10代目。

今年のクリスマスプレゼント…

10代目は、なにがよろしいですか?





















































思い出されたのは、そんな、数日前の彼との会話。


















































―――――タアァンッ


















































聞こえてきたのは、そんな。耳に慣れた音の割れた銃声。


















































…ドサ…


















































見えたのは、まるで花束のような。赤い血飛沫を舞い散らす―――





















































































愛しい、彼の姿。

































































陳腐な奇跡

































































小さな部屋に大きなベッド。


小さな窓に大きな扉。


それだけが、今の彼の全て。


「や…。また来たよ」


…ああ、オレもいるか。


「獄寺くん」


オレが声を掛けたとしても。獄寺くんはオレに応えない。


「…昨日と比べて、今日は寒いね。今夜は雪が降るかも」


いくら声を掛けたとしても。獄寺くんはオレに笑い掛けたりしない。



「ああ―――でも」


そう、全ては―――


「あの日の寒さと比べれば、今日なんてまだ温かいほうかな?」



あの日から。全ては狂ってしまった。





年の終わり頃だった。


獄寺くんが、オレに希望のクリスマスプレゼントを聞いてきたのは。


オレがマフィアになって、イタリアに渡って。もう何年になるけど。


…実は。オレたちはまだ二人っきりでのクリスマスなんて。過ごしてはいなかった。


お互いに多忙で。…それに、大人になってまだクリスマスなんて。少し恥ずかしくて。


…でも。たしかに獄寺くんと一緒に過ごしたい、ていう願望だけはあって。


けれど願望は願望だから。まさかそれが実際に起きるなんて思わなくて。オレの顔はきっと唖然としていたことだろう。


たしかに。その年のクリスマスはお互いに予定は入ってなかった。…そのときは、だけど。


でもクリスマスなんて一ヶ月以上先の話で。それまでに忙しくならない、なんて保障はもちろんどこにもなくて。


………でも。獄寺くんがそんな風に。嬉しそうに。楽しそうに聞いてくるものだから。






























オレは、なにもいらないよ。


なにも…ですか?


うん。なにも。いらない。


そうですか…


うん。…なにもいらないから―――


はい?






























