某月某日。
ザンザス率いるヴァリアー一行は並盛水族館へと着ていた。
知る人ぞ知る天下の暗殺部隊が何故こんな所へ…というのは物珍しげに、仄かに目を輝かせながら周囲を見渡す獄寺を見ればだいたい察し頂けるだろう。
ある日、何気ない会話から並盛の話になり、今話題の水族館の話になり、獄寺が食いついたのだ。
なんでも、今まで一度も行ったことがないので興味があるとか。
少し照れくさそうに言う獄寺に、ヴァリアーの心は一つとなった。
そして今日、この日である。
ついでに言えば、昨日の今日である。
表向きはいずれ裏から支配するであろう並盛にある施設の下見とあるが、そんなもの当然建前でその真意はただただ獄寺の為である。
そんな獄寺はみんなの真意を知らないまま純粋に水族館を楽しんでいた。
「おいスクアーロ! サメだぞサメ!! 一緒に見ようぜ!!」
「お…おう」
スクアーロは過去の一件と名指しされたというみんなからの嫉妬の視線から多少顔色を悪くしつつも獄寺の所へと向かう。
獄寺が楽しんでくれるのは大歓迎だがその隣にいるのが自分ではないとつまらないという大人気ない集団ヴァリアー。
中でも最も精神がお子様なベルが早速行動を起こした。
「隼人! サメなんかよりあっち見に行こう! ペンギンだぞペンギン!!」
「ペンギン!?」
獄寺は食いついた。
ベルはスクアーロから引き剥がすように獄寺の肩を抱き、すぐ近くのペンギンコーナーへと移動した。スクアーロは呆れていた。
「見ろよ隼人。皇帝ペンギンだって。ペンギンのくせに生意気ー」
「あっちにいるのはイワトビペンギンだって! …あ、卵温めてる!!」
間近で見るのは初めてであろう生命を見て獄寺がはしゃぐ。
そんな獄寺を見て、やはり来てよかったとヴァリアーの面々はひしひしと思うのだった。
「あら。あれって獄ちゃんに似てない?」
と、空気をぶった切って指をさしたのはルッスーリアだ。ちなみに彼は別に獄寺を独り占めしたいとかそういう意図は特になく、普通に空気を読んでないだけである。
ともあれルッスーリアが指差す方向。
思わずその方向を見てみるとそこにいたのはタコだった。
「………似てるか?」
「似てない? 髪型とか」
「似てねーよ!! と言うかオレよりルッスの方がタコそっくりじゃねえか!!」
「あらーどう言う意味よー」
言いながらくねくね動くルッスーリア。
それを見てか偶然か、ルッスーリアの後ろでタコがシンクロしたかのようにくねくねと動いた。
(似てる…)
(似てる…)
(ヴォイ…)
ルッスーリアのあだ名が人知れず「タコ」となった。(悪口ではない)
「似てるだったらマーモンはあれだな」
「え?」
突然獄寺に名を呼ばれて驚くマーモン。
ちなみに彼は今までずっと獄寺の胸元に抱かれている。
本人曰く、ベストポジションらしい。
それはともかく似ているらしい。何に? マーモンは獄寺の指差す方向を見た。
クラゲが大量に浮かんでいた。
「似てないよ!!」
「似てるだろ。小さいところとか」
「サイズだけじゃん!!」
マーモンが怒り、獄寺が朗らかに笑う。
獄寺に乗っかって他のみんなも似てる似てるとはやし立てる。
ますます怒るマーモン。
そうしていると。
「―――わっ」
獄寺に何かが投げられた。
それはビニールで出来た、服のようなものだった。
一言で表すならカッパだった。
投げられた方角を見るとそこにはザンザスが既にカッパを着用して立っていた。
「移動するぞ、隼人」
ザンザスは水族館のパンフレットを見ながら言う。
「直にイルカショーが始まる」
ペンギンを見るのが初めてなら、当然イルカも初めてだ。
獄寺は期待に胸を膨らませながら席に着く。
それからの獄寺はまるで幼い子供のようだった。
イルカが飛び跳ね、輪を潜り、回転する姿。
それらを見るたび、はしゃぎ、瞳を輝かせる。
その姿があまりに目立ったのか、獄寺は飼育員に指名され、イルカと握手させてもらった。荷物持ち権カメラマンのレヴィがパシャパシャ撮っていた。
ついでにイルカとキスしそうになり、ザンザスが切れて暴れ回りかけて水族館が半壊しそうになったがそれは割愛。
ともあれ、獄寺は始終楽しそうだった。
フードコートでの食事も終わり、他のコーナーもあらかた見終わり、そろそろ帰るかという時間になった。
最後に土産屋に寄って、そして帰ろうという話になり、店に入る。
しかし彼らは忘れていた。
ここは並盛であり、そして並盛には彼らがいるということを。
「あ」
「え?」
「お」
最初に声を上げたのは獄寺だ。見知った顔を見つけて思わず声が出た。
次に声を上げたのはツナだった。最後はリボーン。
他にもあの日戦ったメンツがちらほら。見知らぬ人間もちらほら。
見たところビアンキはいない模様。それだけを確認して、獄寺は胸を撫で下ろした。
対してツナは、獄寺を見、続いてザンザスを見ると深々と頭を下げた。
「お義父さん! 娘さんを、オレに下さい!!」
とんでもない発言が出た。
何故そうなったんだボンゴレ10代目。会うまでの間に一体何があった。
対してザンザスは、ツナの言葉に目を瞑り―――そしてカッと開いた。
「お前にお義父さんと言われる筋合いはない! そしてどこの馬の骨かも分からぬ奴に隼人はやれん!!」
見事な頑固親父っぷりだった。
獄寺はうん、ボス、娘発言に対しても突っ込んで欲しかったよ。あと馬の骨は分かるだろ。時期ボンゴレ10代目だろ。と思っていた。
「そーだそーだ! 誰が隼人をやるか!! 欲しけりゃオレを倒してからだ!! だってオレ兄貴だし!!」
「あら。王子だし。じゃないの?」
「王子は卒業! 隼人の兄貴の方がいい!!」
何か色々ヒートアップしてきた。
「よっしゃ! 隼人も何か言ったれ!!」
「え? えーと…」
ベルに言われ、獄寺が泳いだ視線の先にはリボーンがいた。
「あ、先日は寿司をありがとうございました。大変美味しかったです」
「ああ、気にすんな」
「あーもー隼人のマイペースー!! でもそんなところも好き!!」
そんなわけで。
そのあと獄寺を賭けて再度ボンゴレ対ヴァリアーが行われたり。
結局並盛水族館が半壊したり。(修理費はザンザスが出した)
勝負の結果はうやむやになるもボンゴレは獄寺の連絡先をゲット出来たりしていた。
全てが終わった頃にはもう夕方。
帰り道、獄寺はザンザスに寄り笑顔で言った。
「今日はありがとな、ボス」
「…何のことだ」
「水族館。オレが興味持ってたからわざわざ来てくれたんだろ」
「………ただの視察だ」
「…そっか」
「そうだ」
納得したような顔をしつつも、獄寺は笑顔のままだった。
その手には土産屋で買ってもらった、恐竜らしきぬいぐるみが握られていた。
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こいつはナッシーといって、ネス湖に居る奴の並盛版的なあれだ。お気に入り!