けれどそれでも朝日は昇る



一夜の情事が終わり、心地良い疲労感に身を任せる。


隣では今までオレの相手をしていた獄寺が横たわっている。


「……………」


ふーと、獄寺の煙草を勝手に拝借する。この味にもすっかり慣れてしまった。



―――オレと獄寺の付き合いは、もう少しで一年になる。



獄寺は元々、骸と付き合っていた。


異例カップルと周りから言われていたが、お互い幸せそうだった。


が…


ある日の任務中、骸は殉職した。


発見された肉体はバラバラで、原型を留めてなかった。


獄寺の受けたショックは大きかった。


それこそ…放ってはおけないほど。


オレは日に日にやつれていく獄寺を見過ごすことは出来ず…そこから今の関係が始まった。


獄寺は男を知らなかった。


それどころか…キスの仕方すら。


生前の骸は獄寺に何もしなかったのか…という疑問が脳裏を過ぎったが、あまりにも無垢な獄寺を見てその問いは解けた。


何も知らない獄寺と事を及ぶのは…まるで新雪を踏み躙るような。そんな思いすらさせたから。



横で獄寺が身動ぎして。意識が現実へと戻ってくる。


起きたのか…と思ったが、獄寺の目蓋は依然と閉じられたままだ。


―――と、その目尻から雫がこぼれ落ちて…腕が、縋るように何かを求めるかのようにオレの方へと伸ばされて…


「………骸!!」


獄寺が叫ぶ。獄寺の腕はオレを掴んでいる。


「ぁ…」


はっとしたように獄寺は慌てて頭を下げる。…いつもの光景だ。今更過ぎて何も言うべきことはない。


「す、すいませんリボーンさん…。オレ……」


「―――気にすんな」


いつも通りの返答。繰り返される風景。何も思うことはない。


…未だ、獄寺の中には骸がいる。それほど獄寺にとって骸という存在は大きなものになっていたのだろう。


オレは獄寺の涙を拭う。そうすると更に泣いてしまうことを知っていながら。だ。


暫くして獄寺が泣き止むと、オレは獄寺を抱き締めて眠りにつく。


獄寺はオレの胸の中で声を殺しながらまた泣くが、オレは気付かない振りをする。



…全てが、いつも通りのことだった。



獄寺はオレに依存している。


…大きく欠けた心をオレが埋めたのだから。当然か。


だからか、獄寺はオレと離れることを嫌う。それとオレが危険度の高い任務に就くことにも。


いくら大丈夫だといっても聞かない。…骸の件が、獄寺の中で酷くトラウマになっていた。


けれど、だからと言って仕事を放棄するわけにもいかない。


後ろ髪を引かれる思いで。行かないでほしいと涙を流す獄寺を置いて。オレは任務に赴く。


そして…仕事を終わらせると真っ先に―――ツナへの報告も後回しにして―――オレは獄寺を安心させてやるため、あいつの部屋へ行くのだ。


獄寺は帰ってきたオレを見ると一瞬止まって…そして飛び込んでくる。泣きながら。


オレの名を呼びながら。細身の身体を震わせて。離さないとばかりにオレを抱き締めて…泣き続ける。


そこからは済し崩し的に情事が始まる。…獄寺を落ち着かせるには、これが一番だから。


…いや、それは言い訳だな。


オレ自身も、獄寺としたいと思っているのだから。



「獄寺…」


「…リボーン、さん…」


名を呼ぶと、それに反応してオレの名を呼び返してくる獄寺。


唇を獄寺のそれと合わせ、舌を滑り込ませる。


「んん、……ふぁ、リボ…っ」


静かな室内に濡れた音が響く。…それのなんとも卑猥で、官能的な音か。


オレはキスを施しながら、獄寺をベッドまで運ぶ。押し倒し、服を脱がせていく。


…一度呼吸を正そうと、唇を離そうとするが…そうすると獄寺がオレの首筋まで腕を伸ばして。離すまいと自分から距離を縮めてきて。


「ゃ…リボーンさん、オレを…置いて行かないで下さい」


ひとりは嫌だと獄寺は泣く。


ひとりになどさせない。少なくとも、今この時は。


「…お前をひとりには…させないさ」


声に出して告げると、不安そうに見上げられる瞳。オレはその視線を真っ直ぐに受け止めて…獄寺の首筋に舌を這わせた。