クリスマスは二人っきりで、過ごそうね。













































その時の彼の顔を、覚えてる。


とても嬉しそうで。…喜んでいて。


その時の彼の台詞を、覚えてる。


はい! 絶対に二人で過ごしましょう! …なんて。本当に本当に幸せそうで。


久々に、心の底から笑った。声を出して笑うなんて、イタリアに渡ってからは初めてだった。





…そして。それから数日後―――


彼は、眠った。


その身から、深紅の花弁を踊らせながら。


オレは、何も出来なかった。


彼を撃った暗殺者を迎え撃つことも。…撃たれた彼に、駆け寄ることも。


本当に、何も出来なかった。動けなかった。


ただただ大きく目を見開いて。その状況を察しようと…あるいは、察しまいとするのに、手一杯で。


10年付き合いの彼らが来てくれなかったら。オレもそこで終わっていたことだろう。


しっかりしろと言われた。こんなことでは命がいくつあっても足りないと。



―――けれど。



その時のオレには、何も聞こえてはいなかった。


ただ、あのシーンが脳内で繰り広げられてるだけだった。



思い出されたのは、数日前の彼の台詞。


聞こえてきたのは耳に慣れた、音の割れた銃声。


見えたのは命の赤を、血潮の赤を。大量に噴出す―――



愛しい愛しい、獄寺くん。



「あれから、もう一年…だね」


キミが眠りに付いてから。


「時が流れるのは…速いね」


たとえば。キミがオレの隣にずっといたのなら。流れる時はもっと速かったのだろうか。


「もうすぐ…獄寺くんと過ごす、二回目のクリスマスだよ」


あと一ヶ月と、少しで。





あのあと。獄寺くんは直ぐにボンゴレお抱えの医者へと連れて行かれた。


結果。


彼は命を失うのは免れた。…けど。


彼は二度と、目を覚まさないだろうと言われた。


それはある意味死刑宣告。…もう二度と、目を覚まさないなんて。


彼の処理はオレに任された。…処理、という言い方が気に入らないが、たしかにオレ以外が彼を預けるなんて許せなかった。


…そして。今も彼は、ここにいる。


目を覚まさない彼を生かせ続けるのには。もちろん少なくない費用が必要となったけど。


でも。金なんかいくらあっても、彼のいない世界で生き続ける自信なんてもちろんなかった。


オレは暇さえ見つけては彼の元へと飛んで。…暇がなくても無理矢理作って。ずっと彼の傍にいて。


みんなはそんな生活を送るオレが身体を壊さないか心配してたけど。だからといって彼をオレから奪うことだけはしなかった。


…みんなも分かっているのだろう。今のオレから彼を取ったら、何が起きるか。


そんな日々を過ごしていくうちに、やってきたクリスマス。


―――たしかに、願いは叶った。



二人っきりで過ごすクリスマス。



叶ってしまったオレの願い。叶ってしまったオレの想い。


けれど彼は何も言ってはくれない。笑いかけてもくれない。オレの軽い冗談を本気に取ってもくれない。


大好きなキミと、大人になって初めて過ごすクリスマスなのに。それは今までで一番味気無く、そして虚しい日だった。


「また、来るからね」


いつもの台詞で、オレは彼の部屋を後にした。





心の傷は時間が解決してくれるなんて。一体誰が言ったのだろう。


―――そんなこと。有る訳が無いのに。


時が経てば経つほど。オレの頭を、心を占めるのは。ただ独りの彼の事。





それはある日の街中で。吐き出る吐息は真っ白で。空を見上げれば分厚い雲が世界を占めている。


どの店でも見かけるイルミネーション。色鮮やかなランプが規則的に点滅を繰り返している。


街が綺麗なら綺麗なほど。オレの心は黒く黒くどす黒く。鮮やかな世界に比べ、オレの心はセピア色。


世は一足速いクリスマス。…この日はきっと、オレが最も残酷になれる日だろうなと、ふと思った。



今日は彼が、眠った日だから。



そして数週間が経つと本当にクリスマス。


…彼と過ごす、二度目のクリスマス。


みんなが気を遣ってくれてるのだろうか。今年もその日は。その日だけは何も予定が入ってなかった。


今日という日に、何故か足が向いたのは。あの、忌々しい広場。


彼が倒れた、彼が眠った―――己の無力さを再確認された、あの場所。


当たり前な事に、血の跡なんてどこにもない。本当にここで合ってるのかと思えてくるほど。


でも。…間違いなく、ここであの騒ぎは起きたんだ。


ふと、足元に何かが落ちているのに気が付いた………煙草だった。


