―――気配を消して。神経を研ぎ澄まして。オレは周りの様子を探る。
…いや、そう簡単に、見つかるわけない…よな……?
ほうっと一息。寒空の下、汗を拭う。冷たい風が今だけは心地よかった。
と、安心したその矢先…
「獄寺はっけーん!!」
「!!」
聞き覚えのある声に、オレは思わず横に飛んでいた。
――今までオレがいた所に、そいつの腕が交差した。オレが避けてなかったらと思うと…
寒気がオレの背を襲う。けれどそれに浸る間もなくオレはまた走り出す。
公園の時計を横目に捕らえて、時間を確認。あと…二時間。
二時間、オレは奴らから逃れなければ―――
鬼ごっこ
…とまぁ、シリアスなシーンは置いといてだ。
別にオレは今、マフィアに追われている訳でもなければ、極秘情報書類を持ち運んでいる訳でもない。
…言ってしまえば、遊んでいる――に入るのかもしれない。
何故なら、今オレたちがやっているのは…鬼ごっこ、なのだから。
といっても、実際に遊んでいるのはリボーンさんだけだろう。その他のオレたちはいたって真面目、真剣勝負をしていた。
その、訳とは…
(以下、回想シーン)
ぴりりっぴりりっぴりりっ
「ん? リボーンさん…? もしもし、獄寺ですけど」
『ちゃおっス獄寺。突然だが、今から鬼ごっこをするからお前は逃げろ』
「…。はい?」
『最近ツナがたるんでるからな。鬼ごっこで鍛えてやろうと。で、お前以外が鬼だ。だから逃げろ』
「はぁ…分かりました」
『ちなみに、お前を捕まえた鬼には賞品として[獄寺一日自由権]が与えられる。心してかかれ』
………。
「―――はいっ!?」
『鬼は既にお前を探している。制限時間は六時までだから、頑張って逃げ回ってくれ』
「ちょ、リボーンさん!!」
『では、健闘を祈る』
ブツッ
(以上、回想シーン終わり)
…電話が切れたあと、オレは思わず少し途方に暮れてしまった。
オレ一日自由権って…基本的人権の尊重は一体どこに行ってしまったのか。
い、いや。そのことはひとまず置いておこう。まずは逃げ切るのが問題だ。
先ほどのリボーンさんの物言いから、まず10代目は鬼だ。…あとオレの後ろを追い掛け回している山本も。
っだー! あいつ足速すぎだろ!! ヘビースモーカーのオレのことも少しは考えてろ!!
…まずいぞ。この直線走行ではオレはまず負ける。どうする。どうすればっ
「ごーくーでーらぁー!」
走りながら、オレの名を叫ぶ山本。
正直、怖い。
「な、なんだー!」
「なんで逃げるんだー!?」
「お前が追いかけてくるだからだろーが!」
「そんな一日自由権ぐらいどってことねーだろー!? オレで手を打っちまえよー!!」
ふざけんなー!!
「じゃあ聞くけどー! お前オレの自由権を手に入れたらどうするつもりだー!?」
「どーするって、そりゃーお前…」
「………?」
山本の気配が、遠のいた…?
恐る恐る振り返ると、そこには…
何故か壁に寄りかかって、鼻血垂れ流して、悶えている山本の姿があった。
「やばいって獄寺。…それ、犯罪……」
犯罪なのはお前の頭の中だ馬鹿野郎ー!!
とにかく、好機再来と。オレはそこから逃げ出した。
…どれほど、走り回ったのだろうか。もう足が棒のようになっていた。
走っていた足を止めると、どっと疲れが押し寄せてきて。思わずそこにへたりこんでしまう。
…そこに、ぬっと現れた黒い影。
「………?」
見上げていたのは、何故か微笑んでいる―――雲雀。
「「……………」」
とっさにオレは倒れて。そのすぐあとに、雲雀の腕が通過した。
「…やっぱり、お前も一枚かんでたか……」
「まぁね。キミを一日かけて僕に骨抜きにしちゃおうと思って」
なに不吉な事ほざいてんだ。
「…でも。もうキミは逃げ出れないよね。そんな倒れている状態で、僕から逃げられる訳ないし」
く…っ確かにその通りだ。どうする、オレ…
あわや雲雀の腕がオレを捕まえる―――と思ったとき、雲雀の腕が急に跳ね上がった。
その腕に巻きついているのは…鞭。
「―――よぉスモーキン。危ない所だったなぁ」
「跳ね馬…っ」
「………誰? 僕の邪魔するなんて、いい度胸してるじゃない」
「そう言うなよ。オレだってスモーキン狙ってんだから」
「……だったら、僕の腕を捕らえるんじゃなくて。彼を巻きつければよかったんじゃない?」
………。
「……………あ」
アホ―――!!
