「じゃあ、行ってきます」


「行ってらっしゃい。ツナ」


朝。いつものように登校するオレを見送る母さんと。


「行ってらっしゃいませです! 10代目!」


小さな小さな身体で精一杯自分をアピールする獄寺くん。


オレはそんな彼に微笑ましい感情を覚えながら。


「うん。行ってきます。獄寺くん」


と、彼の頭を撫でて。登校した。



数週間だけの日常



…ジャンニーニの改造した10年バズーカで撃たれた獄寺くん。


体格が劇的に変わってしまい、それに伴って体力は激減。非力にもなってしまった。


そんな彼を独り。放っては置けないととりあえず彼の身体が元に戻るまでうちに置いておこうと言う話になって。


…いや、ただ単にオレが獄寺くんと一緒にいたいって気持ちもあったからもだけど。(だって可愛いじゃんか…!)


これはそんな、ほんの数週間だけ過ごした彼との日常のお話。





「ただいまー! 獄寺くんいい子にしてたー?」


「あ、10代目! お帰りなさいませ!!」


オレが帰ってくるとたたたたーって走って来てぴょーんて飛んで抱きついてくる獄寺くん。


ああ、なんかどうしよう。やばい。可愛い。癒される。


きっと今の獄寺くんは可愛い嫁さんと愛おしい子供をミックスしたような、そんな最強な存在だ。うん。


「…馬鹿二匹」


おや。可愛い獄寺くんとは似ても似つかない可愛くない赤子がやってきた。


「あ。リボーンさん」


「獄寺。お前ツナに聞きたいことがあったんじゃなかったのか?」


「あ! そうです! そうでした!!」


「聞きたいこと?」


なんだろう。


獄寺くんはオレの腕からするりと抜けて。たたたたたってまた走って行っちゃって。


オレも玄関でいつまでも突っ立ってるわけにもいかず、獄寺くんのあとを追いかけた。


「これです! 10代目!!」


「んー…積み木?」


獄寺くんがその小さな腕いっぱいに持ってるのは、それは紛れもなく形大きさ様々な木のおもちゃ。


「積み木がどうしたの獄寺くん」


「これの使用方法を是非ご教授して下さい!!」


いや、使用方法て。ご教授て…


「つまり遊び方が分からんと。そういうことだ」


なるほど。解説ナイスリボーン。


「って、え? 獄寺くんみ木の遊び方知らないの?」


「見るのも初めてです!」


ワオ。


てか、そっか…獄寺くんお城で育ったんだっけ…


「そういうことなら一緒に遊ぼうか。って言ってもそんな複雑なものじゃないんだけどね」



夕飯までの少し前の時間帯。小さな獄寺くんと懐かしいおもちゃで遊ぶ。


「それにしてもこの積み木…古いね。ていうかまさか…これ元オレの?」


そう、この赤い三角に付いてる傷といい、この四角の剥げてる塗装といい。昔の記憶と重なる。


「母さんの奴…ランボやイーピンには新しいの買い与えているくせに、なんで獄寺くんには…!」


「それは違います10代目!」


「獄寺くん?」


「わたしも何かおもちゃ買ってあげるって言ったんだけどね。獄寺くんが是非ともツっくんが昔使ってたのがいいって」


話が聞こえてきたのか母さんも話に乱入してきた。


「あの、その…ご迷惑でしたか?」


「うんん。そんな事無いけど…でもオレので本当にいいの?」


「10代目のだからいいんです!!」


にぱっと元気一杯に笑う獄寺くん。


ああ、うん。子供にするならこんな子だよ!


「獄寺くん可愛いーっ」


「わわわ!? じ、10代目!?」


「…馬鹿二匹」





そうした日常が数週間過ぎたある日。


「んじゃ、いってきます」


いつものように登校。見送りの母さんと、獄寺くん。


「じゅーだいめ…いってしまいますか」


「うん、残念なことにいってしまうんだ。獄寺くん」


「悲しいです。いってほしくないです」


「オレだって出来ればいきたくなんてないんだよ。勉強さっぱりだし。獄寺くんいないし」


「ぎむきょーいくですか…義務がなんだって言うんですかっ」


「本当だよね…オレは獄寺くんが傍にいる生活のみを望んでいるって言うのに…!」


「会話が咬み合ってるようで咬み合ってねー」


「ツっくん、そろそろ時間よ」


「あ、はい! じゃあ獄寺くん、いってくるね!」


「…はい」


そう言って。いつものように出掛けて。


いつものように学業をこなして。


そうしていつものように。帰宅したら。


獄寺くんは、眠っていた。


その小さな身体に大きな毛布が掛けられていて。


何だか見ていて微笑ましい。思わず頬が緩む。


「…そう楽観している場合か?」


と。横から水を差し込んでくるリボーン。


「…楽観て、何のことさ」


「―――獄寺な、お前が出掛けてからずっとこの状態だ」


…え?


