□家庭教師−その実、真綿エンドレス−



「どうした?」
「酷く、悪い事をしているような気持ちになります。」

ベッドの中。全裸で両足を大きく開いていた。
恥ずべき部分を全て、余すとこなく見られて羞恥よりもこれから受ける行為への期待の方が大きい。しかし、羞恥には回数を重ねるごとに慣れても行為に対する罪悪感のような者は慣れない。同意の上の行為ではあるが、罪深いそれはとても悪い事のように感じられた。

「そうか?」
「そうです。」

均整のとれた体に腕を回す。縋りつくように。男にしても女にしても肉付きの悪い自分の体に比べ、この人の顔と体はとても綺麗だと思った。無駄な肉も無駄な筋肉もない。端整な顔とこの体があればこの人は綺麗な女性だって引く手多数。選び放題だろう。頭だってもの凄く良い。だから、何度も同じような質問をしてしまう。

「リボーンさん、どうして俺なんですか?」
「また、その質問か?」
「でも・・・」
「お前はお前が自分で思う以上に魅力的だと教えただろう?」

その問答は何度も繰り返された。まるで定型文のように違わぬ答えに、安心するより不安の方が大きい。大人の男性。子供の自分。そして同性。こうして体を重ねていても不安ばかりが先走る。きっと自分の体に触れても柔らかくは無い。骨ばかりの体。そして中だって女性のように彼を気持ち良くしてあげられているのか疑問だ。性欲処理にだって使えないんじゃないだろうか。と思う。自分は、彼に触れられてとても気持ちが良いけれど。

「それより・・・明日はテストだったが、もう分からない事は無いか?」
「あっ、はっ、はい。リボーンさんの説明とても分かりやすいので・・・」
「あんまり出来が良いと、俺はいらなくなりそうで困るがな。こうしてお前に会えなくなる。」
「そんな・・・」

普段は表情を変えないこの人が少しだけ頬を緩めるのを見るのは好きだ。
こうして触れてもらうのも好きだ。
勉強はつまらないけど、この人に教えてもらう勉強は好きだ。
この人が居なくなったら、とても悲しくてたまらないだろう。寂しいだろう。

「リボーンさん・・・」
「なんだ?」
「大好きです。」
「俺もだ。」

不安と喜びと苦しさを全部纏めて。







「おい、獄寺。」
「えっ、あ・・・あぁ、何だ?」
「次、移動教室。」

ボーっとしていた。山本に肩を叩かれてはっとなる。眠いのと悩み事で今の授業は殆ど聞いていなかった。(ノートだけはかろうじてとっていたが)もちろん、眠いのはりボーンさんのせい・・・ではなく、夜遅くまでリボーンさんに借りた本を読んでいたからだ。読み出したらとまらなくて、ついつい夜更かしをしてしまった。本はよく読む。リボーンさんに借りる本はどれも全部面白くて夢中になって読んでしまう。程ほどにして学校で休み時間にでも読もうと思うのだが、汚したりなくしたりしたら嫌だし、それに途中で止められなくて結局夜更かしして読み終えてしまうから学校へと持ってきた事は殆ど無い。


「早く行かないと次の授業始まるぜ?」
「そうだな…次、なんの授業だっけ?」
「えっと、美術。」
「ウゲ・・・」

美術の授業は好きな人間が多いようだが、俺は嫌いだ。見る分には理解できるし、素晴らしいと感じる事もできる。でも実際に自分がやるとなると、生来の不器用さが前面に現れてとんでもなく奇抜な物体が出来上がる。まだ、奇妙な物体が出来上がるだけならまだしも、美術教師に『マジメにやれ!』と叱られるのだ。一生懸命作ったものをそう言われてはたまったものではない。

「今日はなんか作るんだよな?マジメにやってるのにまた怒られるのかあ・・・」
「ん?あ、いや、今日は自習で課題のプリントやるだけみたいだぜ。」
「マジ?ラッキー。」
「俺は美術の授業のが好きだけどな。」

山本とそんな話をしながら廊下を歩いているとポケットに入れた携帯が震えた。不揃いな感覚で震える携帯。
この振動の仕方は・・・リボーンさんだ!