しかし、助かった。オレはなるほどと納得しているディーノと鞭が腕に巻きついている雲雀を置いて、走り去った。
時間を見れば、残り時間は数十分を切っていた。
……よし、このまま逃げ切ってやる。
と、オレが決意を改めた時。…オレの前に、一人の男が立ちはだかった。
「…待ってたよ。獄寺くん」
「っ……10代目」
ああ、そうだそうだった。まだこの人が残っていた。
「―――やはり。貴方から逃れられる事は出来ませんでしたか…」
「うん。オレの事をわかってくれて、嬉しいよ」
「えぇ、他の誰でもない…貴方の事ですから」
嬉しいことを言ってくれる、と10代目は笑う。
「そこまでオレのことが分かってくれてるんだから、大人しくオレに捕まってくれないかなぁ?」
「ダメですよ10代目。これはリボーンさんの訓練なんですから。ずるをすると後が怖いですよ」
――とまぁ、これはあくまで建前で。
貴方と二人っきりだと正直猛禽類に狙われた鼠のような気分になるからなんですけど。
いやいや、冗談ではなく。本当に怖いんですって。
「じゃあ仕方ない。正攻法で獄寺くんゲットしちゃお」
10代目は懐から鏡を取り出して。オレに向ける。夕日に反射した光がオレの眼に当たり、一瞬だけオレに隙が出来る!
―――って、滅茶苦茶卑怯じゃないっすか!!
このまま突っ立っていても、10代目に捕まるだけだ。
オレは未だ眼の自由が利かない身体で後ろを向き、走る。
「遅いよ、獄寺くんっ」
「―――くっ」
一瞬で確認した曲がり角に慌てて向かって。ぎりぎりで10代目の手を避ける。
「あっ、惜しい…でも、もう逃げ道はないよ!!」
確かにその通り。ここからは暫く一直線のはずだから、さっきみたいな逃げはもう出来ない。
どうする、どうするオレ…っ
10代目に攻撃なんて出来ないし、かといって捕まりたくはないし…っ
―――って、そうだ。
「く…っ10代目、失礼します!!」
ぷしゅーっと、白い煙が辺りを覆う。
「っ!? 煙幕っ!?」
正解です。すみません10代目。
でも、二人っきりの時の貴方の人の変わりようがいけないんですよ。
視覚の面ではこれで互角。10代目から逃れようとした、その時!
パシッ
―――腕を、捕まれた。
………誰? 10代目? …捕まった?
「六時だ。タイムオーバーだぞ」
いいや。この聞き覚えのある声は―――
「全く情けねぇな…あんだけ時間やって、結局捕まえられねぇとは…」
「む…いや何言ってるの、あそこで獄寺くんが煙幕使わなかったらオレが…」
「言い訳はいらん。世の中結果が全てだぞ」
「く…っ」
「まぁまぁリボーンさん。その辺りで…」
「ん…? まぁ、獄寺がそこまで言うんだったら、大目に見てやるか」
そう言って、リボーンさんはころりと寝っ転がる。
…オレの、膝の上で。
「くぁー、獄寺くんの膝枕なんて羨ましー! リボーン! お前ちょっとそこどけよ!!」
「何馬鹿なこと言ってんだ? これは勝者に与えられた、正当な権利の上での行動だぞ?」
オレの人権を無視した上での権利ですけどね。
「…ん? 何か言ったか? 獄寺」
「……。何でもありません」
「そうか。じゃ、オレ風呂に入るから獄寺。お前背中流せ」
うわ、今後ろにいるはずの10代目の気配が膨大しましたよっ!?
「えと…10、代目…これはですね――その」
「うん、分かってるよ…リボーンの、勝者の命令なら仕方ないよね」
そう、そうなんです! だからその射抜かんばかりの眼光を止めてくれません!?
「そうだぞツナ。そんなに獄寺をいじめるな…ああ獄寺、今夜は添い寝を頼むな」
リボーンさんはそんなに10代目を煽らないで下さい!!
おわれ。
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リクエスト「獄受けギャグ」
空さまへ捧げさせて頂きます。
リクエストありがとうございました。