「おいツナ」


「ん? 何さ。リボーン」


いきなり声を掛けられてツナは何かしたかだろうかと思う。


ええと、この間の会議。何か問題があっただろうか。それとも昨日出した書類か。それとも――…


思い悩むツナを全く気にした様子もなく。リボーンはいつもの口調で。いつもの様子で続ける。


「お前の右腕、貰っても良いか?」



お幸せに



「―――はい?」


「そうか良いか。分かった礼を言う」


そのまま席を立って部屋を出て行こうとするリボーンにツナも慌て後を追う。ていうか今のは肯定ではない。


「いやいやいやいや! 待ってリボーン! 今のなし! なしったらなし!!!」


ともすればその細い腰にしがみ付いて泣きそうなツナをリボーンは一瞥して。そして蹴り離した。


「仮にもボンゴレ10代目がみっともない真似するんじゃねぇ」


蹴りと共に頂いたのは辛辣なお言葉。てか仮にもて。本物ですから。


「…いや、まぁ……それよりいきなり獄寺くん頂戴ってなに。いきなり何の話さ」


「ん? いやお前がいつまで経っても獄寺にてを出さねぇからオレが貰っちまおうかと」



手を出さないのではなく手を出そうとすると今更ながらのように緊張してしまうだけなのだが。



本当はツナとしても獄寺に手を出したい気満々なのだが。それはもう切に。これでもかというほど。


この間も久々の休暇を使って獄寺と共に過ごすことに成功したまでは良かったのだが、結局始終もごもごしただけで終わってしまった。


「このままだといつまでもお前ら変わらない関係になりそうだし。だったらオレのものにした方が幾分かお得かと」



お得って何が!?