「ん…」


ぴくんと反応を示す獄寺。潤んだ視線を感じながら、舌先を下へ下へと伸ばしていく。


「ぁ…ん、リボーン、さん…」


艶の含まれた声が、オレの名を呼んでいる。


オレの舌は獄寺の胸の飾りを突き…手は獄寺自身へと移動させて。


「はぁ…っ、あ…!」


獄寺は急に与えられた刺激にかびくびくと身体を震わせる。指に先走りの液体が絡みつき、いやらしい音を出している。


「んぅ…ふ、ん………リボーン、さぁ…ん」


ねだるような。熱に浮かされたような。二度目の呼び掛け。


目線を上げ、視線を合わせると…欲情にまみれた…獄寺の目が訴えてくる。



あなたを、オレに下さい。



ぽろり、と一際大きな雫が獄寺の瞳からこぼれた。


「お願い…します」


泣きながら哀願する獄寺に耐え切れず、その目に。唇に…口付けを施す。


「ん…」


目を瞑り、それを受け止める獄寺の…腿に手をやり、持ち上げて―――


「んんん、く、ぁああああ!!」


獄寺を貫いた。


「は…ぁん、ん…!」


オレと獄寺の距離が近付くたびに、濡れた音が響いて…理性を遠ざける。



…オレの下で喘ぐ獄寺。


それを見てると…罪悪にも似た気持ちが湧き上がってくる。


獄寺は骸を亡くした日から比べると、大分回復したように思える。…実際、シャマルを初めとする獄寺を心配する奴らから何度も礼を言われた。


けれど。


これで本当によかったのだろうか。


もっと別の…方法もあったのではなかろうか。


「………………」


思い悩むオレに、獄寺の声が紡がれる。



「…リボーンさん…」



一瞬で正気に返り、視線を下げると…獄寺が真っ直ぐにオレを見ていた。


「…どうした?」


「何を…考えてらしたんですか?」


問い掛けられる声に、少し止まるが…すぐに調子を取り戻す。


「お前のことだ」


笑みを浮かばせて、そう囁いてやれば。獄寺は頬を少しだけ朱に染まらせて目を逸らす。


「…そういう言い方は…ずるいのではないかと」


かわいい奴だ。


心からそう思う。


すると…身体の奥からまた熱が込み上げてきて。


「ん…っ、リボーン、さん…」


オレの変化に気付いた獄寺が甘い声を出しながら。オレにしがみ付いてくる。


動きを早めながら…オレは真ん中に立つ獄寺自身にも指を持っていって。


「あ、ああ、あ…!」


獄寺が大きく震えたのを合図に、オレもまた果てた。



一夜の情事が終わり、心地良い疲労感に身を任せる。


隣では今までオレの相手をしていた獄寺が横たわっている。


…いつものことだ。


勝手に拝借する煙草も。その味も。いつもとまったく同じ。


このあと、獄寺は泣きながら目を覚ます。…かつての恋人を呼びながら。


…それでもいい。獄寺に無理強いをさせるつもりもないから。


まぁ…少しだけ。…淋しい気もするが。


「ん…」


横で獄寺が動く。その手は探すように探るように縋るように…オレの方へと伸ばされて。


「………」


虚ろな目は。ぼんやりとオレの方を見ていて。


「……リボーンさん」


その唇は…骸ではなく。オレの名を紡いだ。


「獄寺?」


オレの声も耳に入ってないのか、獄寺はオレを見つめたまま反応を示さない。


「前から…言おうって思ってたんですけど…オレの煙草勝手に吸わないで下さい…」


「…あぁ…悪かった」


そつなく返答を返すが、内心オレは驚いていた。


獄寺が…オレの名を呼んでいる。オレを見ている。


「…リボーン、さん…」


獄寺が再度オレを呼ぶ。


「リボーンさん、リボーン、さん…」


唐突に。ぎゅっと…獄寺がオレに抱きついてくる。うわ言のようにオレの名を呟きながら。…けれどその身体は震えていて。


「…獄寺。無理しなくてもいいぞ」


そう言うも、ふるふると首を横に振って拒絶する獄寺。…こいつなりにけじめを付けたがっているのかも知れない。


獄寺は真っ直ぐにオレを見て。(その目は濡れていて)