「山本!俺次サボる!」
「え!?おい!獄寺ぁ!」

そう言っていきなり今来た方向へUターンをした俺を引き止める山本。俺は振り向くことすらせずに廊下を走った。
もう俺の頭の中はリボーンさんで一杯だった。リボーンさんの中心は、俺じゃないと思う。
でも俺の中心はリボーンさんだ。リボーンさんが最優先。何を差し置いてもだ。
階段を駆け上り、急いで。しかし見つからないように極力足音を立てないように。
リボーンさんとの電話は誰にも邪魔されたくないからだ。
それに、誰かに見つかって呼び止められて、リボーンさんからの電話が切れてしまうかもしれないからだ。


この学校の屋上は高い柵で囲まれている為、普通の学校と違って自由に出入り出来る。
気候の良い季節なんかは、屋上で昼食をとる生徒も多い。
今は授業中と言うこともあり、誰もいない。話をするには最適な場所だった。
俺は屋上のドアをそっと閉じて、屋上の端に行ってポケットから携帯電話を取り出した。
リボーンさんの事で頭が一杯で、携帯を開ける手が震える。

「もしもし」
『獄寺、今は授業中じゃないのか?』

授業中だと分かっていて、かけているのはリボーンさんなのに。
何処か咎めるような口調にピクッと肩が震えた。
何だか、怒られているような感覚に凄く悪いことをしたように感じる。

「その…次の授業が自習になって…それに、あの…リボーンさんからの電話だったので…」
『あぁ、知っている。』
「え?」
『お前の明日の時間割を見たからな。移動教室だろうと思って電話をかけた。』
「でっ、でも・・・なんで自習だって・・・」
『あぁ、お前は今まで授業だったから知らないか。近くの学校が老朽化でいきなり崩れたらしいぞ。』
「え?」
『建物が倒壊して、今大変なことになっているらしい。多分、お前も今日は次の授業が終わったら一時帰宅になるだろうな。』
「そ、そうだったんですか・・・」
『多分、どの学校も余程の事が無い限り明日は休みだろうな。慌てて点検をするんじゃないか?それで緊急会議でもやって、今は自習なんだろう。』
「あっ、リボーンさん、それで・・・どうして、電話を?」
『今自習だろうから、電話に出るだろうと思ってな。』
「それ、だけですか?」
『何か理由がないと駄目なのか?』
「いえ、そんなわけでは…」
『別に咎めているわけじゃないから、そんな声を出すな。』
「はい。」

しばらく、無言の状態が続く。
俺は何か悪いことを言ってしまったのだろうか?と柵をぎゅっと掴む。

『獄寺。』
「ひゃっあっ!あっ、す、すみません!」

いきなり、SEXをする時のような低い声でリボーンさんが俺の名前を呼ぶから。
俺は思わず変な声をあげてしまった。俺が慌てて謝罪の言葉を口にすると、電話の向こうから低い笑い声が聞こえてきた。

『獄寺、あんまり俺を煽るような声を出すな。』
「すっ・・・すみません。」
『もっと聞きたくなる。』

リボーンさんがマジメな声でそんな事を言う。

「それは・・・」
『獄寺・・・』
「あっ・・・は・・・リボーン・・・さ・・・」

また、低い声で。俺の一番弱い声で。
背筋がゾクゾクする。
足に力が入らなくてヘタリと屋上に座り込んでしまう。

「リボーンさん・・・リボーンさん・・・」

足がガクガク震え、俺もSEXをしている時のように甘えた声でリボーンさんの名前を呼んでしまう。
俺の、股間も膨らんで、後ろの穴もリボーンさんを待ちわびてしまっている。
慣らされた体は、リボーンさんの悪戯のせいで勝手に期待をして準備をしてしまっている。

「リボーンさぁ・・・ん・・・酷いです・・・」

リボーンさんはここにはいないのに、どうしたら良いんだろう。

『何が、だ?』

リボーンさんはきっと分かっていて言っている。からかわれて遊ばれている。
俺がリボーンさんの低い声にものすごく弱くて・・・電話越しにささやかれただけで感じてしまう。

「俺・・・」
『勃ったか?』
「・・・酷いです・・・俺がリボーンさんの声に弱いの・・・知ってるのに・・・このままじゃ動けないです。」

意地悪な大人に恨みがましく言うと、電話口の向こうで笑いを堪える気配を感じた。
ムッとして頬を膨らませる。きっと俺のそんな姿をみたら子供だと思うのだろう。リボーンさんは。
普段なら、そんな子供っぽい所は見られたくないからしない。でも今は電話越しで俺の様子なんてリボーンさんには分からないだろうから、頬をぷくっと膨らませる。

