「じゅうだいめ」


「ん? なに? 獄寺くん」


「あいしてます」



さよなら理性



え、ちょっと待って。そしてもう一回言って。


「なんどだっていいますよ。10代目。すきです」


うわ、ちょ、どうしよう。今すごい幸せすぎるんだけど。


だって、だってさ。いつもの獄寺くんはそんなこと言わない。


いつもの獄寺くんなら、いっくらオレがせがんでも絶対言わない。


顔を真っ赤にさせてさ。そしていきなり何言うんですか! とかそんな感じのこと言ってさ。


あれやこれやと色んなこと言って、その必死の様子が可愛くて。いつの間にかはぐらかされてるのに。


え、その獄寺くんが。え、どうしちゃったの? いや、もう死んでもいいほど嬉しいけど!!


「ご、獄寺くん…オレも……」



「リボーンさんもすきですーですからもーいっぱいおかわりくださいー」



「…安い愛だな、獄寺」


………うん。まぁ分かってはいたさ。


通常状態な獄寺くんがあんな台詞言える訳がないよね。シラフだと言えないよね。うん。


ま、何があったって。何が起きたって。つまり…



※ ※ ※ ※ ※



リリリリリリリリ。リリリリリリリリ。


「はいもしもし。…シャマル?」


『よーボンゴレ坊主。元気かー?』


「珍しいね。こんな休日に一体何の用さ」


『いやー、色々あって酒を大量に貰っちまってよ。処分するの手伝ってくれよ』


「は…? 何シャマル。オレに酒を飲めって言うの? あのね。そっちはどうだから知らないけど、日本じゃ20歳以下の…」


『ちなみにオレの隣には今隼人がいたりする』


「―――今どこにいるのシャマル! 保健室!? 直ぐに行くから獄寺くんに指一本ですらも触れないでね!!!



※ ※ ※ ※ ※



…とまぁ、そんなことがありまして。


今オレは学校の保健室で獄寺くんとリボーンとの三人で酒盛りなんてしていたりする。


ちなみにシャマルはオレが



「ちょっとシャマル! 獄寺くんに半径三メートル以内に近づかないで! 獄寺くんが孕んだらどうしてくれるの!!



との一言で追い出しました。


そしてそれから暫くしてから獄寺くんのいきなりのあの一言…はぁ。


「獄寺くん…もう飲んでたんだね…」


「へ? なんのはなしですか?」


「なんでもない。…獄寺くん、あのね。一応日本だと未成年の飲酒行為は…」


「そんな10代目、かたいことはいいっこなしですよー」


ってうわー! 獄寺くんがオレの話の腰ををやんわりと折ったー! なんか新鮮ー!!


…うん…でもまぁそうだね。いつもと違う獄寺くんが見れると思えば、お酒もまぁ悪くないかな…


「どうしたんですか10代目ー?」


「んー? 獄寺くん可愛いなって」


「えへへ、ありがとうございますー」


わ、いつもなら顔真っ赤にして「なななななな、なに言ってんですか!!!」なんて言うはずの獄寺くんが…!


やっべ可愛いー。


「…なんだこのバカップルは」


うるさいなリボーン。馬鹿でいいよバカップル上等だよ。


この獄寺くんの満面の笑みの前では怒りなんて芽生えないよ。


この…ね。オレにしか決して見せないこの笑顔…! もうやばいね。惚れるね。


…っと。



―――ガラッ



「…キミたち…こんな所で何してんの」



今見つかってはいけない人に見つかってはいけない場所で見つかってはいけない行為しつつ見つかってしまった…!



学校の保健室で未成年の飲食行為なんて、何気に学校大好きっ子の雲雀さんが許せる行為なわけないよね…! どうしよう!!


「えっと、これは…その」


「あ、ひばりー! こんなやすみのひもしごとかー? おまえはえらいなー!」


って獄寺くん呂律が回ってない状態で雲雀さんに近付かないで! ぼこられる!!


