僕にとって生とか、死とか。そんな事はあまり重要じゃない。
僕にとって重要なのは、そこにキミがいるかどうか。
それだけで・・・
さっきからどたばたどたばた喧しい。まったく、少しは落ち着けばいいのに。
―――ま、無理はないかな?
彼が敵対ファミリーに囚われたのだから。
何とか彼を助けようと奮闘している彼らを尻目に、僕は一人部屋を出る。
あの赤子に、呼び出された。
「来たか。雲雀」
「やぁ。僕に一体何の用? 僕は今、彼の事で忙しいんだけど」
「そいつの事で呼んだんだ。さっきあいつから連絡があった。連中の隙をついてだったから、かなり短かったがな」
「…へぇ。綱吉じゃなくキミに連絡するなんて。信頼されてるね」
「ツナには言えない事だからな。…あいつは毒を盛られて、もう長くないらしい」
「―――ふーん。で?」
「あいつたっての要望だ。…自分を敵アジトごと、潰してくれだと」
くくっと、思わず笑いが零れる。なるほど、確かに綱吉には言えない。他の誰にだって。
「彼らしいね。それで? その事を僕に言ってどうするの? まさかその役、僕にやらせてくれるとか?」
「そのまさかだ。他のメンバーではいざって時に戸惑いが生じる。そんな思考を持ってる奴が行っても無駄な犠牲が増えるだけだ」
まぁそうだろうね。彼らが彼を殺すなんて、そんな事が出来るとは思わない。思えない。
「…だから僕?」
「そうだ。行ってくれるか?」
「キミはどうするの?」
「オレは他のメンバーの足止めだ。それともお前がするか?」
「遠慮しとく」
足止めなんて柄じゃないし。それに一対一ならともかく、彼ら全員を纏めて止める自信は流石にない。
「…分かったよ。―――赤ん坊」
僕はいつか言ってた彼の名称を呟いて。
「じゃあね」
彼を捕えた敵アジト。そこに車を走らせる。
入り口には見張りと思わしきマフィアが数人。
………けれど。関係ない。
今から僕がすることは、あの程度の人数じゃ止められない。
ぱぁんと。ボンゴレの特製弾を撃つ。
―――――大爆発。
またも撃つ。また爆発。さらに撃つ。そして爆発。
ああ、慌ててる慌ててる。そりゃそうだよね。いきなりアジトが爆発してるのだから。
このボンゴレが開発した弾は、"燃える"事に対してだけ特化している。
消火器程度の道具では消せない。ますます炎は燃え盛る。
蜘蛛の子を散らすようとはこの事なのか。と思わせるように人がどんどん逃げてゆく。それを背後からまた撃っていく。
その合間を縫って僕はアジトに侵入する。その間にも撃っていく。
爆発、爆発。大爆発。
燃える燃える。燃え盛る。その中を僕は突き進む。迷いはない。建物なんて、大体どこもかしこも構造は似ているものだ。
その証拠にほら。やっぱり彼はそこにいた。
「―――やあ」
「な、え? 雲雀…?」
彼は驚く。まぁそうかもね。
僕はトンファーで牢の入り口を壊して入る。彼は酷く痛めつけられていた。
「あーあ。痛そう。大丈夫?」
「な、あ、馬鹿! オレはもう死ぬんだ! 毒で…」
「知ってる。全部赤ん坊に聞いたから」
「分かってるんならどうして!」
…分かんないのかなぁ。この子は。
ぎゅっと僕は彼を抱きしめる。華奢な身体がすっぽりと僕の腕に収まった。
うん、そう。これこれ。僕の求めていたもの。
「……随分と冷たい身体だね。毒のせい?」
彼の身体は不自然にかたかたと震えていた。まったく、誰? 人のものを勝手に壊して。
「雲雀…逃げろ」
「なんで?」
「なんでって、分かるだろ!? オレは長くない! オレはここで死ぬんだ! だったら、お前だけでも…」
「嫌」
「雲雀…!」
ああ、もう。まったく。10年も付き合っているのに彼は未だに僕のことを理解してない。
「…僕にとってはね、生とか死とか。そんな事はあまり重要じゃないんだよ」
「……?」
「僕にとって重要なのは、ここに。僕の腕の中にキミがいるかどうか。それだけなのさ」
「雲雀…」
だから、と。僕は更に彼を抱きしめる力を強めて…
「僕、もうキミから離れる気なんて。ないから」
そう、宣言した。
…それに。僕だって、もう長くないしね。
一人でマフィアに乗り込むなんて自殺行為して。無事ですむわけがない。
僕の身体中は、きっと血塗れの穴だらけ。まったく、痛いのは苦手なのに。
それに背後は既に炎で覆われていて。最早逃げることも出来ないだろう。
そのことが分かったのか、彼は困ったような、戸惑ったような。そんな顔をして。やがて諦めたように僕に身を預ける。
―――さぁ、ここまで来たら二人を別れさせるものなんて、そんな野暮なものはなし。
これからはきっと。ずっとキミと一緒。
このファミリーの後始末は彼らに任せよう。きっとそろそろ動き出しているはず。僕らが頼まなくても、きっと壊滅させてくれる。
キミはどうか知らないけど、僕としては結構満足。
何故なら僕は、キミといるだけで。それだけで幸せだから。
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割と、悪くない人生だったね。