それが彼がよく吸っていたものだと思い出し―――





オレはそれを。思いっきり、踏み付けた。





時間が経つのは、本当にあっという間。


気が付けば、クリスマスまであと一時間だった。


仕事は既に終わらせてある。今から彼の元へと行っても良いぐらいだ。


けれど。…何故だか足が重い。


…何故だか、じゃないか。理由ならちゃんと分かってる。


オレはもう、あんな味気のない、虚しい時間は懲り懲りなだけだろう。それだけの事だろう。


クリスマスではなければ。彼の元へといくのはこれ以上ないほどの楽しみで、…今のオレの人生の、唯一の楽しみと言っても良いぐらいで。


でも。クリスマスは。その日だけは。どうしても楽しみには出来なかった。


それでもオレは行くのだろう。


「…獄寺くんが、寂しがったらいけないからね」


今のオレは、傍から見たらどんな人間なのだろう。


目覚めない人間に時有らば、時間の許す限りに語り掛けるなんて。


狂気の沙汰だと哂われるだろうか。それとも哀れだと嗤われるのだろうか。


そんな事を思いながら、自虐的な笑みを浮かべつつ。オレは彼の部屋へと赴いた。





いつもの通りにノックをして。いつもの通りに「入るよ」と断りを入れて。


ガチャっと。扉を開いて。入って。閉めて。ぱたん。


いつものように彼の寝顔を見る。緩やかに彼は呼吸をしていて。本当にただ、眠っているだけの状態で。


オレは椅子に腰掛けて。


「獄寺くん―――」


語り掛ける。いつものように。


「…今日はね……いや、明日か。あと少しで日付が変わるんだけど――クリスマスなんだよ」


彼は応えない。何も応えない。それでもオレは語り続ける。


「二年目だね…去年、オレはキミの言葉に、二人っきりで過ごせればそれで良いって答えたよね…覚えてる?」


今オレは一体どこにいるのだろう。身体は彼の部屋。けれど頭の中は一年前のあの場所に。


「皮肉な事に、本当にそうなっちゃったよね…本当に二人っきりで。……ただそれだけで。他は何もなかったよね」


あれほどまでに虚しい日はない。あれほどまでに寂しい日はどこを探しても見つからない。


「今年のクリスマスも…そうなるのかな」







10代目。

今年のクリスマスプレゼント…

10代目は、なにがよろしいですか?







ふと思い出されたのは、そんな。あの日の彼の言葉。


「…今年はね」


「獄寺くんと二人っきりでっていうのは当たり前だけど…」


「出来ることなら。今年は起きた獄寺くんと過ごしたいな」


「オレの呼びかけに獄寺くんが応えて」


「獄寺くんはオレの名前を呼んで」


「そんなクリスマスが、良いな」





「―――――…一晩だけでも、良いから」





それは。言うなれば奇跡というものだろうか。


彼は二度と目を覚まさないのに。なのに起きろだなんて。


ああ…―――でも。


折角のクリスマスなんだから。奇跡の一つぐらい願っても良いじゃないか。


クリスマスを逃して。一体いつ、奇跡を願えというのだろうか。


イメージ的なものだけど。なんとなく奇跡の一つや二つ、起こりそうな日じゃないか。


どこからともなく時計の鐘が鳴る音が響いて、ここまで聞こえてきた。





―――クリスマスの、始まりだった。





それからオレの口数は一気に減って。ただずっと、彼の寝顔を見ていた。


本当に、ただずっと。


この部屋の部屋は。きっと外よりも時間がゆっくりと流れているのだろう。


外はあんなに多忙で、一日どころか一週間でさえも。今こうしているうちに流れ去って行くのだろうに。


ゆっくりと。目蓋が下がっていくのが分かった。疲れているのだろうきっと。でも彼の寝顔もまだまだ見ていたいし…


そう思っているうちに、オレの目蓋は意識ごと閉じてしまった。





―――どれほどそうして眠っていたのだろうか。


次に目が覚めた時。今が何時なのか。分からなかった。


…ただ、寝る前の窓の外は明るみが差していたような……


でも。今窓の外は暗いから……


それは…つまり―――


「オレ、寝すぎ…」


ある意味、物凄く贅沢な時間の使い方をしてしまった…


「獄寺くんと二人っきりでいれる数少ない時間なのに…獄寺くん、ごめんね」





















































「―――いえ、気にしないで下さい。まだまだ寝てても良いですよ?」






























………え?