『獄寺ー・・・』

また、低い声。背筋が震える。頬の赤みが増したかもしれない。ものすごく熱い。

『俺の言うとおりにするんだ。』

もう逆らえない。絶対服従しなければいけない訳でも無いのに、俺はリードをつけられた忠犬の用に素直に尻尾を振るしかないのだ。そしてそれを嫌だと思わない、喜ぶ自分がいるのは紛れも無い事実だった。

「はい・・・」

素直に返事をした。その声はきっと情欲に濡れていた。








リボーンさんの言うとおりに、ズボンの上から膨らんだ性器に触れる。
まだ柔らかいけれど、弄ればすぐに硬くなる。
よく考えれば、俺は自慰をした事がない。
もともとあまり興味は無かったし、自慰を覚える前にリボーンさんとSEXをするようになったから。
リボーンさんとSEXをすれば、頭が真っ白になるくらいの快楽を貰えたから。
だから、俺はやり方が良く分からず、電話の向こうのリボーンさんの言うままに手を動かす。

『まずは、ズボンを脱げ。』
「こっ・・・ここで・・・ですか・・・でも・・・ココ・・・学校の屋上です・・・」
『嫌か?』
「あ・・・」
『俺の言うことが聞けないか?』

そんなことを言われたら。俺は従わないわけにはいかない。俺はリボーンさんの命令には逆らえない。
何故だろうか?逆らっても良いはずなのに。

「いえ・・・脱ぎます。」
『いい子だ。』

電話で、声だけ。でも俺の頭の中には、少しだけ笑ったリボーンさんの顔が浮かぶ。
リボーンさんは、表情を緩ませて、俺の頭を撫でる。子ども扱いされてるんだと思うけれど、リボーンさんの手が気持ちよくて俺はいつも目を閉じてしまう。
携帯を耳に当てたまま、片手でベルトをはずし、ズボンを膝まで下げる。
リボーンさんに下着も、と言われたので下着も脱ぐ。

「はっ・・・恥ずかしい・・・です。」
『そうか。』

俺は顔が真っ赤だろうと思う。
ただ、股間の性器は触れてもいないのに角度をもって勃ちあがっている。
服を脱ぐだけで、リボーンさんの声だけでこんなになるなんて、俺はハシタナイのだろうか。

『やり方はわかるか?』
「あまり・・・でも・・・なんとなくは・・・」
『俺がいつもしているようにすればいい』

リボーンさんが?いつも?
ふと、以前鏡の前で足を開かされてリボーンさんに性器を弄られた時のことを思い出した。
思い出すだけで自分の痴態と、その行為の卑猥さに恥ずかしさで涙が出そうになる。
けれど、それ以上に興奮した事も覚えてる。
俺はリボーンさんがしていたように、自分の性器を手で握り、スライドする。

「はっ・・はぁ・・・ふぅん・・・」
『気持ち良いか?』
「はい・・・きもち・・・い・・・です・・・っん・・・」

先走りの液体が流れ、手のひらにベトベトと纏わりつく。
ぬちゃっ、ぬちゃっ、と卑猥な音が学校の屋上なのに、聞こえる。
その音を出しているのは、間違いなく俺で。

『いま、どんな状態か、説明してみろ。』
「えっ・・はっ・・・で・・・でも・・・」
『今の自分の状態を説明しろ。きちんと、詳しく。でないと点はとれないぞ。』

何の点ですか・・・と思いながらも、俺は熱くなった頭で必死に今の状態を説明する言葉を探す。

「俺・・・の・・・あの・・・きもちよくて・・・あの・・・す・・・すみません・・・よくわかりま・・・せん・・あっはっふ・・・ぅうん・・・リボーンさ・・・ん・・・リボーンさぁ・・・ん!俺・・・俺・・・後ろがむずむずして・・・気持ちよくて・・・すみません・・・わからないです・・・あああっ・・・」

あぁ、もう。頭の中がぐちゃぐちゃで気持ちよくて、性器を擦る手の動きは止まらないし、リボーンさんの質問には答えられない。にゅちゃにゅちゃという水音が耳にまとわりついて、その音にすら興奮してしまう。このやらしい音は電話の向こうにも聞こえているんだろうか?酷く大きく聞こえるような気がする。

