「……獄寺くん。………死なないで」
「…………………………」
オレの小さな呟きに、獄寺くんは何の返答も示さない。
でもそれこそが、彼なりの返事だという事ぐらい、オレにも理解出来て。
……当たり前だ。彼は死にたい訳じゃない。死なない方法があるのなら、とっくに実行しているはずだ。
「……ごめん」
「…いえ。いいんです」
獄寺くんの口調が弱々しい。見れば、目蓋が重そうに下がってはまた持ち上がっていた。
「……っ、ごく、でらくん」
「………なんですか?」
オレの泣きそうな声にすらもう気付かないかのように、獄寺くんは受け答えする。
それほどにもう、余裕がないんだ。
オレは気を抜くと溢れ出て止まらないであろう涙をぐっと堪え、訊ねる。
「なにか……っオレに、して欲しいことって、ない…?」
「なにか…ですか?」
「うん…なにか。今なら、何でもしてあげるよ」
今を逃したら、もう何も出来ないだろうから。
だから何でもしてあげたかった。どんな無茶な要求にも、オレは応えようと思った。
―――――なのに。
「なにも…ないです」
なのに彼は、オレに何もさせてくれなかった。それがどうしようもなく、悲しかった。
「なん……っで」
「だって、オレはもう十二分に、して貰ってますから」
「………え?」
見ると、獄寺くんはオレに笑いかけていた。
「10代目が、傍にいます」
苦しそうだけど、決して無理をしている風には見えなかった。
「10代目に、抱きしめられています」
そんなこと、オレにとってはしてあげることにすら入ってないのに。
「……これ以上、オレは一体、何を求めればいいんでしょう」
なのに、獄寺くんは満足してるんだ。これ以上のものはないと言わんばかりに。
「…でも、そうですね……強いて言わせて頂ければ」
「……うん」
「もう少しだけ…このまま抱きしめていて下さい」
「そんなことで、いいの?」
「そんなことじゃ、ないですよ」
「……分かったよ。獄寺くん。ずっと、抱きしめてる」
オレが茶化して応えると、獄寺くんは困ったように笑った。
「ずっとは、さすがに恐れ多いです」
「そう、かな…?」
「そうですよ…じゃあ、そうですね。オレが寝るまで、お願いしても、いいですか?」
「っ……うん、分かった…獄寺くんが寝るまで、抱きしめてる。絶対、離さない」
獄寺くんは小さな声で一言、ありがとうございますと言って、そのまま目を閉じた。
オレは震える身体を叱咤して、獄寺くんの身体を力一杯抱きしめる。
眼から熱いものがぽろぽろ零れていく。
「獄寺くん…獄寺くんっ」
獄寺くんが動かなくなっても。暫くオレは、彼を抱きしめる力を弱めることが出来なかった。
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時が流れて。彼が冷たくなっても。
それでもオレは、抱きしめる力を弱めることが、出来なかった。