「…キミ、なんでそんなふらふらな上酒臭いの…ごめん。今日こそ咬み殺していい?」


「あははははは! わりーわりー! こんどからきをつけるからさ、こんかいだけおおめにみてくれよー!」


「…あのね。僕がそんな酔っ払いの戯言を聞くとでも…」


「そんなかたいこというなよー! おれとおまえのなかだろー! な、きょーや!!」


「………」


「んー…?」


あー、雲雀さん固まっちゃった…って――


「――…っ」


「ぅわ!?」


あ…雲雀さん獄寺くんを思いっきり突き飛ばして保健室から出て行っちゃった…


「…? ようボンゴレ坊主。確か学校って所の廊下は走っちゃいけない決まりじゃなかったか…?」


そして雲雀さんと丁度入れ違いにシャマルが戻ってきた。


「あ、シャマル。どこ行ってたの今まで」


「ん? 酒だけだと辛いと思ってつまみを色々買ってきた」


「つまみー!」


つまみの一言に反応したのか、突き飛ばされたままでしゃがみこんでいた獄寺くんが立ち上がってシャマルに近付く。


「って獄寺くん駄目だ! 子供が出来る!!


「出来るかそんなものー!!」


「つまみー!」


ああもう、獄寺くんはシャマルの持ってきたつまみの入った袋に反応しているだけだろうけど傍絡からみ見るとなんだかシャマルに抱きついてるように見えて。シャマルが憎らしい。


「もう獄寺くん! おつまみならそんな抱きつかなくても手に入るから! だから離れて!」


「やー、ですー」


なぁ!?


ご、獄寺くんがオレの言うことを断った…!?


「これが酒の力か…」


「何項垂れてんだお前」


「…隼人。お前、酒飲むと変わるんだな…初めて知った」


「なにばかなこといってんだよしゃまるー! おれはいつもどおりだって!」



それがいつも通りだったら今頃こんな所で酒なんて飲んでる事態になってないと思うよ獄寺くん。



「ていうか獄寺くん、シャマルのこと嫌いじゃなかったの…?」


「なにいってるんですか10代目ー! そんなことないですよー!」


「…へ?」


「しゃまるはー、おれのあこがれでー! だいすきなんですよー!!」


そう言っては、むぎゅーっとシャマルに抱きつく獄寺くん…ってちょっと待って!


「だ、大好きって、大好きって…!」


「しゃまるはー、おれのおやじっつーかあにきっつーかそんなかんじで。だいすきですー!」


…え、あ…そんな感情の好き? ああびっくりした…


「いや、でもそれでも抱きついて欲しくないのが男心…!」


「お前なに言ってんだ?」


うるさいリボーンは放っといて。抱きつかれてるシャマルはというと…


「…あー、やべー。隼人萌えー


なにやら良く分からない分かってはいけない未知の単語を使っていた。


「ってシャマル! 獄寺くんがシャマルのこと好きって言ってるのは決してそっち方面じゃないから勘違いしないでよね!」


「別にいいよどっちだって。この隼人の笑顔の前なら大抵のことはどうでも良くならぁ」


…へ?


獄寺くんの…笑顔の、前?


「ご、獄寺くんー…ちょっとこっち向いてみて?」


「はい?」


くるり。そんな感じでこっちを見た獄寺くんは…


「ぐぁ…」


限りないほど満面の笑みだった。それはもうオレに向ける笑顔のような。


あー、もしかしてさっき雲雀さんが走って行っちゃったのって、まさか…


「ご、獄寺くん…まさか雲雀さんにもそんな顔で接しちゃったの…?」


「なにいってるですか10代目ー!」


ほ…良かった、違うよね。


「おれはいつだってこんなかおじゃないですかー!」



――それがいつも通りだったらまず間違いなくこんな所にいないから! まずそれ分かって獄寺くん!!



「ああああああああもうばかばか! とにかくこっち! こっち来て!!」


言って。オレは獄寺くんを無理矢理自分側に引っ張ってきて。獄寺くんは訳が分かってない顔していて。


「? なんですかー?」


いや、なんですかって獄寺くん。


「えー…っと」


………。


しまった。なんて言おう。


まさかオレ以外の人間にその笑顔を向けないでなんてシラフじゃ言えないしね!


