よし、今日こそはとオレは気合を入れた。


今日こそ獄寺くんと…手を繋いでみせる、と。


「………」


オレと獄寺くんが手を繋いでいるところを想像して、顔が赤くなった。


もんどりがえって頭を打った。


痛かったけど、少し落ち着いた。


そのときチャイムが鳴った。きっと獄寺くんだ。


オレははやる心を抑えながら玄関を開けた。案の定獄寺くんがいた。極上の笑顔つきで。


「こんにちは10代目」


「い、いらっしゃい獄寺くん…」


可愛い。


可愛すぎるこの人。


可愛すぎて可愛い罪で捕まるぐらい可愛い。


ああもうなに言ってるんだろオレ。


「あれ? 10代目」


「な、なに?」


「額が赤いですけど…何かありました?」


「なんでもないよ?」


まさか獄寺くんと手を繋ぐことを想像して興奮して打ち付けました。なんて言えない。


獄寺くんはオレの言葉に納得したのかそうですかと言ってまた笑った。


そんな顔も可愛い。


なにこの可愛さ。優勝。金メダル獲得。意味分からないけど。


獄寺くんのこの笑顔を向けられるのはオレだけ。このオレだけ!


なんて幸運。ダメツナ上等。オレ最強。意味分からないけど。


そして高鳴る感情。もっと獄寺くんとお近付きになりたい、親密になりたい、仲良くなりたい。


その第一目標として、手を繋ぎたい。


じっと獄寺くんの手を見る。


急に触ったりしても大丈夫だろうか。


きっと…いやたぶん…いや絶対大丈夫…!! …だと思う。


いや、獄寺くんはきっと嫌がらない…!! と信じる…!!


でも一応一言断りを入れたほうがいいだろうか! なんて? 手を繋いでいいですか? ってか!?


言えるわけがない!!


恥ずかしくて悶絶死するから!!


むしろ一瞬触れるだけでよくないか!? 指と指…いや手と手だけでも!!


よし、一瞬手と手が触れ合っただけでも手繋ぎとしよう。オレルールで。


そうと決まれば、いざ…


「そういえば10代目」


と、オレが意を決し勢い付けたところで獄寺くんが振り返った。


オレの手は何も掴むことなく、しかも勢い付けすぎてバランスを崩したオレはそのまますっ転んだ。


「………大丈夫ですか?」


「…ダイジョウブデス」


何とかそれだけ答えた。獄寺くんの前で格好悪いところを見せてしまった。生きるのが辛い。欝だ死のう。


「お怪我がないようで、よかったです」


獄寺くんが微笑んだ。


可愛い。


やっぱ生きよう。


我ながら単純と思うが、単細胞と言われようが馬鹿と言われようがなんだっていい。


今、目の前に獄寺くんがいる。


オレに向かって微笑んでいる。


生きる理由としては、それだけでもう充分。


もうこのまま時間が止まればいいのに。オレのためだけに。


「…10代目?」


「え?」


「どうかしました?」


「なんでもないよ」


まさか獄寺くんに見惚れていました。惚れ直していました。などと正直に言えない。


それからも10分に一度ぐらいはそんな会話をしつつあっという間に夕暮れになり獄寺くんが席を立った。


帰りの時間。玄関まで見送る。


…って、思い出した。


そういえばオレ、獄寺くんと手を繋いでないや。


手を少しでも伸ばせば届く距離。


そっと獄寺くんに手を伸ばした。


「では、10代目」


獄寺くんが振り返る。


オレの手が中途半端な位置で止まる。


「今日のところはこの辺で失礼しますね」


「あ…うん」


オレは腕を戻す。


獄寺くんは相変わらず満面の笑顔で。


「また明日です」


と言って、帰って行った。


………。


今日も獄寺くんと手を繋げなかったけど…



   また、明日です。



また明日会えるから、いっか。明日で。





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明日明日。また明日。


リクエスト「ツナ獄」
リクエストありがとうございました。