突然だが、ツナは焦っていた。
物陰にそっと隠れ、向こう側を見ようと頭を出した………ところを狙われ何かが高速で飛んでくる。10年前なら縁すらなかった銃弾である。
―――あんなもんが当たったらマジで死ぬんですけど。
ツナは泣きたくなった。これは実践ではない、ただの特訓、訓練なのに。
泣きながら、ツナは思い返した。それはほんの、つい数時間前のこと。
「これからチーム戦をするぞ」
ある日の平和な昼下がり。
大きな仕事もなく、だらだらとしていたところを運悪くリボーンに見られ「だらしない」と一喝。そして上記のお言葉。
リボーンは気紛れかはたまた彼なりの計算があって言っているのか、ともあれ不定期に何かしらイベントを皆にやらせるのだ。ボンゴレ10代目だとか守護者だとか関係なく。(むしろそういう人間が被害に遭っている)
そして今回もそういうイベントであった。けれどツナを含む皆はあまり気乗りではなかった。
何故なら今回…ツナの右腕にしてボンゴレのアイドル兼マスコット。みんな大好き獄寺隼人が不参加なのであった。
正確に言えば現在獄寺隼人氏はボンゴレにおらず、任務で外に出ているのであった。彼がいないせいでみんなのテンションも結構低かったりする。
けれど今はこうして…その場にいた全員が参加していたりする。何故か。リボーンが優勝者に賞品を提示したからである。
賞品とは何か。
獄寺隼人氏との一日デート権である。
獄寺隼人氏の人権と意思を全く尊重していない、獄寺隼人という一人の個という人間を全く無視した賞品であったが、誰一人としてそのことを突っ込む人間はいなかった。
むしろ急にみんな生き生きとし出してやる気を出したのであった。
哀れ、獄寺隼人氏なのであった。
というわけで始まったチーム戦…なのだが、早くもツナは後悔していた。
言ってしまえばこれはいつかの雪合戦のようなものだ。チームに別れ、レオンを捕まえる。
相手にレオンを取られないために、相手を妨害する。
まさかそれに本物の実弾の使用のオーケーサインが出るとは思わなかった。ここは仮にもボンゴレ内部。安心出来る敷地内のはずなのに。
つーか実弾て。なんだよ実弾て。危ないだろ怪我したらどうするつもりなんだよ怪我って言うか死ぬってマジで!!!
楯代わりにしている壁がぼろぼろと崩れていく。レオンと言えばその弾丸の雨の下を冷や汗だらだら掻きつつその薄っぺらい身体を更に更に薄くして、ほふく前進していた。銃では死なないとはいえ、やはり怖いらしい。
というか、チーム戦と言いつつ実はこれは全然そうではないのであった。何故なら最終的に獄寺隼人氏とのデート権を得られるのはただの一人なのだから。
レオンを取ったチームが勝ち、なのではなくレオンを取ったその人が勝ち、なのだ。
なので背後の山本の視線が限りなく痛かったりする。これは隙あらば切りかかってやろう的な、そんな目だ。
獄寺隼人氏のデート権利は欲しいが、命も惜しい。
ここで勝っても、生きていなければデートも何もないのだ。
(というか、)
ツナは思った。チームに、ろくな奴がいねぇ。と。
先ほど一応同じチームだった某南国果物は一度皆の隙を華麗に突き、あと一歩でレオンを手に取れるところまで行っていた。惜しかった。
けれど骸はあろうことか手に取る直前で堂々たる態度で弁舌を始めたのだ。ツナは呆れた。が、そんな寛大かつ優しい態度を示したのはツナのみで、とりあえず敵チームである雲雀に頭からお得意のトンファーでどつかれた。
骸はどつかれたとき「き、決め台詞の途中で攻撃をするなんて!?」と猛然たる抗議を行ったが、リボーンに「お前の世界の常識は人間界以外に捨てて来い」と一蹴され、失格となった。
同じく同チームであるランボは、開始早々レオンがランボの近くを通ったのが災いし、誰がテメェみたいな奴と獄寺隼人氏とのデートを認めるかよと言わんばかりに集中攻撃されて、沈黙した。
こちらのチームは全員で四人であるが、相手は三人…雲雀恭弥氏、笹川了平氏、そしてたまたまボンゴレまで遊びに来ていたディーノ氏である。
なお、敵チームの内笹川は長期戦になりかけた事態に我慢ならなかったのか「きょくげーん!!」と叫びつつレオンに突っ込んで行った。男らしかったが集中砲火を受け退場した。
また、ディーノは部下なし状態だったのでいつものへたれっぷりを発揮、その後気がついたらなんかどっかいなくなっていた。どうやら(一応)味方である雲雀にどつかれて投げ出されたようだった。
というわけで、現在敵チームは雲雀一人。こちらは一応二名で、数の上では勝ってはいるが、そんなものなんの気休めにもならなかった。
何せ相手はあの雲雀恭弥。
ボンゴレ守護者単品では最強といわれているのである。
勝 て る か !