「ずっと?」


「ああ。朝からずっとだ」


…確かに。少し前からそんな兆は見せていた。数日前から獄寺くんはどこか眠たそうで。母さんも最近獄寺くんが昼寝していて可愛いと言っていて。


けど、これはお昼寝どうこうな問題じゃない。やはりこの身体では何かしら負担があるのだろうか。


「ちょ…どうしよう、リボーン」


「ま、そう下手に扱わねーようにだけ気を付けておけ。オレも手を打ってみる」


携帯を弄るリボーンを尻目に、オレは獄寺くんに駆け寄る。しかしここからどうすればいいのか分からない。


えと…ここは起こした方がいいのだろうか。それとも寝かせたままの方が…?


オレが意味もなく不安に駆られあわあわしていると、獄寺くんが目を覚ます。


「…あ。じゅーだいめ…おかえりなさいませ」


「う、うん。おはよう。獄寺くん…」


「オレ、寝てました…?」


「みたいだね」


獄寺くんは寝惚け眼で。オレを見上げて。けれどまだ意識がはっきりしてないのかその焦点は合ってなくて。


「…寒い? 毛布持ってくるよオレ」


何だかじっとしていられなくて。何とか行動に移そうとして。立とうとすると何か小さな抵抗によって阻まれる。


「…獄寺くん?」


「あっすいません…でもオレ、あまり寒くありませんし…」


それは嘘だ。だって彼の腕に少しだけだけど鳥肌が立っている。


「それに…」


「それに?」


「ひとりは…寂しいです」


「すぐに戻ってくるよ」


「――ひとりは…やぁ、です」


オレの声は最早、彼に聞こえているのかどうかも怪しい。


ただその手だけを弱々しく。けれど手放さないようにと握られていて。


放っておくことは出来ず。オレはまるで腫れ物を触るかのような慎重な扱いで獄寺くんを抱き上げ、抱きしめる。


ひんやりとしていた身体はすぐに温まってくれたけど。それでも彼はオレの服の裾を掴んで話さない。


どうしよう…オレ、どうすればいいんだろ…


思い悩むことしか出来ない自分がなんとももどかしい。歯痒い。


どう声を掛けようかと思いながら彼を見てみると、その目蓋は閉じられようとしていて。


けれどオレは獄寺くんを寝かせたくはなくて。思わず声を掛ける。


「ご、獄寺くんっ」


「………はぃ」


「ね、眠いの…?」


「……ねむぃ…です…」


獄寺くんの力が抜けていく。まるで消えてしまうように。


「ご―――」


オレが叫び声を挙げてしまいそうになった瞬間。


煙が、吹き出て。


「ツナ。ジャンニーイチに聞いてみたがどうやらそれは元に戻る前兆らしい――って」


リボーンが、やってきて。


「…どうやら要らん情報だったみたいだな。ま、戻ってよかったじゃねぇか」


腕には、元のサイズに戻った獄寺くんが眠っていた。





「ん…」


「あ。獄寺くん起きた」


「じゅうだいめ…?」


「おはよう」


「おはよーございます…」


「………」


「………」


「……………」


「……あの」


「ん?」


「なんで、そんなに引っ付いてるんですか…?」


「んとねー、誰かさんがひとりは寂しいからいやなんだって」


「へ?」


「いやー、獄寺くんがこんなに寂しがりやさんだとは思わなかったなー…」


「え? へ? な、何のことですか!?」


「うんうん。もうオレが獄寺くんをひとりになんかしないから安心してね」


「ちょ、10代目! なに自己完結してるんですか!? 聞いてますか10代目ー!?」





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ひとまず今日も泊まっていってね獄寺くん!!


リクエスト「ツナぷに獄」
リクエストありがとうございました。