オレの幸せを教えてあげる。


それはキミと一緒にいるっていう、ただそれだけのこと。



短く儚い甘い時間



「―――ね…どうしても、なの?」


「…すいません10代目。どうしても、です」


―――獄寺くんはこれからイタリアへと行くらしい。…向こうからの、いきなりの命令で呼び出されたとのことで。


今日獄寺くんが遊びに来てくれて、…でも開口一番にそう言われて。


言われた最初はオレもああそうなのと軽く流したはずなのに…いざ獄寺くんが帰るときになると。…空港へ行こうとすると急に名残惜しくなって。


オレの諦め半分の言葉にも深く深く申し訳なさそうな表情で応えてくれる獄寺くん。


その態度が。その表情が。オレを掴んで離さないというのに。


「あの…出来る限り早く戻って来ますし、電話も毎日します! だから…その、」


「オレに暫く我慢しろって?」


オレがそう言うと目に見えて獄寺くんが落ち込んで。…きっと失言をしたと思っているのだろう。


わざと冷たい言い方をしてわざと突き放すような態度を取ったというのに、悪いのは全部自分だと決め付けて。


「獄寺くん」


「はい…」


落ち込んで俯いている獄寺くんの顔を上げさせれば、そこにはなんとも悲痛そうな表情の獄寺くんがいて。


どれほど悲痛そうかっていうとともすればこのままいくと思い詰めて自殺でもするんじゃないかってぐらい。


それは困る。流石に困る。オレをそこまで思ってくれてるのは嬉しいけどそれは流石に。


オレは獄寺くんの首に掛かっているネクタイをグイッと引き寄せて。唇を合わせる。獄寺くんが驚く。


「…!? じ、10代目…?」


「なるべく早く、帰ってくること」


オレの所に。


「………はい」


「なるべく長く、電話すること」


オレの所へ。


「―――もちろんです」


獄寺くんの言葉が嬉しい。オレの為に応えてくれる獄寺くんの気遣いが。


「あと…知らない人に声掛けられても絶対に着いて行かないこと」


「子供ですかオレは」


くすくすと獄寺くんが笑っている。オレの発言を冗談とでも受け取ったのだろうか。


失礼な。オレは本気なのに。獄寺くんがナンパされないかどうかいつだって不安なのに。


「とにかく約束しなさい」


「…はい。オレは誰にも着いて行きません。オレが着いて行くのは貴方だけですから」


最後にそんな嬉しいことを言ってくれて。オレの頭をくらくらさせる。


ああ、愛しい、可愛い獄寺くん。絶対誰にも渡すものか。


「じゃあ、最後のお願い。…獄寺くん」


「はい」


無垢な表情でオレを覗き込む獄寺くんに、オレは思いっきり抱擁を交わして―――――


「行かなきゃならないギリギリの時間になるまでオレに抱きつかれてなさい!!」



―――オレの幸せを、キミに教えてあげる。


それは獄寺くんと一緒にいるっていう、ただそれだけのこと。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ごめんね。オレは子供なんだ。

我侭を言って困らせて。独りよがりで振り回して。


―――そうして誰よりも、だからこそ何よりも、キミの事を想って。