オレの名前は獄寺隼人。
獄寺家の末っ子だ。
誰にも期待をされていなかったオレだけど、そんなオレにも構ってくれる人が出来た。
Dr.シャマル…獄寺の屋敷の専門医。
ずっとあとを着いて行ってるうちに、いつしか口調が移ってしまった。
シャマルがまるでガキの頃のオレみたいだ、なんて笑いながら言ってきたから髪型を真似してみた。
シャマルはますますそっくりだと笑ってくれた。それが嬉しかった。
何も返すことの出来ないオレだから。何も返すもののないオレだから。
…それでも。オレは何でも良いから返したかったから。
ある日オレはシャマルに殺しの技術を教わった。
シャマルはあまり良い顔をしなかったけど、無理を言って頼んで。
だって、ひとが殺せればオレは役立たずじゃなくなる。みんなの役に立てる。
…そうして迎えた初任務。
習ったとおりに火薬に火を点けて。投げて。攻撃。
敵の攻撃があちこちに当たる。けど全然気にならない。
むしろそんなオレの様子に敵が怯む始末だった。ああ、あいつらはこの程度で何を退いているのだろうか。
やがて消えゆく敵共だったが、その中の一人が何を思ってかオレに突撃してきた。
一番近かったからだろうか。それとも一番年が若かったからか。あるいは一番弱そうだったからか。
何にしろオレはその攻撃を避けられず片方の腕の骨を折る。
そいつは更にオレを攻撃しようとする。オレの息の根を止めようとしてくる。
それを見てオレは、当たり前のように持っていたダイナマイトに火を点けた。それをそいつに見せる。
するとそいつは何故だか急に逃げ出した。しかし味方が仕留める。
オレはやや拍子抜けしたように導火線を握り潰した。じゅっという音と肉の焦げる臭い。
あのままオレから逃げなければ、オレも道連れに出来たのに。
なのに逃げて。そして死んで。なんて無駄な奴なんだ。
そんなことを思いながら呆けていると。味方が良くやったと褒めてくれた。
…褒められた。
それが嬉しくて、笑った。
身体中から血が流れてて、服を汚していたけどそれも気にならなかった。
戻ってきたオレは早速シャマルに報告した。
「見ろよシャマル! 名誉の負傷!!」
しかしシャマルはオレの話を何故か険しい顔で見ていて。
「お前にはもう教えねー」
「え…?」
シャマルはそう言うと、オレに背を向けて行ってしまった。
…どうしてシャマルは褒めてくれないんだろう。
他のひとは褒めてくれたのに。
だからきっとシャマルも褒めてくれると思っていたのに。
それから他のひとにまた褒められたけど、あまり嬉しくなかった。
どうしてだろう。
前はあんなにも…嬉しかったのに。
それから何度もオレはシャマルに会おうと試みたけど、何故だかどうしても会えなかった。
そんな日々が暫く続いたある日に、オレはようやく気付いた。
ああ―――結局自分は、捨てられたのだと。
なんだか可笑しくなって、笑ってしまった。
それはオレが獄寺の屋敷を出る、ほんの数日前の出来事。
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哀しくて、虚しくて。もういいや。