ばっと、勢いよく顔をその声の主に、彼に。向ける。


そこで眠っているはずの彼は。もう二度と目を覚まさないはずの彼は、ベッドで横たわりながらも起きていて。オレを、見ていて。


「ご…」


言葉が出ない。あれほどこの部屋で、物言わぬ彼に雄弁していた口はこんなときに限って役立たずに成り下がった。


「…10代目、お疲れなら部屋に戻って休まれては? …駄目ですよちゃんと休養も取らないと。倒れてしまったらどうするんですか」


誰のせいだと言ってやりたかった。一体誰のせいで、オレがこんなことになっていると思っているんだと。


…でも。


「獄寺くん・・・!」


オレは彼に飛びついた。そして力いっぱい抱きしめた。彼がどんなに苦しかろうと、手加減なんてしない、出来ない。


「獄寺くん、獄寺くん、獄寺くん・・・!!」


その言葉しか出てこないかのように、オレは同じ台詞を繰り返す。何度でも、彼の名を繰り返す。


「はい、10代目。10代目、10代目…」


獄寺くんはオレの呼びかけに応える。何度でも何度でも。





それは紛れもなく。オレの願ったクリスマスだった。





これでもかまだ足りないかというほど獄寺くんを抱きしめたのち、オレはようやく獄寺くんを解放する。


「…よかった。獄寺くんが目を覚まして…獄寺くん、もう二度と目を覚まさないだろって言われてたんだよ…?」


「それは…ぞっとしませんね。そんな使えない部下、切り捨てるべきですよ10代…」


「オレがキミを手放すことなんて出来ると思うの?」


彼の台詞を途中で遮って。そう言い放ってやる。案の定獄寺くんは困ってしまった。


「えっと10代目…あまり、一つの事に執着するのはどうかと…」


「獄寺くんにだけは言われたくない」


10年前、あんなにオレの右腕にこだわったこと。忘れたとは言わせない。


「それは…その、あれは若気の至りと言いますか、過去の出来事ということで…今オレたちは大人なんですから」


「そんなの関係ない。とにかく獄寺くんが目を覚ましたんだから、そのことはもう良いよ」


オレはまたも彼に抱きつく。ぎしっと、ベッドが軋んだ。


「獄寺くんが眠っていた一年分…今ここで晴らしてあげる」


「い、一年!? オレそんなに寝てたんですか!?」


「正確には、もう少しプラス修正入るけどね…今日はクリスマスだから」


むぎゅーっと、抱きしめる力を強くする。獄寺くんは自分の寝ていた予想外の日数に驚きを隠せてなかった。


温かい彼の体温。とても幸せな一時。


…けれど。





何かを忘れてはいないか? 沢田綱吉。





何か? 何かってなんだろう。逃して良いのかこの違和感は。


そうだ、12時になったらシャマルを呼びに行かなくては。起きたばかりの獄寺くん。何かと検査も必要だろう。


なんで今すぐじゃなくて12時かって? それはもちろん、クリスマスを彼と二人っきりで過ごしたいという、オレの我侭。


…クリスマス? まただ。何かが頭の中を横切る。何だろうこれは。ちりりと熱い。まるで警報。


時間を見てみる。…本当にオレはどれほど眠っていたのだろう。もうすぐでクリスマスは終わりだった。もう五分もない。


少し早いけど、シャマルを呼びに行こうか。シャマルは驚くことだろう。けれどそれ以上に喜ぶことだろう。


そして獄寺くんの身体を検査という名目で触りたい放題…やっぱり12時が終わってからにしよう。


そう思って、獄寺くんの顔を見る―――と、獄寺くんはうとうととしていた。


「………獄寺くん?」


「―――ぁ、10、代目…すみませっ …なんか、きゅう…に、眠く―――」





警報が鳴っている。頭の中でがんがんと鳴り響いてる。





去年のクリスマスは、眠れる彼と二人っきり。他は何もなかった。


だからオレは、今年のクリスマスは。起きた獄寺くんと過ごしたいと、願った。


起きた獄寺くんは、オレの呼びかけに応えて。


起きた獄寺くんは、オレの名前を呼んで。


そんなクリスマスが良いと、願った。


そしてその願いは叶った。これで物語りはハッピーエンド。万々歳のめでたしめでたし。





けれど―――オレは何かを、忘れてはいないか?





なにか? なにかってなにさ。そもそもクリスマスの願いなんてそんな、全ては偶然の産物。オレが望むクリスマスに本当にサンタが演出してくれた訳でもあるまいし。


そうだよ。だから。うん、そう。そんな、有り得ない。オレの願いが全て叶えられるなんて、そんなこと―――有る訳がない。


…でも。たしかに。オレは願った。ああ、願ったさ。最後に、最後の最後に希望を込めて!





「―――――…一晩だけでも、良いから」って・・・!





体温が急激に下がっていく。さぁっと、血の気が失せた。


「獄寺くん、寝ちゃ駄目だ!」


いきなりの大声に、獄寺くんは驚きながらも。けれどそれでも睡魔は獄寺くんを襲い続けているみたいで。


「……10、代目…?」


有る訳無い在る訳無い或る訳が無い! オレは超能力者でも魔術師でもないのだから、オレの願い通りに全てが動くなんてそんな虫の良い話なんて有る訳が無い!


ああそうだ、オレは一年以上眠っていた彼に抱きつくとか喋らせるとか、そんな無理ばかりさせてしまったから! だから獄寺くんは疲れてしまったんだ!