『まったく、仕方のない奴だな。』

あきれたようなリボーンさん。電話だから、どんな表情をしているか分からないけれど。

「っくん・・・あっ・・・ごめんなさ・・・い・・・ひっく・・・ごめんなさい・・・ああぁっ!」

俺は謝りながら、なんだか悲しくて涙が出て来た。
性器を弄る手は止められない。両手があいていたなら、俺はもう片方の手で後ろも弄っていただろう。
きっと、普通の男の自慰はお尻の穴なんて弄らないだろう。けれど、お尻の穴を弄って得られる、泣きそうになるくらいの快楽を俺は知っている。教えたのは、リボーンさんだ。

『泣くな・・・俺はお前に泣かれると弱い。』

俺の泣き声に、リボーンさんがそんな事を言う。あぁ、また子供っぽい所をリボーンさんに見せて(聞かせて)しまった。こんな時、俺はリボーンさんに愛想をつかされるんじゃないかといつも不安になる。

「ごめんなさ・・・い・・・あっふ・・・」
『いや、俺が悪かった。いいぞ、ほら、全部出せ。』

リボーンさん言葉に、俺は性器を弄る手の動きを早くする。
やり方がよく分からなくても、何処を触れば気持ち良いのかは分かる。
括れや精液のあふれ出る先っぽに、指をぐりぐりしたり、引っかいたり。

「あっは・・・イッちゃう・・・イッちゃいます・・・学校なのに・・・外なのにっ!で・・・でちゃいます・・・お漏らししちゃいますっ!!!あああああぁあっ!」

ピチャッ、と断続的に白い液体を地面に吐き出す。腰がガクガクと揺れて、口からはいやらしい声ばかりが次から次に溢れ出る。
手も太股も地面も汚してしまい俺は柵にすがりついて、呼吸を整える。しばらく、呼吸をする音だけが聞こえていた。俺の呼吸が整ってくると、リボーンさんがいつものような静かな声で話し出す。

『・・・獄寺?』
「あっ・・・は・・・キモチ・・・よかった・・・です。」
『そうか・・・ところで、明日は学校が休みだと思うんだが。』
「あっ、はっ、はい。」

俺は慌てて姿勢を正す。リボーンさんの声が、普通の声に戻って、俺もつられるように普通に戻る。
熱かった頭はすっかりと平常に戻った。

『デートでもするか?』
「え?」

でーと。頭の中で反復する。リボーンさんと、デート・・・

『嫌か?』
「デート・・・えぇえ!?」

ものすごく、嬉しかった。俺は電話を握り締めた。

「リボーンさんとですか?」
『お前・・・俺とじゃなくて誰とするつもりなんだ。そうに決まってるだろう?』
「嫌じゃないです!したいです!嬉しいです!」
『そうか。じゃぁ明日家に迎えに行く。』
「はっ、はい!お待ちしてます!」
『用件はそれだ。あと、獄寺。ちゃんと服を着て戻れよ?』
「わっ、わかってます!」
『じゃぁ、切るぞ。』
「はい。わかりました。」

プツッ、と電話が切れる。俺は、電話を握り締めたまま、ホウッと息を吐く。
凄く嬉しくて、胸がドキドキする。恋する乙女のようだ。

「あっ・・・」

ふとわれにかえって地面を見ると、白い液体が散らばっていた。
自分のしたことに顔が真っ赤になる。

「うぁーーー・・・俺・・・なにやってんだ・・・」

半分はリボーンさんも悪いけれど。しかし、学校で屋外だと言うのにはしたない事をしてしまったのは自分だ。

「片付けないと・・・」

そういえば、ポケットにはハンカチが入っていた。それで拭こう。と、ポケットに手を入れた。






NEXT


熊さんへ捧げるリボ獄小説。第1話があまりに長いので分割。
リボ獄本命の獄総受けになります(笑)



* 花小箱 *のR-鈴木様から頂きましたー! ちょ、リボ獄・・・!

ていうかリボーンさんひでぇ! でもそんなリボーンさんにぞっこん(死語)な獄寺くん! 萌え!!
しかしリボーンさん…あんた、デートのお誘い電話するだけで獄寺くんになにやらせてんだ! 爆笑だよ!(え)

ありがとうございましたv そしてみんな次のお話に急ぐんだ!