そこで目が覚めた。


「………」


決して表には出さないが、内心で不満でいっぱいの獄寺。


ううむ。もう少し夢を見させてくれてもよかったんじゃなかろうか。むしろこれからが本番だっただろうに。


ああ、それにしてもあれは甘い時間だった。素晴らしくいい時間だった。今思い出しても夢のよう。いや、実際にあったことだけど。


久し振りにリボーンと会って、共に過ごして、愛し合って。


思い出を噛み締める。記憶を反復し、幸せを胸の中にあふれさせる。



―――その胸は今周りに晒され、腕は後ろに回され縛られていた。



胸どころか、衣服を剥ぎ取られていた。目の前に広がる風景は自室や恋人の部屋…ではなく、無機質で冷たい部屋。


拷問部屋だった。


身体は全身から痛みという悲鳴を上げていた。


薄皮を剥がされていた。白かったはずの肌はあふれる血で塗れ汚れ赤く染まっていた。無事なのは首より上と手首ぐらいなものだ。


身体の訴えを獄寺は丸ごと無視する。眉ひとつ動かさず、澄ました顔であらぬ方角を見ている。


反応ひとつ見せてやらないつもりだ。誰にも屈さない。ましてや敵になどと、誰が情けなく声など上げてやるものか。


任務でドジを踏んでしまった。愛する恋人の「だから言ったのに」という声でも聞こえてきそうだ。


しかし…あの状態で誰が見送れるものか。久し振りの恋人との触れ合いで、なのに肌を重ねることをしないなどと誰が許せるか。


きっとあれは関係ないのだ。肌を重ねようと重ねまいと獄寺は同じドジを踏み、敵に捕まり拷問を受ける。どちらにしても同じならば獄寺はリボーンと抱き合うのを選ぶ。


だからオレは正しいことをした。なんて自分でもよく分からない理論を並べ立てて自分を正当化する。



―――身体に激痛が走る。



思いにふけっている間に拷問師が獄寺を傷付ける。


いや、それはもう傷などと呼べるものではなかった。


ちらりと気だるそうに獄寺が見遣れば…拷問師の手にはスプーンのようなものが握られていた。


そのスプーンには何かが盛られていた。赤い塊。


ああ、なんだ。自分の肉か。獄寺は興味をなくしたようにまた目線をあらぬ方向へと向ける。


スプーンのようなもの、というかまさしくスプーンなのだろう。それでゼリーでもすくうように獄寺の肉を抉ってみせたのだ。


そして当然それで終わるはずがない。また一すくい、更に一すくい。獄寺の肉が小さなスプーンで抉られていく。


硬い物が獄寺の肉を抉り、貫き、もぎ取る。みちみちと筋肉と繊維を断ち切りながら、肉が切り離されていく。


あー痛い痛い。やめてくんないかなー、などと思いつつも獄寺は反応を示さない。相手を睨みつけることもしない。罵声を叩きつけることも。


あちらはそれこそが目的なのだから、それに乗っかてやる義理などない。奴らはこちらの反応を愉しむ。悪趣味だ。


ゆっくりと時間を掛けて、拷問師は獄寺の身体を小さく、歪にしていく。皮は再生しても肉は抉れたままだろう。獄寺は内心でため息を吐く。


もう、リボーンに前ほどの快楽は与えてやれないだろう。こんな歪な身体になってしまって。もしかしたら、もう抱いてもらえないかも知れない。


リボーンが指を這わせた腕。リボーンが吸い付いた胸。リボーンが撫でた腿。あちこちの肉が抉り取られ、もう以前のように滑らかな肌触りは期待出来ない。


獄寺の顔色は血の気を失せ、悪い。胃の中がぐるぐる回っているような感覚を覚え、吐き気がする。


リボーンに快楽を与えてやれない、とか。抱いてもらえないかも、とか。我ながら幸せなことを考えてるもんだ。と獄寺は思う。



そもそも、もう、帰れないだろうに。



恐らくは―――獄寺はこのまま殺されるだろう。拷問された末、嬲り殺されるだろう。


一応は…保険というか、建前というか。情報を漏らせるように口と肺、喉に…あと脳ぐらいは最後まで無事かも知れない。


それらを残して削られる。削り殺される。スプーンは油が溜まって使えなくなったのか、新しいものに変えられていた。冷たい感触が我が身を貫く。


当然ながら痛いが声なんて上げてやらない。表情なんて変えてやらない。


自分のあられもない声を聞けるのは恋人だけの特権で、


感情に身を委ねるなんて真似は恋人の前だけで十分だ。


ああ、リボーンさん―――


獄寺は恋人の名を声に出さず、唇も動かさずに呟く。


自分のことを知ったら、怒るだろうか。


それとも呆れるだろうか。


哀しんで―――くれるだろうか。


澄ました顔で、けれど流れるは脂汗。


苦痛を漏らさぬよう、表情を変えぬようと食い縛る歯は砕けてしまいそう。


後ろ手に回された手はもう感覚がなく、どんな形をしているのかすら分からない。…確か、強く拳を握り締めていたと思うのだが。


そろそろ限界が近いかも知れない。


一応は、最後の最後まで足掻くつもりではあるが。


獄寺の目の中にある光はまだ消えてない。


だがそれも、少々強引すぎる手で奪われてしまいそう。


目に何かが触れた。硬い、無機質で冷たい物。


恋人のことを考えていた獄寺の思考が、現実へと向けられる。


なんだ、と煩わしそうに…まるで耳元を飛ぶ羽虫を見るような目付きでそちらを見てやれば、拷問師が新しいスプーンの切っ先を獄寺の眼前に向けていた。


…やれやれ。


獄寺はため息を吐いた。


スプーンが獄寺の眼球を刳り貫いた。





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最後の景色が拷問部屋といかれた拷問師とは…どうやらオレの日頃の行いは相当悪いらしいな。


リクエスト「エログロ」
リクエスト…ありがとうございました…