「―――いやだから駄目だって! オレだって昔から獄寺くんのこと好きなんだから!!」


それはもうらぶらぶなのだとリボーンに説明するツナ。しかしそれは恋敵ではなく本人に言ってこそ意味がある。


「あー分かった分かった。じゃあ時々獄寺貸してやるから。それで許せ」


ツナのマシンガン獄寺くんトークにうんざり顔のリボーンの妥協案。嗚呼獄寺本人の意思はどこへ。


しかしそんなリボーンの提案に頷くツナではなかった。というか逆に怒った。


「な…! あのね、獄寺くんをものにするとか、貸すとか。そんなこと言ったら駄目だろ! 好きなら一人の大事な大事な人として尽くさないと駄目だろ!!」


ツナの真剣な一言にリボーンは納得したように頷いて。


「なるほど。つまりオレと獄寺を応援してくれるんだな」



「―――――違!!」



「違うってことはないだろ。人の恋路にそんなに真面目にアドバイスくれるんだから。…なるほど尽くすのか」


変なところを繰り返すリボーン。一体なにをどう尽くすというのか。


「ああもうリボーン! 待ってって! ストップ! ていうかなんでそんなに獄寺くんに拘るの!!!」


「ん? ああ、それは―――」



一方その頃。


獄寺は姉であるビアンキと共にテラスにいた。


姉のトラウマはこの10年の間でどうにか治った。流石にクッキーとのセットはお断りだが。


「―――それでね、リボーンたら超優しいのよ? 超よ!?」


「はいはい」


姉の惚気話はもう聞き飽きたのだがそれでも彼女は楽しそうだから獄寺は聞いている。


姉が幸せなのは良いことだ。彼女は小さな頃から苦労していたのだからその分幸せになってもらわないと。


「貴方も早く相手を見つけなさい。愛する人を見つけたら人は幸せになれるものよ?」


失礼な、と獄寺は内心で毒付く。愛する人で言うなら広い意味で言えばファミリーはみんな愛する人だ。


もちろんその愛とビアンキの言う愛とは違うことも理解していたので曖昧な笑みで誤魔化すことにしたが。


「もう、貴方はいつだってそんなのばかり。恋愛が分からないというのなら適当に告白してしまいなさい。貴方なら大丈夫よ」


「何がどう大丈夫なんだよ」


「全部大丈夫よ。貴方なら誰にだって愛されるだろうし、振られることもないわ。…でももしも振られたら私に言いなさい? そいつ殺してあげるから」


言ってることだけならその辺の少し過保護な姉のそれと同じなのだが職業が暗殺者であることと。弟に対する愛情の深さから冗談とは思えなかった。


ていうか殺気を仕舞って下さい。辺りの温度が何度か下がってる。


「…って、オレのことはどうだって良いんだよ。リボーンさんはどうなったんだ?」


「あらあらそうだったわ。―――そう、この間リボーンとね…あら?」


ふとビアンキが獄寺のその後ろを見るものだから獄寺も何事かと首をその方へと向かせる。


リボーンがいつものように歩いてきて、そしてその後ろをツナが何故か慌てたように追いかけていた。



「あ、リボーンさんお疲れ様です。今丁度貴方の話をしていたところなんですよ。…あと10代目? どうかなさったんですか? お疲れのご様子ですが…」


「い、いやなんでもない…というか獄寺くん!」


「はい?」


「そ、その…ね。あの―――」


向き合うとまごまごし始めるツナ。最近二人っきりになるといつもこれで獄寺は困惑していた。いや、今は二人っきりというわけではないが。


「や、だから…えと……っ」


まごまごまごまご。正直うざったい。と、


「―――ビアンキ!!」


ツナはいきなり矛先を姉のビアンキへと変えた。いきなりのことに付いていけない獄寺と。怪訝顔なビアンキと。


「お、弟さんをオレに下さい!!!」


なんとツナ、本人の目の前で色々間違ったプロポーズ。というかこれはプロポーズなのか。


ビアンキはツナの言葉に数秒目を閉じて――…そしてかっと目を開いて。


「笑止! あんたみたいなヘタレにわたしの隼人は任せられないわ!!」


「んな―――! オレのどこがヘタレだって言うのさ!!」


「本人の目の前で告白しそうになったが寸前で姉に許しを乞いた所とか特に」


リボーンの最もなお言葉にガーンとツナはショックを受ける。


「う…わあぁあああああんっちくしょーどうせオレはダメツナだよチキンだよマグロだよー!!!


「じ、10代目ー! 最後の魚の意味が良く分かりませんが10代目ー!!!」


泣きながら去っていったツナを追いかけようとする獄寺だがリボーンに遮られる。


「放っておけ。今のあいつはきっと独りになりたい気分だろうさ」


「そう…なんですか?」


疑問顔だがリボーンが言うのであればそれに間違いはないだろう。獄寺は椅子に戻る。



「そういえばオレの話をしていたんだって?」


「そうよ。この間のデートの話よ」


幸せそうに微笑みながら言うビアンキに獄寺も苦笑交じりに、けれど幸せそうに微笑む。


「ええ。姉貴の惚気がもう鬱陶しくて困ってるんです」


「そうか。それは悪かったな獄寺」


ちっとも自分に非がないような謝りかたであったが、獄寺は気にせず―――


「いえ、良いんです。もし宜しければこれからも相手をしてあげて下さい」


姉貴はちっさい頃からずっとずっと苦労をしながら育ってきたので。


なので貴方が幸せにしてあげて下さいと、獄寺は笑いながら言った。


そんな獄寺にビアンキは恥ずかしそうに口を尖らせる。本人の目の前で言うことじゃないんじゃない?


