あなたが好きでした。
あなたのことが、あなただけが。ずっとずっと。
…好きでした。
あなたは、そんなオレの思いには気付かなかったでしょう。
オレはこの感情を抱いてはならぬことを知っていましたから。
オレはこの感情が罪であることを知っていましたから。
あなたに恋情など、感じてはならぬことを…知っていましたから。
オレは、あなたの部下であることだけで充分のはずだったんです。
オレは、あなたの右腕であることだけで満足するべきだったんです。
けれどオレは、なのにオレは…ある日気付いてしまったんです。
…あなたへの、この想いに。
―――オレは、あなたにこの想いを伝えまいとしてきました。
知られたらもう、あなたの隣にいられないことを知っていましたから。
たとえあなたがそれを望まないとしても。
たとえ10年来の付き合いのあいつらがそれを認めたとしても。
けれどここは、そういう世界なんです。
マフィアのボスに弱点なんてあってはならない。
恋人や愛人を作るのなら、切り捨てることが出来る程度の愛情でなければいけないんです。
…そして。恋人や愛人もまた。切り捨てられることを覚悟しなければいけないのです。
―――でも。
オレは、オレには…どうやらそれは出来ないみたいです。
あなたが好きだから。
本当に…好きだから。
あなたが近くにいないだけで、こんなにも切ないのに。
そんなあなたに捨てられると思うと…ああ、駄目です。
オレ、泣いてしまいます。
心の中で、ずっとずっと。
泣いてしまいます。
でも。
そんな部下は、10代目に相応しくないから。
オレは消えます。
あなたを愛してしまったオレは、あなたの傍にはいられない。
いつからオレは、こんなに弱くなってしまったのでしょう。
昔は、あなたのために生き、あなたのために死ねるのなら何の不満もなかったのに。
…いつからオレは、こんなにも弱くなってしまったのでしょう。
あなたへの気持ちに気付いたとき、オレはその想いを忘れようとしました。
そうしなければ、あなたの傍にいてはいけないと思ったから。
…でも、違いました。
あなたの傍に、本当にいたかったのなら。
オレはその想いを、捨てなければいけなかったのです。
…そんなことに今、気付きました。
この気持ちを捨てきれなかったオレは、あなたの傍にはいられない。
―――だから。10代目。
…さようなら。
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起きるはずのない夢を見た。
あなたが隣にいる夢を。
あなたと共に笑う夢を。
…起きるはずのない、夢を見た。