白蘭を倒して、全てが終わった。


これで…オレたちは、過去に帰れる。





過去に戻るのは、未来に来た順番からしい。


なので、最初はリボーンさんから。


未来に来た時間通りに行くらしいから、次の…10代目の番まで数日間がある。


けれど、その方がいいだろう。


10代目は心身ともに力を使い果たし…傷だらけなのだから。


休ませなければいけない。


倒れている10代目に近付く。


10代目は気を失っていた。


極度の疲労と、安心から緊張の糸が切れたのだろう。


10代目を肩に担ぐ。


…軽い。










10代目は今、ベッドで安らかに寝息を立てている。


オレは10代目が起きるのを、ずっと待ってる。



「10代目…」



小さな声で、呟く。


10代目は、何も反応しない。


それだけ眠りが深いのだろう。


その身に受けた傷も、それだけ深いのだろう。


……また、10代目に辛い役目を背負わせてしまった。


10代目はボンゴレを継ぐ方なのだから、全てを担うのは当然なのかも知れないけれど。


助けになりたかった。


支えになりたかった。


オレは10代目の…右腕なのだから。


……………。


それに…何より、オレは10代目の……沢田さんの………


…と、10代目の身体が微かに動いた気がした。



「……10代目…?」



小さく呼びかけると、今度は反応があった。


10代目は顔をしかめさせ、ゆっくりと目蓋を上げて…そして目線を真っ直ぐにオレの方に見遣った。



「獄寺くん……?」


「10代目…!」



10代目の目が覚めた。


よかった。



「えっとオレ………っ」



傷が痛むのか、10代目が顔をしかめさせた。



「…傷が開きます。もう暫く…眠っていてください」


「……………」



オレがそう言うと、10代目は目蓋を閉じた。


そのとき口が動いて、何かを言い掛けたが…10代目の声は出ず何と言ったのか分からなかった。


………。


10代目が一度起きたことで気が緩んだのか、なんだか途端に眠くなってきた。


目蓋が…重い……


ああ、駄目だ。


寝るなら…休むなら、ここじゃなくて…自分の……充てられた部屋に………


…………………


……………


………










で、うっかり寝てしまって起きたら10代目が起きててしかも何故か手を繋いでいて更に頭を撫でてもらっていた時の衝撃と言ったらもう。


オレは慌てて飛び起き(むしろ飛び退き)土下座をして頭をガンガン床に叩き付けた。



すいませんすいません10代目!! オレってば10代目になんて失礼なことを!!


い、いや獄寺くん落ち着いて!? ていうか額割れてるよ!? 血が出てるんだけど!!


痛くないので大丈夫です!!


それはそれで問題だからね!!!



それから騒ぎを聞きつけたみんなが来て笑われるやら心配されるやら手当てされるやら。


そして騒ぎが静まる頃には、もう時間になっていた。


10代目が過去に帰る時間。


と、10代目がオレに駆けてきた。



「ね―――獄寺くん」


「あ…10代目、さっきは本当に……」


「いやいや。それはもういいから。それより、一つ教えて欲しいんだけど―――」


「はい?」





話を終えて、10代目が消える。


…過去に、帰る。


オレも数分を待てば、10代目の後を追える。


この数分の、なんともどかしいことか。



「なぁ、獄寺」


「ん?」



と、山本が話しかけてきた。



「なんだよ」


「さっきツナに、何聞かれてたんだ?」


「てめーには関係ねーだろ」


「そうだけど、気になってさ」


「………いや、なんか…ここに来る前、どこにいたのって……」










気が付くと、世界が変わってた。


慣れた未来から懐かしき過去へ。現代へ。


―――と、



「獄寺くん」



と声がして。



「10代目…」



振り向けばそこには、10代目が。



「おかえり。獄寺くん」


「…ただいまです。10代目。…10代目も…お帰りなさい」


「うん…ただいま」



って、なんか、なんだか、とても気恥ずかしい。顔がなんだか熱いが赤くなってはないだろうか?


それを悟られたくなくて。どうにか10代目の意識を逸らそうと適当に話題を探す。



「そ、その、そういうことはお母様に言われた方が…」


「母さんいなかった。出掛けてるみたい」


「そうですか…長い間留守にしてましたから、きっと沢山怒られてしまいますね」


「そうだね。…母さん怒ると怖いんだよね。獄寺くん、一緒に怒られてよ」


「そうですね。10代目の右腕たるもの常に10代目の傍に…」


「獄寺くん」



と、10代目に言葉を遮られる。


…10代目?