「…今、オレの前にいる人は…オレの隣にいる人はリボーンさんです。…あいつじゃないんです。あいつは…死んだんです」


最後の台詞にもなると。声は震えていた。


それでも獄寺は最後まで言い切ったし、オレから目も背けなかった。


…気付けば骸の死から一年。


こいつも少しずつ立ち直ってきているらしい。


来年辺りになると夜中悪夢にうなされることもなくなるかも知れないなんて。そんな暢気なことを考えていた。



このときは。





―――その日は。いつもと空気が違った。


昼間だというのにどこか暗く。誰とも擦れ違わない。


…酷く。嫌な予感がした。


それは予感というよりも、むしろ確信に近かった。


獄寺のいる部屋まで急ぐ。…ただでさえ重い空気が、更に重く。暗くなっていってるような気がした。


…いつしか、霧が。


藍色の深い霧が辺りを包み込んでいた―――



「獄寺!?」


扉を開けると、そこには…


「リボーン、さん…」


不安そうにこちらを見つめてくる獄寺―――と。


「クフ、クフフフフフフフ。…遅かったじゃあありませんか。アルコバレーノ」


嫌に上機嫌で笑いかけてくる…死んだはずの男が立っていた。



「…生きてたんだな」


「ええ。…肉体を具現化できるまで回復するのに随分と時間が掛かってしまいましたがね」


事も無げにそう言ってみせる。…皮肉気に。


「そう。予想以上に時間を喰ってしまいました。その間隼人くんには淋しい想いをさせてしまったと思っていたのです…が」


骸の目がオレを捕らえる。視線から感じるものは憎悪か殺意か。


「あなたが面倒を見ていてくれたのですね。助かりましたよ」


骸が言葉を放つ度に横で獄寺がびくびくと震えている。


「……ああ。だがお前が帰って来たってんならオレはもういらねーな」


「リボーンさん…?」


「おや。意外ですねアルコバレーノ。自ら身を引きますか?」


「元々オレは今にも死にそうだった獄寺の手を引いただけだ。もう大分回復したし…あとは獄寺の好きにさせるさ」


それはほぼ本気で、本音で…本当のことだ。


無論オレにも獄寺に対する執着もあるが、それは伏せておく。泥沼にしかならない。


「クフフ…なるほど。隼人くんの好きに…ですか。なら確かにあなたの出る幕はありませんね。僕と隼人くんは恋人同士なのですから」


わざと恋人同士の部分を強調する骸と獄寺から背を向け…立ち去ろうとする。


けれどまだどこか…嫌な予感は拭えない。


「リボーンさ…」


呼び掛けられる声。だけど途中で不自然に途切れた声に不自然さを感じて首だけ動かせば…そこには首を絞められている獄寺が…


「クフフ。どうしたんですか隼人くん。アルコバレーノなんて呼んで」


「…おい、骸!」


「なんですか? もうあなたと隼人くんは関係無いんですから。とっとと消えて下さい」


骸はあくまでもいつも通りだ。…獄寺に対して行っている暴行を除けば。


「獄寺を離せ」


「離す? どうして離れなければならないんですか? 一年振りに再会した恋人同士なんですよ?」


「…恋人の首を絞めることがお前の愛情表現か?」


「首?」


骸は首を傾げて…自分の腕と。獄寺を見た。それでようやく自分がしていることを悟ったようだった。


「おや…おやおやすいません隼人くん。僕としたことが、つい」


ついで済まされるようなことなんだろうか。ともあれ骸は獄寺を離し…獄寺は地に倒れ首に手をやり盛大に咽た。骸は手を貸さない。


「クフフ。でも隼人くんもいけないんですよ? 恋人の前で別の男の名前なんて言うから」


暴論だ。その程度で首を絞めるなんてビアンキでもしないだろう………多分。


涙目で骸を見上げる獄寺。微かに怯えの表情が混じっているように見えるのは気のせいだろうか。そういえばオレがこの部屋に踏み入ったときも獄寺はどこかびくびくしていた。


あの時は単にオレたちの関係が気不味くてかと思ったが…違うのか?