だから獄寺くんが眠ってしまっても、それはほんの一時の事で! 朝になったら直ぐに目を覚まして! またオレと一緒に毎日を過ごして!


「…なんでで、しょう……さっき、まで。ぜんぜん、そんな。ねむくなんて…なかったのに」


獄寺くんの目蓋が落ちてゆく。ゆっくりと堕ちてゆく。


「獄寺くん、まだ、まだ寝ないで…寝たら、怒るから…!」


獄寺くんはぼうっとしながら、オレの言葉を聞いて。苦笑して。


「おこられ、ますか…」


「…うん。怒るよ。そして、許さない」


だから寝るなと、オレがそう言っても。獄寺くんはまた笑って。



「でしたら、怒って下さい」



「…え?」


「つぎ…オレが起きたとき。そのときに、オレを怒って下さい」


笑いながら言うその言葉に、けれど力はもうなくて。


「あ、でも…もちろん、切り捨てて下さっても、構いませんけど……」


「そんなこと、するわけないだろ・・・!!」


こんな時だっていうのに、一年振りの会話だというのに。なのにこの子は、この子は、この子は・・・!


獄寺くんはそれだけ言ったら満足したのか、その意識をまた深い深い谷底へ突き落とそうとする。


「やだ…っ 獄寺くん!!」


オレの声にまた獄寺くんが驚いて。また薄っすらと。目蓋を開けてくれた。


「なん…ですか。そんな、情けない顔して…そんな子には、サンタは、プレゼント…くれませんよ…?」


それは、まるで。幼子を一晩だけでも良い子にしようとする母親のような口調で。


「あぁ…そうです。オレ…まだ、言ってませんでしたね……」


「え…?」


「…10代目」



メリークリスマス。です…



鐘が鳴る。鐘が鳴る。ボーンボーンと響いてる。


今年のクリスマスは終わった。彼との時間は終わった。オレの望んだ一晩は、終わりを告げてしまった。


彼は眠っている。今まで通りそうだったように。…ついさっきまで起きていたのがまるで嘘のように。眠っている。


…全くこの子は。自分勝手なことばかり言うだけ言って。そしてまた眠ってしまって…


「獄寺くんの、バカ」


そうだって。知ってはいたけど。またも再確認された。ああもうバカ。この大バカ。


久しぶりの会話で、一年振りの会話での収穫がそれなんて。あんまりだ。


…でも。


「来年、覚えてろよ。…獄寺くん」


オレは自分の目に。彼が眠って以来の、生気が再び宿ったのを。感じた。







そんなことがあったのは…今から一年も前の、話。


あと10分で、彼との三回目のクリスマスが始まる。


オレはその時間に合わせて、仕事をこれ以上ないぐらい的確に、正確に。終わらせていく。


最後の書類を片付けて時間を確認。…あと三分。この部屋とあの部屋までは結構距離があるが――充分だ。


早足で部屋を出る。その速度を落とさず、彼との距離を縮めていく。


…さぁ、今年は奇跡は起こるかな? 全ては偶然の事だった? それともあの日の出来事は全部夢だったとか。


そうだったなんて、オレは認めない。彼は確かにあそこにいた。起きていた。


オレはサンタなんて信じちゃいない。そもそもプレゼントを貰える年でもない。でもそんなの関係ない。


マフィアは欲しいものは奪うんだろ?


だったら、奪ってやる。サンタのプレゼントも、聖夜の奇跡も。







10代目。

今年のクリスマスプレゼント…

10代目は、なにがよろしいですか?







ふと思い出されたのは、そんな。あの日の彼の言葉。


その問いに、オレが答えるものは決まってる。


「もちろん…キミとの甘い一時を」


オレがキミを怒ってからだけどね。一年ぐらいじゃ、オレの怒りは冷めやしない。


さぁ彼の部屋まであと五メートル。クリスマスまであと三秒。


大きな音を立てて、扉を開ける。同時に日付が変わった合図の鐘が鳴り響いた。



「メリー・クリスマス。獄寺くん」



一時とは一生。さぁ早く起きて?










・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

奇跡の時間の始まりだ。