雲雀がふと窓の外を見上げると、そこにはどんよりとした運天が広がっていた。
あ。あいつのこと考えてる。
どことなく、なんとなく。しかし確信的にそう感じ、雲雀は思念を飛ばした。
僕のこと忘れないでよ。
そう念じれば、相手に届いたのか通じたのか、なんとなく思念を返してもらったような気がしてひとまず雲雀は満足した。
獄寺隼人が日本を発ってから早数週間。並中には平穏ともいえる時間が流れていた。
それはそれで喜ばしいことだし、そのことについては雲雀も文句はない。
…だが、ただ、どこか物足りないと思うのも事実で。
一体彼はいつまでイタリアにいるつもりで、一体いつ頃ここに帰ってくるつもりなのだろうか。
そこのところ、雲雀は何も知らない。それが雲雀は面白くない。
そもそも、獄寺がイタリアへ飛ぶことを知ったのだって偶然だったのだ。
授業中に廊下を歩く獄寺を見つけ、咎める雲雀に獄寺は「イタリアに野暮用」とだけ言ってさっさと学校を抜け出してしまった。
その日以来、獄寺からの連絡はまったくない。
つまらない。
まあ、もともと何か連絡しあうような関係じゃないけれど。
連絡が来たところで何をどうするって訳でもないけれど。
それでもやっぱりつまらない。
中でも何が一番つまらないかというと…
「…ん? ああ、雲雀さん」
目の前の、携帯を弄くる沢田綱吉。
「何か用ですか? 今オレメールしてるんですよ。…獄寺くんに」
イラッ
雲雀は苛立った。
訂正。つまらない。ではない。腹立だしい。
「…学校での携帯電話の使用は禁止だよ」
「雲雀さんだって使ってるじゃないですか」
「これは緊急連絡用」
「オレのも緊急用なんです」
ツナはいけしゃあしゃあと言い放つ。いつもの気弱な態度はどこへ行ったのか。
「獄寺くんが危険な任務に出てるっていうのに…オレだけ平和な日本でのほほんとしているわけにはいきませんよ。せめて連絡だけでもいつでも取れるようにしてないと」
「待って。危険な任務? なにそれ」
気になった単語を尋ねてみれば、ツナはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべてみせた。
「あれ? 雲雀さん、獄寺くんから聞いてないんですか?」
ムカ。
雲雀は苛立った。
「普段あれだけ嫌がる獄寺くんにアプローチしてるのにも関わらず、なんの成果もないなんて…やっぱり嫌われてるんですね。雲雀さん」
ピキピキ。
雲雀の額に青筋が出来た。
雲雀はつかつかとツナに歩み寄り、ツナの携帯を奪い取った。
「あっ」
「没収」
憮然と言い放ち、腹いせに携帯を壊してしまおうかと半ば本気で考える雲雀の視界に、携帯の画面が目に入った。
ツナ宛に来た、獄寺からのメール。
そこに見えた、自分の名前。
自分の近況を、遠まわしに訊ねる文章。
ツナが顔をしかめさせる。
雲雀は仏教面を微笑に変え、ツナに携帯を返した。
「没収じゃなかったんですか?」
「緊急用なんでしょう? それにメールの返信もまだみたいだし。きちんとしておあげよ。全ての文章にね」
最期の言葉に少し力を入れて言うと、ツナはこめかみを引きつらせた。
「人の携帯の中身を見ないでくださいよ」
「偶然目に入っただけさ」
雲雀はなんの悪びれもなく言い放ち、さらに追撃を放つ。
「全く、あの子も照れ屋で恥ずかしがり屋なんだから。本当に大事な相手には面と向かって何も言えないんだよねえ。どうでもいい相手には何でも言えるんだろうけど」
「…どう言う意味ですか。それ」
「さあね」
雲雀はそう言い残すと優雅な足取りで去っていった。
ツナは苦虫を噛み潰したような顔をして携帯を見つめる。
それから暫くして、ふと窓の外を見上げると先程まであった雲は風に流れて青空が広がっていた。
…あ。雲雀さんのこと考えてる。
どことなく、なんとなく。しかし確信的にそう感じ、ツナは思念を飛ばした。
オレのこと忘れないでよ。
そう念じれば、相手に届いたのか通じたのか、なんとなく思念を返してもらったような気がしてひとまずツナは満足した。
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うんうん。オレのこと忘れてたら植木鉢でも降らせてたところだよ。
リクエスト「「遠い空の向こう側」の綱、雲サイド」
リクエストありがとうございました。