それが率直な感想であった。しかしむざむざと相手に愛しの右腕とのデート権利を与えるだなんてことは出来ない!!
負けられない!!
さてどうする。タイマンではまず勝てない。しかし隣にいる変態と組むなどと考えたくもない。
どうする、どうする…!!!
と、思い悩んでいると、
「すまんツナ!! 死んでこーい!!!」
「のわぁああああああああああ!?」
突如体が浮き、雲雀さんの方へと投げつけられた。
見れば山本が黒い笑みを浮かべながら明後日の方向…レオンのいるところへと駆けているのが見えた。
しまった! このままでは獄寺くんが山本の慰み者になってしまう!!
それだけは絶対に避けなければ!!!
「雲雀さん、山本を―――」
「キミ、邪魔」
ゴン、と頭に打撃音。雲雀さんにトンファーで殴りつけられる。痛い。
雲雀さんはオレの横を颯爽と通り過ぎ山本のところへと向かう。オレだって負けてられない。オレも向かう。
三つ巴のレオン争奪戦。勝つのは…
「オレだあああぁぁぁぁあああああああ!!!」
死ぬ気でやればなんでも出来る!!
久々の超死ぬ気モード発動!!
レオンを追う山本。
山本を追う雲雀さん。
二人を追うオレ。
逃げるレオン。
そこに。
「ただいま戻りましたー…って、何してるんですか? 10代目」
「ご、獄寺くん!?」
なんと獄寺くんが帰ってきた。
レオンが逃げ場を得たとばかりに獄寺くんに飛びつく。
「ん? レオン?」
チャンス!!
「獄寺くん!! こっち!! 来て!!」
「あ、はい」
レオンを抱いた獄寺くんは山本をよけ雲雀さんをよけ…オレのところまで走ってきてくれる!!
「なんでしょう10代目」
「獄寺くん!!」
来てくれた獄寺くんをレオンごと抱きしめる。
「じゅ、10代目?」
「―――そこまで!! 勝者ツナ!!」
どこから見てたのか、リボーンが現れ宣言する。
「ちょっと待てよ小僧。今のはずるいんじゃないか?」
「そうだよ。彼の乱入がなければ勝ったのは僕だった」
山本と雲雀さんが非難の声を上げる。
「意義は却下する。ルールはあくまでレオンを捕まえた奴が勝者。たったそれだけだ。何を利用しようと関係ない」
「リボーン…」
なぜかオレは感動した。あのリボーンがオレのためじゃないとはいえオレの味方になるような発言を…
「よってツナには獄寺と一日デート権を与えるぞ」
「よっしゃあああああああああああああ!!!」
「へ? デート?」
「深く考えるな。ツナと一日行動を共にすればいい。ちなみに有効期限は三日以内だ」
「そんなのすぐに消化するに決まってるじゃん!! 今から…いや明日の朝一から!!」
「え? いや、明日は…」
「ダメ? なら明後日…」
「いえ、オレ明後日から任務で…」
「えー!!」
「いい。獄寺。明日の用事にツナも付き合わせろ」
「しかし…」
「獄寺くんが良ければ是非!! この必死で手に入れた権利手放したくないーーー!!」
「わ、わかりました…でも面白いことはないですよ?」
「ありがとう獄寺くんーーー!!」
オレは涙を流して喜んだ。
「ところで、なんの用事なの?」
「リボーンさんに頼まれて…買い物に。あ、荷物は全部オレが持ちますから!!」
「いやいや! オレも持つから!! 獄寺くんばかりに負担はかけられないよ!!」
「でも…多いですよ?」
「だったらなおさらだよ!!」
「そーだ。お前らオレのために効率よく働け」
…リボーンこの野郎……
「リボーンさん…はい……」
って獄寺くん何故かときめいてるしー!!
ちくしょう!! なんで獄寺くんはこんな奴がいいんだ馬鹿野郎!!
「明日は張り切っていきましょうね10代目!!」
「う…うん……」
そして翌日オレは無事獄寺くんとデートをした。
ただお使いのリボーンの荷物がえらい重かったのと、この行為がリボーンのためになるのと、獄寺くんがそのことを嬉しそうにしているのを見てやや悲しくなったことは秘密だ。
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ちくしょう、リボーンめ!!