しかし獄寺は悪戯っぽい笑みを向けるだけだ。まぁたまには良いじゃないかと。


ほのぼのとした空気が流れている。姉と弟のゆったりとした時間。幸せの一時。


「まぁそれはそれとして置いといてだ。オレの話を聞け」


「あ、はいすいませんリボーンさん」


「―――実はな。オレもそろそろ腰でも落ち着けようかと考えてな」


腰を落ち着ける。つまりは結婚、婚約だろうか。


しかしそろそろも何も彼はまだ10代だったと記憶しているが。まぁいつ死ぬかも分からぬこの所業。相手がいればそれもまた自由だ。


「そうですか…応援します。ってまさか相手は姉気ですか?」


「いや、ビアンキは今まで通り愛人だ」


仮にも本人の前で言うことだろうか。流石のビアンキもむっとしている。


「ちょっと。それじゃあ一体誰なのよ。貴方の相手は」


嫉妬深いビアンキの凄みにも怯まず。リボーンはあっさりと答える。


「獄寺」


「―――へ?」


いきなり名を呼ばれて獄寺は理解出来ない。え? 何? 何の話ですか?


「お前をオレの正妻に迎えたいと思う」


「え? へ? …えぇ!?」


「なんだ。オレだと不服か?」


「まさか! そんな滅相もな…じゃなくてその、」


「―――素晴らしいわ隼人!!」


傍若無人なリボーンと、いきなりの出来事についていけない獄寺と。さっきまでの不機嫌がどこかへすっ飛んでしまったようなビアンキと。


「何もしなくてもリボーンなんて大物を釣り上げるだなんて流石は私の弟!!」


しかも正妻だなんて! とビアンキはきゃあきゃあ一人で騒いでる。先程までの殺気と不機嫌さはどこへ行ってしまったのか。


「確かにビアンキも幼い頃から苦労しているだろうが、それはお前だって負けず劣らずだろうが。お前も幸せになれ」


「な、幸せって…オレは今で充分幸せです! だから大丈夫です!」


「なんだお前オレを応援すると言ったのに結局突き放すのか。オレを振舞わすとはやるな


「ち、違います違いますー! というかなんでオレにそんな拘るんですかー!?」


獄寺の思わずの叫びにリボーンはきょとんとなって。ああそうか。順序が逆か。


「オレがお前に拘るのはお前が好きだからだ。そういえばまだ言ってなかったな」


あっさりとそう言い放つリボーンに獄寺の顔が朱に染まる。


「…了平も良い事を言うな。まさしくタコだ」


「うううう、うわーん、姉貴、リボーンさんがオレを苛めるー!!」


逃げ場を失い思わずビアンキに飛びついてしまう獄寺。ビアンキはころころと笑いながら。


「あははははは! リボーン、貴方そんなプロポーズも出来るのね。私初めて知ったわ!!」


「オレがいつもしてるのでは獄寺に逃げられそうだからな」



いつもしてるのってどんなことなんですか!?



獄寺が色んな意味でショックを受けていると、ビアンキは胸の中の獄寺をぎゅっと抱きしめる。


「…でもねリボーン。流石の私もそれは認められない」


ビアンキのまさかの否定の言葉にリボーンも少し驚いた様子だ。ビアンキは続ける。


「だってね、―――隼人を幸せに、これ以上ないほど愛するのは私だから!!



しまったここも危険地帯だったー!!!



獄寺は己の逃げ込んだ所のデンジャー具合に嘆いたがしかし時既に遅し。


そんな獄寺とビアンキにリボーンはなるほどと頷いて。


「しかしそういうのを最後に決めるのは獄寺だろう。ビアンキ。一つ勝負をしないか?」


「? 勝負?」


「今から三人で同時デートをして獄寺をより満たした方が勝ち。簡単だろう?」



え…オレの意思は?



人権問題に悩む獄寺を置いて話は進む。


「ふふふ…面白いわ。いいでしょう、どちらがより隼人に相応しいか―――勝負よ!!」



だからオレの意思は―――!?



しかし獄寺に拒否権はいつものようになく。


獄寺は姉とその愛人にずるずると引き摺られて行った。





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勝利はどちらの手の中に?


リクエスト「ツナVSリボ→獄(勝者はリボーン)」
空さまへ捧げさせて頂きます。
リクエストありがとうございました。