁理屈だと分かった上だが。
―――それはともかく、その手紙によると。
今日ここの近くに、ツナの古い友人が来るらしい、との事だった。
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さぁ再会を楽しもう。