どうしてこんな事を?
ただそんな言葉が脳裏を過ぎった。そして、それだけだった。
狂おしいほどに愛しいあなた
ミルフィオーレファミリーのボスに、白蘭という男がいた。
あいつはオレを気に入っていたようだった。
知り合ったのは交渉の席。ボンゴレの使者としてオレが赴いた。それが初対面。
けれどオレたちの出会いはそれだけに終わらなかった。友好同盟を結んでからは親睦を深める為のパーティに情報や武器の受け渡し。色んな事が行われた。
そしてそれの全てに、オレがいた。
最初は指名されたから、出てただけだった。それだけだった。
けれど…いくつほどの出会いをこなしてからだっただろう。オレ自身から進んでミルフィオーレファミリーに行くようになったのは。
―――多分、オレがあいつを好きになってからだ。
…こんな事を、リボーンさんと話したことがある。
「…すっかりミルフィオーレにも慣れたようだな。獄寺」
「リボーンさん。…ええ。下っ端の連中にもしっかり顔と名前を覚えられましたよ」
「最初はあんなに渋っていたのにな」
「はは…本音を言えば…最初は面倒な仕事だと思ってました」
「実際面倒だっただろう」
「ええ。…あのボスに慣れるまで何度撃ちそうになったか分かりません」
「慣れたら、あとは急降下だったか?」
「え?」
「…お前は相変わらず見ていて分かりやすい。心境の変化など一目瞭然だ」
「え…あれ、オレって…え? そうなんですか?」
「なんだ。自分で分かってなかったのか」
「………」
リボーンさんの言葉で、そうなんだ、と自覚を持った。
だってまさか、そんな感情ありえないって思っていたから。
ただ、憧れていたんだと思ってた。
混じりっけなしの白。
オレみたいに変な色が入った灰色じゃない…白。
どうせなら、あんな色に生まれたかった。
そうでなければ…逆にリボーンさんみたいに黒か。
ああ、なるほど。だからオレはリボーンさんにも憧れていたのか。
「どうした獄寺。人をじろじろ見て」
「いえ………リボーンさんと白蘭は真逆だなって。思って」
「何?」
「白と、黒です」
「ああ、色か」
「ええ。あと性格とか、体格とか…身長、とか」
「年相応と言え。馬鹿者」
…ひょっとして、気にしてたんだろうか。
だとしたらすいません、リボーンさん。
…なんて。そんなことを思ってた。
そんな、平和すぎることを…暢気にも思っていた。
オレに良くしてくれた、10代目が殺された。
オレを指導してくれた、リボーンさんが殺された。
オレの居場所だった、ボンゴレが壊滅状態になった。
首謀者の名前は…白蘭。
どうしてだ? 白蘭。
どうしてこんな事をした。
最初からこれが目的だったのか? オレに近付いたのは、ボンゴレの情報を得ようとしたからか。
…信じれない。
―――信じ、たくない。
お前の口から真相を聞くまでは。
「どうですか白蘭様。彼の様子は」
「ん? 落ち込んでるよ? すっごく可愛いよ?」
「そうですか。それは結構」
「邪魔者が消えて彼は僕だけを考えるようになって本当に結構! 小躍りしたいぐらいだね!!」
「したらどうですか?」
「それもそうだね」
「すいません白蘭様。僕が悪かったです。一ファミリーのボスたるもの、そんなことしないで下さい」
「そうかい。ところで正ちゃん」
「なんでしょう。白蘭様」
「彼が真相を知ったらどうなると思う?」
「獄寺隼人の悲しんだり苦しんだりする顔が見たいって理由だけで彼の近しい人物を殺したり彼のファミリーを潰したりしたということですか?」
「うん」
「彼の事はさほど詳しくはないので断定は出来ませんが…恐らく壊れるのではないかと」
「そうか。それはそれで見てみたい!!」
ばんばんと机を叩き、無邪気に笑う白蘭。
入江正一はやれやれと溜め息を吐きながら、白蘭に問い掛ける。
「まだなさらないのですか?」
「うん。だって彼が僕を信じてくれてるのを見るのは楽しい」
「彼の心は疲労して。何もせずとも壊れてしまいそうですけど」
「なら、壊れるギリギリのところで全てをぶちあけよう。きっと面白いことが起きる」
「白蘭様は」
「ん?」
「獄寺隼人は白蘭様に恋愛感情を抱いているようですが…白蘭様は獄寺隼人に好意を抱いているんですか?」
「うん」
「………」
「信じれない。って顔。男同士だから?」
「それもありますけど、それだけじゃありません」
「好きな子はついついいじめたいんだよ。男の子ってのはね!」
「度を越えてます」
「うん、だから」
度を越えてる分だけ、僕のこの恋は大きい。というコト。
そう言って、白い白い狂気は高らかに笑った。
獄寺隼人は何も知らず。愚かにも未だ彼を信じてる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
全てを信じてる愛する人から告げられるのは何日後?
ヒビキミトリ様へ捧げさせて頂きます。