「10代目。オレ、夢があるんです」


それを叶えたいと言って、キミは笑っていた。


「いつか、叶うと嬉しいです」


その日を夢見て、キミは笑っていた。





彼の夢、というのはずっと、誰かに仕えることだと思っていた。


そう思い込んでいた。


だってだって、いつだって開口一番に「10代目の右腕になります」って言っていたのだから。


だからきっと、それが彼の夢なんだって思い込んでいた。


獄寺くんがオレの右腕になりたいと願うのならば、それも良いかも知れないと思った。



…オレだって獄寺くんが傍に居てくれるのは嬉しいし。



だからオレは「頑張ってね」なんて気軽に応援した。


そうしたら獄寺くんは「はい」って言って本当に嬉しそうに笑っていた。


それから10年の月日が流れて、彼の夢は叶った。



彼はオレの右腕に。



本当に本物の"10代目"になったオレに、彼は「おめでとうございます」と言って微笑んだ。


彼の夢は叶った。オレの右腕になった。


オレは「おめでとう」と言って彼に返した。


けれど彼は曖昧な笑みを浮かべるだけだった。


彼は言う。



「まだです」



まだ? 何がまだ? キミの夢は叶ったよね?


彼は言う。まだだと。まだ叶ってないと。


まだ? まだ叶ってない? どうして? 一体何が足りないの?


オレがそれを聞いても彼は答えてはくれなくて。


ただ、夢が叶ったときは必ず報告するから。そのときは一緒に喜んでほしいと頼まれた。


彼の夢が叶ったのならオレだって嬉しいだろう。


だからオレは気軽に「分かった」と頷いてしまった。



彼の夢も知らないまま。



そしてそれから数年。


彼はオレを庇って死んだ。


彼はオレを庇って。血を流して。苦しみながら……笑っていた。



あはは、あは、あははははは! 聞いて下さい10代目!


やっと…やっとやっと! やっと夢が叶いました! 笑って下さい喜んで下さい! オレにおめでとうと言って下さい!!



オレはといえば、彼に付いてはいけなくて。


だって、だって血が。彼の傷口から口から血が流れ出て。服は彼の血を吸い彼の顔色はどんどん悪くなり。


彼は死ぬのに。どうして笑っている?


そんなオレに、彼は分かりやすく説明してくれた。


獄寺くんの夢を。


獄寺くんが叶えたかった夢を。


獄寺くんの夢は。


自らが認める君主を見つけて。


自らが認める君主に仕えて。


自らが認める君主の為に―――――死ぬことなのだと。


ああ、なるほど、だから今叶ったんだね。今嬉しいんだね獄寺くん。



「―――おめでとう。獄寺くん」



オレがなんとかそう言って彼の頭を撫でたときには、獄寺くんは既に動かなくなっていた。





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一体何がキミをこうさせた?


リクエスト「ツナ獄」
リクエストありがとうございました。