「ちょっと…歩こうか」


「…? はい」



10代目が歩き出し、オレを追い抜く。


オレも10代目に続く。


って、どこか空気重いんですけど。


…10代目の機嫌が悪い? オレはまたやってしまったのだろうか……





10代目は言葉を放つことをせず、オレもまた気不味い雰囲気に呑まれ何も言うことが出来なかった。


暫く、そうして沈黙が流れた。沈黙のまま、足だけが進んだ。


そして―――――



「そういえばさ」


「は、はい!?」



相変わらず前を向いたままで、けれどその口調は先ほどより柔らかく。オレは内心、酷くほっとしていた。



「獄寺くん…オレが起きるまで傍にいてくれたんだって? …ありがとう」


「い…いいえ! そんな、当然ですよ!! だってオレは」


「10代目の右腕だから?」



また10代目に言葉を遮られる。


あれ…10代目、やっぱり怒ってる?



「…オレが寝てるとき」


「は、はい?」


「オレが寝てるとき…獄寺くん、何か言ってた?」


「え…っと……10代目って、言ったような……」


「それだけ?」


「そ、それだけです…」


「……………」



沈黙が痛い。



「…なんか…」


「え?」


「なんか、そこでも右腕がどうとか聞こえた気がするんだけど」



え。


いや、確かにそれは思ったけど。


だけど思っただけで、口には出してないはずで。


だけど10代目が聞こえたというのなら、きっとオレの口から出ていたということで。


つーことはオレあの時思ってたこと全部言ってたのか!


思考ただ漏れか!! ボケてんのかオレは!!!


い、いやしかし仮に思っていたこと全部言ってたとしてもオレは別にやましいことは思ってない…思ってない………はず……



「あの、10代目…」


「うん?」


「オレ…なにか、その……おかしなこととか、変な事…言ってませんでしたか…?」


「いいや。いつも通りの獄寺くんだったよ」


「そ…そうですか……」



それはよかっ



「ああ、少しいつも通りじゃなかったか」



なんですと!?



「オレが寝惚けてなければ。沢田さんって。聞こえた」



…………………。



ぐあああああああああ…


思った。


いや、10代目に聞こえていたのだから言った。



「す…すいませ、10だい……」


「謝るんだ」


「そりゃ…」



そもそもあの時思っていたことを10代目に知られただけでも不覚なのに!!


ああもう顔に熱が集まってくる。熱い。だけど逆に考えれば聞かれたのがあそこまででよかった。あれ以上を知られていたらもうオレは死ぬしか―――――



「沢田さんのあと………なんて続けるつもりだったの?」



オレに死ねと!? 流石10代目素晴らしくピンポイント射撃です!! じゃなくて!!


とっさに脳内にどう対応するか駆け巡る。案一。「覚えてません」と言って誤魔化す。却下。覚えてる。超覚えてる。10代目に嘘は出来る限り付きたくない。つか最近10代目には嘘が通じない気がする。


更に対応策が脳内を駆け巡る。案ニ。黙秘権を執行する。却下。まるで10代目に隠し事をしている気分だ。いやしてるんだが! 先ほどと比べ物にならないぐらいの気不味い空気が流れるであろうことは否めない。


ああもう早くも脳がいかれてきたのか変な案を出してきた。案三。全てをぶちまける。それが出来ないから今苦労してんだろうが!! 言えるか実はオレずっと前から10代目のこと―――――



「獄寺くん」


「はい!!」


「言いたくないなら。別にいいよ」



と、静かに言って。そのまま歩き出す。


何も言われてないのに、まるで「着いてこないで」と言われてるように感じ。


見捨てられたかのような―――そんな感覚を味わう。


10代目に…見捨て………



「オレは――――沢田さんのことが好きだからです!!」



ぴたり。と10代目の足が止まった。


ってしまった本当にそのままストレートに言ってしまったもう少しオブラートに包むとか言い方はあっただろうに!!


い、いやまだ持ち直せるか? 大丈夫か? ここからしかしこの感情は友人のそれと変わりなく…って10代目相手に友人関係と言うのもまた畏れ多いような、


とか思ってる間に10代目がオレを向き、更に一歩進んでくる。その顔は落ち着いている。



「オレのことが好きって……友達として?」



渡りに船な問い掛けが来た。流石です、10代目。


後はこれに同意するだけでいい。そうすれば今後似たような事態が起こったとして誤魔化せる…



「え…ええ、そうです」


「なんだ、残念」



残念ってどういう意味ですか!?


ていうか10代目距離近いですよ!?


