主人は夢を見ました。夢の中にはマフィアがいました。
マフィアは主人に笑い掛けます。すると主人もマフィアに笑い掛けます。
主人はマフィアの手を取って。色んなところを歩きます。
………でも。それは夢の中の出来事です。
それに気付いたマフィアは、主人を現実の世界へと戻そうとします。
けれど、主人は中々首を縦に振ってくれません。
だって、主人は夢から覚めたら、マフィアに二度と会えないことを知っていたから。
それでも。マフィアは主人を現実の世界に戻るよう説得します。
だって、マフィアは主人がこのまま夢の世界にいたら、主人が駄目になってしまうことを知っていたから。
どちらも必死でした。そしてとうとう主人が折れました。主人は現実の世界へ還ります。
主人は現実の世界に還る前、マフィアに一つ、願いを残していきました。
……世界が、崩れる。
きっと。あの人が還ったから。
オレも、この世界と一緒に崩れるんだろうけど、そんなことお構いなしに、オレは今、物凄く困っていた。
…違和感は、初めからあった。
初めは何か分からなくて。だけど目の前の10代目が笑ってるのなら、それでもいいかと思って。
……でも。
貴方が泣いてるのに、気付いてしまったから。
思い出してしまったから。オレに起きた出来事を。
分かってしまったから。この場所がどういうところなのか。
だから。オレは貴方を還らせようとした。
貴方はかなりごねたけど、結局は納得してくれて…
―――でも。
……獄寺くん
――反則だ。あんなこと言うなんて。
オレに、一体どうしろってんですか10代目…
夢ってさ…なんでも、自分の思い通りになるんだよね?
だって医者が言ったんでしょ? "朝まで持たない"って。
そんな、無理ですよ。いくらなんでも。
じゃあさ、一つだけ、獄寺くんにお願い。
―――でも無理でも。どんなに無茶なことでも。
貴方に。他の誰でもない、貴方に言われたら。
獄寺くん―――生き、返って。
「応えるしか、ないじゃないですか」
オレは10代目の消えた扉を見据えて――
生き返って。
主人はマフィアにそう願いました。
それはどれほど無茶な願いでしょうか。マフィアは途方に暮れてしまいます。
でも、マフィアは主人の願いを叶えようと思いました。
それがどんなに無茶なことでも。それが主人の望んだことならば。
それを叶えるのが、己が使命だと思ったのです。
眼を、開ける。
身体中が、びきびきいってて。
身体の感覚がやけに遠くて。まるで自分の身体じゃないようで少し怖かった。
―――――と。
「はや……と?」
シャマルが、酷く驚いた様子でオレを見ていた。
……んだよ。見世物じゃねぇぞ。
とか言おうと思ったら。
びきびきびき!!
「―――――っ!?」
身体の皮膚という皮膚が、弾けるような感覚に襲われて。
め、滅茶苦茶痛ぇ……
………って、痛い?
痛いってことは……
オレ、生きてるのか……?
痛みを堪えながら、シャマルを見上げる。
シャマルは未だ唖然としていて。
やがてはっとした様子で、オレの治療に取り掛かった。
………いつの間にかオレは眠っていて。
気が付くと、部屋にはオレ一人で。
身体はまだびきびきいってて、痛かったけどそれももう随分収まっていて。
そうこうしているうちに、控えめなノックが聞こえて。
ドアの方を見直すと、ドアは開いて。
現れた主に、オレは微笑みで歓迎した。
マフィアは生き返りました。マフィアは主人の願いを叶えたのです。
生き返ったマフィアの元に、主人が急いでやってきます。
主人は泣いて喜びました。主人は泣きながらマフィアに抱きつき、何度もマフィアの名前を呼びました。
なんで、とか。どうして、とか。そんな事はどうでもよくて。
主人はただ、マフィアの無事を喜び、そしてもう二度とこんなことを起こさせないと誓いました。
めでたし、めでたし。
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あなたのお願い、叶えましたよ。10代目。