その日は、慣れないコンビでの任務で。


何の因果か、よりにもよって相手があの野郎で。



純黒と不純銀



人の気配とその音が途切れると。辺りは一気に平和を取り戻した。


そよ風が思い出したように吹き出し、小高い丘にはあたたかな陽の光が届いて。


ピクニックにはもってこいな日和だった。


しかしそれも、数時間前ならの話で。


現在、この丘には生臭い血の臭いで充満していて。そしてそれ以上に死体が転がっていた。


(とてもピクニックには行けねぇなぁ)


そんなどうでもいいことを思う。本当にどうでもいいこと。


そんなことをぼんやりと考えていると、本日の相棒の顔が現れた。


「…何だよ」


「顔に傷は付いていないみたいだね」


オレの問いには答えず。奴はそれこそどうでもいいことを言う。オレの顔に手を這わせながら。


「…止めろ」


「嫌だよ。こんな時くらい、キミを独り占めしたい」


奴の手はあちこちを行き回る。オレの首筋を、頬を、耳を、額を、頭を。


「…くすぐったい」


「まぁ気にせずに」


何が気にせずにだ。ふざけるな。


オレのそんな視線も、それこそそよ風程度にしか感じてないらしい雲雀はオレの髪をずっと撫でている。


「髪は止めろ」


「いいじゃない。僕はキミの髪、結構気に入ってるんだから」


「オレは嫌いだ」


どこを見ても、オレと同じ髪の人間はいなかった。それだけで変な目で見られた。


「…じゃあ、眼も?」


「ああ」


眼も同様、どこを見てもこんな眼の色の人間はいなくて。あの奇異の視線は一種のトラウマだった。もう克服したが。


オレはイタリア人にも日本人にも成れなかった半端物だと。よくその事を嘆いたものだ。


「僕は好きなんだけどな」


そう言っては、光から遮断するように目蓋越しに手を置いて。


「…オレは、お前の方が好きだな」


その手が。小さく震えた。


「お前の髪も。眼も。真っ黒で日本人らしくて。オレは好きだな」


「…ああ、好きって。そういうこと」


「どうした?」


「…なんでもない」


ぱっと急に手を離され、光が眼球を刺激して。思わず顔をしかめる。


それだけならまだともかく。奴はいきなりオレを横抱きした。…分かりやすく言うと、姫抱っこ…という奴だ。


「な―――にしやがる雲雀! 離せ! てか降ろせー!!」


「五月蠅いな。きゃんきゃん喚かない。起きれないほどの怪我負ってんでしょ? 黙って運ばれる」


「なっ…」


ばれてたのか。


「むしろ気付かない方がどうかしてるけどね。任務中キミが横になるはずがないし。僕がちょっかいかけても払おうともしないし」


「…だからって」


それでどうしてこんな運び方になるのか。しかし抗議しようとするも身動ぎするだけで痛みが走るのが現状だ。


「邪魔者がいないんだから、今だけはキミを独占させてもらうよ」


その雲雀の声が珍しく嬉しそうで。この状況を打破する手段をいくつか思い浮かべたが、こいつの前じゃ全て跳ね除けられるのだろうと半ば諦め。


「………好きにしろ」


そんな言葉と共に眼を瞑り。オレはやがて来る睡魔に身を委ねた―――





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うん。好きにさせてもらうよ。