あわあわしているオレに対して獄寺くんはにこにこしいてる。


「えと、その…」


「はい」


いやその…本当なんて言おう。


「お…お酒なんてもう飲んじゃ駄目だよ!」


「へ? なんでですか? こんなにおいしいのに」


「何でもなにもないの! 色々事情があってとにかく駄目なものは駄目!!」


そう言った途端、今までとろんとしていた獄寺くんの目が少しだけ前を見た。


「…おきらい、ですか?」


「…へ?」


「…さけ…のむやつ。10代目は、おきらいですか?」


「い、いや、そんなこと…」


「おれは10代目のこと、すきで。あいしていますけど」


獄寺くんは、そこで一旦言葉を区切って。


「…10代目は、おれの、こと…おきらい、ですか?」


少し寂しそうに、そう言って。


―――ふらりと、オレの方へと倒れ掛かってきた。


「うわっ獄寺くん!?」


受け止めた獄寺くんは静かに寝息を立てていて。


…どうやら、酔い潰れてしまったようだ。


「…リボーン」


「ん?」


「――酒! 何でもいいから酒持ってきて!!」


「いきなりどうした?」


「酒は獄寺くんの毒だということがよく分かった! よって流して処分する!!」


「おいおい、勿体無い事するな。これ結構高い酒なんだぞ?」


「そうそう。…それに、将来の為にもここらで酒に対する耐性もつけとかねぇとな」


……ん?


なに、この怪しい風向きは。


「ちょ、だからオレは…」


「嫌なら獄寺が目を覚ましてからまた飲ませるが」


「謹んで飲ませて頂きます!!!」



※ ※ ※ ※ ※



―――そうして、どれほどの時がたったのか。


オレは身体を揺すられて起きる。頭ががんがんと鳴いている。痛い。


「じゅ――だいめ。大丈夫ですか…?」


目を開けて。飛び込んできたのは心配そうにオレを見つめる獄寺くんで。


リボーンとシャマルは…いない。ついでにあの大量にあった酒瓶も。


オレの最後の記憶によると、まだまだ酒はあったみたいだからどこかに移動して楽しんでいるのだろう。オレは獄寺くんと共に置いてきぼり。


「あ…獄寺くんおはよう」


「おはようございます。…ところで、えっと…なにか、あったんですか?」


「え?」


そういう獄寺くんは決してふざけてなくて。…いや、獄寺くんはいつだって真面目だけどさ。


「あの、オレ…シャマルに呼び出されて保健室に来た辺りで記憶が飛んでるのですが…」


え、ちょ…ちょっと待って?


「え…獄寺くん。本当に何も、覚えてないの?」


「なにをですか?」


…マジですか。


「―――獄寺くん。一つ聞くよ? 真面目に答えてね?」


「? …は、はい」


その真剣な声に、オレは一呼吸して――


「獄寺くんは、オレのこと…好き? 愛してる?」


「………」


「………」


「――…!!!」


おお、獄寺くんの顔がまるでゆでだこのように。


「なななななななな、なんてこと聞いてきますか10代目ー!!」


ああ、うん。これだ。これでこそ獄寺くんだ。


「オレは、その…っですね! えと…だから!」


未だにオレの問いに答えられなくて。あわあわしている獄寺くんが愛おしくて。


「獄寺くん」


「は、はい!」


「今後一切…お酒飲むの、禁止ね」


「はぁ…って、え?」


獄寺くんは突然の話題の切り替えについていけないようで。頭の上に見えないクエスチョンマークをいくつも浮かべてる。


「絶対絶対ぜーったい、禁止だからね?」


オレは更に飲むなと念を押してから。思い出したように一言付け加えた。


「…オレの前、以外では絶対ね」





余談。最近雲雀さんの様子がおかしいらしい。


なんでも、いつもぼうっとしていて。溜め息を吐いたかと思うと急にはっとした様子になり、頭をごんごんと壁にぶつけるとか。


ついでにその時運悪く近くを通り掛った生徒の証言によると、雲雀さんは随時


「やばいやばいやばいって! 何あの顔! あんな顔出来るだなんて知らない! ていうか反則! ちょ…駄目だって無理無理無理!」


…と、そんなことを口走っていたらしい。


学校での飲酒行為が公認になる日が来ないようにと願うばかりです。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

雲雀さんと獄寺くんを二人っきりにしないようにしなくっちゃ。


リクエスト「酒話」
リクエストありがとうございました。