夢を見ている。これは夢なんだと分かる。
それは遥か昔に、本当にあっていたこと。…過ごしていた日常のこと。
たいせつな人がいて。頼りになる奴がいて。
苦手な人がいて。面白い奴がいて。
昔からの知り合いがいて。変な奴がいて―――
そして…だいすきな人がいて。
消えた世界
せかいはまっしろ。てんじょうも、ゆかも、かべも、しーつもぜんぶまっしろ。
せかいはおおきい。おおきなへや。おおきなべっど。そして、それだけのせかい。
おれはこのせかいからでない。…でれない? どちらだろう。わからない。
いつもあたたかなせかい。なにもないせかい。いろのないせかい。おとのないせかい。
おれはこのせかいにずっといる。いつからかなんてしらないけど。でもずっとだ。
そのせかいに、いつもなんにんかのにんげんがきて。それでせかいにひがともる。いろがつく。おとがでる。
そのひいちばんにきたのは。ちいさなまあるい、あかんぼう。
「なんか…いつ来ても信じられないね。あのベルと互角に渡り合ったあの子が…この子なんてね」
あかんぼうがなにかいってるけど。おれにはなんにもわからない。
それよりもとおれはこいこいとてをふって。あかんぼうをひきよせて。だきしめる。
「…僕はリボーンじゃないよ…?」
あかんぼうがなにかいってるけど。おれにはなんにもわからない。
ただ、ゆめをみた。どんなゆめかはわすれたけれど、でもきっとなつかしいゆめ。
とてもだいすきなひとのゆめ。ちいさなからだとおおきなたいど。
おれはそのひとがすきで。ぎゅってするのがだいすきで。
このひとがそのひと? わからない、わからない。
おもいだしたくて。おれはさらにぎゅってあかんぼうをだきしめる。ぎゅって。すりすりって。
「…ま。いいけどね」
あかんぼうがなにかいってるけど。おれにはなんにもわからない。
あかんぼうはしばらくずっと。…しごとだっていうまで。おれにだきしめられていた。
つぎにきたのは。おおきくてたくましいひと。
「はぁい隼人。会いたかったわー」
たくましいひとがなにかいってるけど。おれにはなんにもわからない。
たくましいひとはあうたびにおれにだきつく。そこからかおるはあせのにおい。
…しってるきがする。ゆめのなかであうひとににているきがする。
おおきなからだで。いつもわらってて。けんかばかりしていて。でもそれがたのしくて。
でも。おもいだせない。
「隼人ってお人形さんみたいで本当可愛いわねー。あ、男の子に可愛いは嬉しくないかしら?」
たくましいひとがなにかいってるけど。おれにはなんにもわからない。
「…本当。良いわぁ貴方。…だって」
いきなりほおをぶたれる。どこかがきれてちがしたたった。しろいせかいにはえるあか。
「ほら。こんなことされてもなんの感情も示さない。可愛い…食べちゃいたいくらい」
ああでもそれはだめだったわ、とかなんとかいいながらたくましいひとはへやをでていった。
おれはつぎのひとがくるまで。ずっとそのままだった。
「…何やってるの? お前」
そんなおれのたいどがきにくわなかったのか、きんのかみのひとはおれ
きがつくと、すぐめのまえにきんのかみのひとがいた。
きんのかみのひとはおれのちをぬぐう。あかがきえる。
「何殴られて黙ったままでいるのさ…そんなに温厚な奴だったっけ? お前」
きんのかみのひとがなにかいってる。けれどおれにはわからない。ただただだまってみてるだけ。
「…っ」
きんのかみのひとがおれをなぐった。またとびちるあか。せかいにひろがるあか。
きんのかみのひとがおこってる。おれがげんきょうなのだろうか。…わからない。
きんのかみのひとをみて。なにかをおもいだしかける。
だれだろう。おもいだしたい。おもいだせればきっとせかいがかわる。そんなきがする。
なのに…おもいだせない。
きんのかみのひとはまだおれをなぐる。おれをきずつける。しろがきえる。あかがひろがる。
いたみはもうあまりかんじなくて。でもせかいがくらくなっていって。
おれはじぶんのほねがきしむおとをききながら、ねむりにおちた。
めがさめると。きんのかみのひとはいなくてこんどはおおきなおおきなひとがいた。
このひとは。しっている。このひとだけは、しっている。
「ぁ……う、」
もはやぼいんしかこえがだせないなか、たったひとつだけだせるたんごをどうにかのどからしぼりだす。
「あっぁ…じゅ…だぃ、め…」
うまくいえただろうか。わからない。みみはきのうをほぼうしなっている。
「じゅ…だ…め、じゅうっ、だい、め……10代目…」
いえた。きっといまのはうまくいえた。それがうれしくて、おれはわらう。
10代目。そのことばのいみすらおれはもうおぼえてないけど。
でもそれはきっと。とてもとてもたいせつでだいじなこと。ぜったいにわすれてはいけないこと。
「じゅうだいめ、じゅう、だいめ、じ…だめ…」
おれはなんどもそのたんごをはく。めのまえのおおきなひとはそれをどうおもっているのだろうか。わからない。
ただ、おおきなひとはおれのあごをつかんで。
「じゅうだ…」
ことばをふさぐように、あらあらしいくちづけをおれにかわしてきた。
夢を見ている。これは夢なんだとわかる。
それは楽しかった日常。みんながいる世界の話。
そこには一体誰がいるのだろう。たいせつなひとと。頼りになる奴と。
苦手な人と。面白い奴と。昔からの知り合いと。変な奴と…
そして。だいすきな人と。
なのにオレにはその人たちの顔が思い出せない。声を思い出せない。何も思い出せない。
夢のあとに目を覚ますと全てを忘れる。
だからオレは10代目を殺した奴に10代目の面影を重ねて。10代目と慕っている。
…今日も。明日もきっと。
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それは変わらない、決められた毎日。
リクエスト「ヴァリアー×獄」
リクエストありがとうございました。