10代目は気付けばオレと触れ合えそうな距離に。


オレは思わず仰け反っていた。しかし後ろは壁だった。頭を思い切りぶつける。痛い。



「オレとしては…」



10代目の手がオレを掴む。え。いや。あの、10代目。なんだか身に纏う空気が。雰囲気がいつもと違うような、



「オレとしては…獄寺くんとこういうことをする意味での方が嬉しいんだけどね」


「それは一体どういう…」



全てを言い終える間もなく、視界が10代目の顔いっぱいに広がる。


え、ちょ、10だい―――――



「ん…んーーー!!」



唇に、何かを押し付けられた。


何か、なんて。この状況で思いつくのなんて一つしかないけど。


けどそれをそうだと認識したら。ますます頭が混乱する。


とりあえず10代目から離れようと10代目の身体を押しのけるが…10代目の力が強いのかオレの身体に力が入らないのかまるで抵抗出来ない。


逃げようにも背後は壁なので横に身体をずらすが…10代目もそのまま付いてきてバランスを崩してそのまま倒れてしまう始末。


頭からコンクリートに激突する。が、痛くない。むしろ唇にひときわ大きく押し付けられた何かの方がダメージは大きい。


倒れたことで10代目も驚いたのか、離れてくれた。オレは息を止めていたことを思い出し大きく呼吸した。



「ご…ごめんね獄寺くん。そこまで嫌がられるとは思わなくて……」



い、いえ、あの、別にオレは嫌がっていたわけではなく単に……ちょっと…かなり驚いていたわけでありまして。


ということを言いたいのだが呼吸が定まらない。心臓が大きく鳴り響いているのが聞こえる。身体が、頭が熱い。死ぬ。色んな意味で。



「だけど、もうしないから。ごめんね、オレ獄寺くんの気持ちも考えないで……」


「いえ…あの………今のは……」



やっと呼吸が落ち着く…いや、決してまだ落ち着いてはいないがそれでもどうにか喋れる程度までには落ち着いた。


ぼうっとした頭で10代目を見れば、10代目も顔を赤くしていた。あ、可愛い…じゃなくて。



「いや…その、ね。つまりオレは獄寺くんが…好きだと言うことだよ」



心臓が物凄い勢いで跳ねた。


10代目が…10代目も………その、オレのことが?



「いつも周りに誰かいるけど今は誰もいないし…」



確かにいつもなら10代目の傍には誰かがいる。けど、その大多数は現在未来にいるのである意味二人っきりか。



「あそこまでするつもりは最初はなかったんだけど…つい気持ちが暴走してしまったと言うか……本当ごめん」


「い、いえそんな…」


「気持ち悪かったでしょ?」


「い、いえむしろ嬉しかったと言いますか…」



ってオレは何言ってんだよ!!


10代目もきょとんとした顔を作る。



「え…でも友達に―――――…ああ、そうか外国じゃキスぐらい普通にするから…」



10代目が納得しかけている。


これに、オレがそうですよと同意すればそれで話は終わるだろう。それで、全てが…


終わる―――――…



「いえ、すいません10代目。オレ、その…さっき10代目に嘘を付きました」


「え?」


「10代目が好きだと言ったのは、友達関係での好きと言いましたが……あれは嘘なんです。本当は…」


「…本当は?」


「……………10代目の抱いている感情と、同じ意味での、好きです」



10代目の目が見開かれる。



「10代目に嫌われたら、引かれたら、避けられたら…そう思うと言えなくて、今までずっと黙っていました。すいません」


「…謝らないでよ獄寺くん」



抱きしめられる。誰に? 10代目にだ。



「オレは今、とっても嬉しいんだからさ」


「10代目…」


「沢田さん」


「?」



疑問符を浮かばせ10代目を見上げれば、10代目は少し怒った顔で。



「オレは10代目って言われるより、沢田さんって言われる方が好き」


「え、10だい…」


「沢田さん」


「………沢田さん」


「よろしい」



にっこりと10代目…沢田さんが笑う。


その顔に引き寄せられるかのように、気付けばオレは沢田さんに口付けをしていた。


……………って!?


正気に返りオレは慌てて沢田さんから顔を離した。



「わ! す、すいません10代目今のはその、違うんです!!」


「沢田さん」


「はいすいません沢田さん!!」


「あと」


「はい!!」


「…今のは嬉しかったから。謝らないでもいいよ」


「は…い……」



もう、その、嬉しかったとか。その発言がとてつもなく嬉しいです10代目。ではなく沢田さん。



「…じゃあ、その、さ。…これからよろしくね。獄寺くん」


「…はい。………沢田さん」



差し出された手を、そっと握る。


なんだかとてつもなく気恥ずかしくて。だけれどそれ以上に嬉しくもあって。思わず笑った。


10代目も笑い返してくれた。


そうして、この日から。


オレと沢田さんは、恋人になった。





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ひとまず明日、早速デートの約束を取り付けた。


リクエスト「獄ツナで原作沿い。未来から帰ったばかりで獄がツナに告白、ツナが獄にちゅー」
こもたけ。様へ捧げさせて頂きます。
リクエストありがとうございました。