某月某日。


ヴァリアー一行は遊園地へと訪れていた。





事の始まりはつい先日。


動物園の別れの際にリボーンが遊園地のタダ券をくれたのだ。


水族館、動物園に行ったことがない獄寺は当然遊園地に行ったこともない。


獄寺は嬉々としてザンザスにチケットを見せたのだった。


そしてその翌日が今日、この日である。


獄寺は相変わらず物珍しそうに辺りを見渡している。


その姿の愛しいこと可愛らしいこと。


その姿を見るだけでヴァリアーの面々は来てよかったと思うのだった。





「隼人! まずはジェット乗ろうぜジェット!! やっぱ遊園地といえばジェットコースターだから!!」


「そうなのか?」


ベルが獄寺の肩を抱きながらコースターへと誘う。


ジェットコースターがどんな物なのかすら分からぬまま獄寺はベルとコースターへと向かっていった。





「楽しかった!!」


「お…おお…よかったぜ……」


はしゃぐ獄寺と対照的にぐったりと疲れているベル。


獄寺はジェットコースターを大層気に入り何度も何度も乗り回したのだった。


それこそベルが酔い潰れるまで。


それなら獄寺だけ乗せればいい、と思うのだろうが兄貴としてベルは頑なに獄寺が満足するまで一緒に乗るのだった。


しかし流石に疲れ果てたのかベルはベンチで少し休むと言って離脱した。





「次は…」


入口で貰ったパンフレットマップを見ながら獄寺が呟く。


「獄寺、獄寺」


「ん?」


むっとしたような声で獄寺を呼ぶマーモン。


ジェットコースターに乗るとき搭乗拒否されたのを根に持っている声だ。


今はきちんと獄寺の胸元に収まっている。


「次はあそこ行こ。あれも遊園地といえば外せないアトラクションだよ」


言ってマーモンが指差した場所はお化け屋敷だった。


「ホラーアトラクションか…へ、面白そうじゃねぇか」


獄寺は嬉々としてお化け屋敷へ向かっていった。


そして二人分の悲鳴が上がった。





「…いやー、舐めてたよ日本のアトラクション。マジで怖かった」


暫くして出口から獄寺が出てきて戦果を報告してきた。


「あらあら獄ちゃん。大丈夫?」


「ジャパニーズホラーって独特の怖さがあるな。まだ心臓がドキドキしてる」


「はん、情けねぇな隼人」


「んだと!! なら一人で行ってこいよ」


「誰があんな子供向け行くか」


わいわいキャッキャと談笑するヴァリアー。


獄寺の胸元では悲鳴を上げる度締め上げられて魂の抜けたマーモンがぐったりとしていた。





「次はどれに乗るのー獄ちゃん」


「うーん」


相変わらずパンフマップを見続ける獄寺。


実際は自分が今どこにいるのかすら理解してない。


「決まってないならアタシとあれに乗らないかしら?」


ルッスーリアがクネクネとしながら言うアレ。


それは女児が楽しそうに笑いながら馬に乗り、煌びやかな音楽をバックに回っている。


そう、メリーゴーランドだった。


「あれは…遊園地初心者のオレにも分かるがオレら向けじゃないんじゃないか?」


「そんなことないわよーアタシたちはお客さん! 好きなアトラクションに乗っていいんだから!!」


「そうかなあ…」


言いながら獄寺はルッスーリアにズルズル引きずられていった。


なお、馬と馬車で2周した。





「楽しかったわ!」


「ちょっと人目が気になったが…まあまあだったな」


ちなみに人目は全てルッスーリアに向けられていた。


「あれ? レヴィは?」


「お前の写真を撮ろうとして間違えてルッスのアップ写真を撮ってしまって気を害してどっか行った」


「そろそろお昼だからアタシはご飯の準備してるわ! 時間が掛かるから獄ちゃんたちはまだ遊んでなさいな」


「悪いなルッス」


「いいのよー乗りたいものに乗りたい人と乗れたし。楽しんでらっしゃい!!」


「おう!!」


獄寺は元気よく応えた。





「…しかし、なんかアトラクションに行く度に誰かが消えていくような…」


「気のせいだろ」


「そうだな」


「そうか」


なんやかんやで今獄寺といるのはスクアーロとザンザスのみ。


やけに人数が少なくなった。


と、そう思ったのは一瞬だった。





「あ、獄寺くん!」


「ん? おお、ボンゴレか」


たまたま偶然遊びに来ていたボンゴレファミリー一行と遭遇した。


嫌な顔を隠そうともしないザンザス。


しかし実は獄寺が初めて遊園地に行く嬉しさのあまりにツナにメールをしていたのだった。


本当の敵は身内にいた。


しかしザンザスは気付かない。


「ぐ、偶然だねっ獄寺くん!!」


「おお、そうだな」


「獄寺くん遊園地は初めてなんでしょ!? よかったら一緒に行かない? お勧めの乗り物とかあるよ!!」


止めたいが、獄寺の手前止めれないザンザス。


何せ自分は遊園地のお勧めの乗り物とか知らない。そして今日の最大の目的は獄寺に楽しんでもらうことなのだ。


周りに笑顔を振りまく獄寺に少しイラつきながらも、ザンザスは黙認するのだった。


ちなみにスクアーロはそのへんどうとも思ってなかった。





そして。


それから獄寺はボンゴレの面々と遊園地を楽しんだ。


昼食には世話になった礼にボンゴレも招待し、賑やかな食事となった。


最初萎縮していたボンゴレだが昼食の中に獄寺の作ったものもあると聞き、そればかり食べていた。(ヴァリアーも獄寺の作ったものばかり食べていた)


昼食が終わる頃にはダウンしていた面々も復活し、ますます賑やかに(獄寺を牽制し合いながら)遊園地を乗り回した。


あっという間に時間は進み、既に時は夕刻。


最後の締めは観覧車以外有り得ないと言われ、乗りに行くがしかし問題発生。


リボーンの(余計)な一言によりペアで乗ることになったのだ。


誰もが獄寺とのペアを狙い、そしてそれはじゃんけんで決められた。


ここに、何よりも真剣なジャンケンが行われた。


そして、その勝者は……





「なんでみんなジャンケンしてたんだ?」


「…さあな」


獄寺はつまらなさそうに窓から外を見ているスクアーロに声を掛ける。


「…別に負けても良かったんだが…まあ、無欲の勝利か」


「?」


「なんでもない。…今日は楽しかったか?」


「ああ、とても」


獄寺もスクアーロを習い、外を見る。


茜色に染まった街並みが一望出来た。


「…ヴァリアーに入ってから、楽しいことばかりだ」


「そりゃ、よかったな」


「ああ」


ふと、獄寺がスクアーロの隣に座る。


「…なんだ?」


「スクの髪、一度触ってみたかったんだ」


「あ…?」


獄寺の手がスクアーロの長髪に触れる。


「…さらさらだな」


「…お前も伸ばすか?」


「オレはいいや」


「そうか」


「そうだ」


獄寺とスクアーロは地上に降りるまでそんな他愛のない会話を繰り返していた。





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一方、ツナはザンザス、リボーンはマーモンとペアになりそれぞれ修羅場を迎えていた。