きっといつか。こんな日が来るって分かってた。
だけれど、それはもっともっと先の話なんだと―――信じてた。
- 夢と願いと現実 -
火薬の臭いに破裂音。平和に慣れきっていたあの頃の自分が見たら、きっと卒倒しそうな光景。
何年もの月日の間に、すっかり変わってしまった。何もかも。
ペンの代わりに銃を持ち。昨日共に酒を飲んだ人間が今日死んでるような…ここはそんな世界。
最初は決して、望んで足を踏み入れようなんて思わなかった。
だって怖い。何もかも怖い。全てがそれまでの自分の知ってる常識とは懸け離れていて―――
そこまで言うのなら。と、突き放されたこともあった。
なりたくないのなら、ならないでもいいと。
10代目を降りても、構わないと。
それはなんて魅力的な提案。最初の自分ならば手放しで喜び小躍りすらしてしまいそうな別の道。
だけど。
―――10代目。
知ってしまったから。
自分がどの道を選ぼうが、変わらず戦場を駆ける道しか選べない彼のことを。
自分がボスになろうが、降りようが…構わず変わらず。抗争の最前線で戦う彼の姿を。
ここで降りるなんて、出来やしない。
だって、不安だ。
自分の知ってる人が…ましてや、初めての友達が自分の知らないうちに傷付き、倒れ、死んでるかもしれないなんて。
ああ、無理。耐えられない。
弱い自分はきっと、見えない壁に遮られて。日に日に弱っていくに違いない。
そうしてきっと、死んでしまうんだ。
そう思ったから、それもあったから―――この道を選んだというのに。
「無事ですか?」
そう言ってくる彼は無事じゃない。血の気は失せて青い顔。ついでに頭から腕から腹からそれはもう血がだらだらと。
オレへと目駆けて飛んできた凶弾から、その身を挺して庇った結果だった。
ボスの身が危険に晒されているのなら、庇うのは果たして当然か。己の命と引き換えにする価値がここにはあるのか。
オレの無事を確認すると、獄寺くんは安心したように微笑んで目を閉じた。力が抜けて、体重が一気に掛かる。
きっといつか。こんな日が来るって知っていた。
だけれど、それはもっともっと先の話なんだと―――願ってた。
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そんな甘い話が、あるわけがなかった。