「リボーンさん…」


「おや。まだ言いますか隼人くん」


「―――止せ!」


言葉が出るよりも前に、身体が動いていた。


骸と獄寺の間に入る。…受け止めた骸の腕には獄寺をどうするつもりだったのか…白銀に光るナイフが鈍く光っていた。


「…止めろ。骸」


「邪魔しないで頂けますか?」


骸の声はあくまで静かなまま。…だが、オレに苛立っている感情までは隠しきれてない。否。隠すつもりもないようだ。


「…アルコバレーノ。これ以上僕を怒らせないで下さいますか?」


「勘違いするな。単にオレはお前の行き過ぎた行為が見過ごせないだけだ。…お前がオレや獄寺を怒る気持ちも分かるが、一年待たされた獄寺の気持ちも考えろ」


骸が殉職したとの報告を受けたばかりの頃は…放心し、否定し、暴れ、そして泣いた。それこそ毎晩だ。


「骸…逢いたかった。淋しかった。だけど…骸…どこかおかしい…オレが悪いのなら謝るから、出来れば前に戻ってほしい…」


背後からは獄寺の悲しい声が聞こえる。その声に…骸はようやく正気を取り戻したのかはっとしたような表情をした。


「あぁ…そうですか。そうですよね。すみません隼人くん。僕としたことがうっかり余裕をなくしてしまったようです」


謝罪の言葉を吐き、にっこりと…オレの後ろにいる獄寺を安心させるように微笑む骸。


ああ…よかった。後ろからも獄寺が安堵の息を漏らすのが聞こえる。これで問題は…


「ええ。隼人くんが僕を裏切るはずがありませんよね。分かっていますとも。全てはそこのアルコバレーノが僕の隼人くんを誑かしたのがいけないんですよね」


……………。


変な話になってる気がする。というか話の矛先が変わって行ってる気がする。ていうか気のせいではない。


「そう。隼人くんは悪いのではない。悪いのは―――…弱っている隼人くんに付け入ったアルコバレーノ。お前ですね?」


にこやかに笑われてしまった。しかしはいそうですと頷けるような話題ではない。…いや、確かに弱っている獄寺に付け入ったというのは言い方は悪いが事実なんだが。


「…骸?」


「ああ、大丈夫ですよ隼人くん。もう痛い思いも怖い思いもさせませんから。安心して下さい」


全然安心出来ない。そう思うのはオレと獄寺共通の思いだろうが…骸にとっては知ったことではないようだった。


「すぐにそこのベルリッケを殺して差し上げますから」


ほら、全然安心出来る事態になってない。ていうか誰が悪魔だ。


内心そう毒付くが、迫ってくる刃に身体が先に反応をする。背後にいる獄寺を突き飛ばし、同時に床を蹴る。目の端に先程まで自分がいたところを銀の軌跡が走ったのが見えた。


「クフフ…逃げないで下さいよアルコバレーノ」


無茶な注文だ。


骸と距離を取ろうとした所で…触手が腕に絡み付く。幻覚だ。オレなら破れる…



「大人しくしてくれないと隼人くんを殺しますよ?」



ぴたりと身体の動きが止まった。骸の声は本気だった。


「クフフ…お熱いですね。嫉妬してしまいますよ」


その声を合図にするように触手がオレを締め付ける。それは骨を折らんばかりの強さで。身体の内側からみしべきと嫌な音が聞こえる。


「…リボーンさん…! 骸! 止めろ!! リボーンさんに酷いことするな!!」


「おやおや…。どうしましたか隼人くん。………あぁ、そういうことですか。分かりました」


実際の距離よりも遠くから聞こえてくる会話をどこか他人事のように聞いていると、触手の力が緩められた。…それでも束縛はされていたが。


「リボーンさん!」


獄寺がオレに駆け寄ってこようとする。それを骸がやんわりと止める。


「クフフ…隼人くん。お忘れ物ですよ」


そう言って骸が獄寺に差し出したのは…先程、骸自身がそれで獄寺を攻撃しようとしていた、ナイフ。


「…自分でアルコバレーノを始末したいとそう仰るんですよね。分かりますよその気持ち。どうぞこれでアルコバレーノを滅多討ちにしちゃって下さい」


獄寺の顔から一気に血の気が引いたのが分かった。


それでも骸の勢いに押されるようにナイフをその手に持つ獄寺。


そしてオレを見据える。


涙を流してないのが不思議なほど、辛い表情をしていた。


どうしてこんなことになってるんだろう。


獄寺の心の内が、手に取るように解った。


「…さぁ、隼人くん」


硬直している獄寺の手を取り。オレの心臓に向けて照準を合わせる骸。あとは振り下ろせば全てが終わる。色んな意味で。


けれど…いくら待ってもナイフがオレに刺さることはなかった。


「隼人くん? どうなさいましたか?」


「………できない」


骸の問いに答える、小さな囁き。獄寺は目から雫を、手からナイフを落とす。


「骸…。確かにオレはお前が大事だ。好きだ。だけど…オレは…」


それより先は言ってはならない。止めなくてはならない。けれど獄寺の言葉を遮るよりも前にこの馬鹿は全てを言ってしまった。


「オレは…リボーンさんも大事だ。…愛してる」


獄寺がオレに背を向ける。骸の正面に立つ。獄寺の頭が目の前にあるので骸がどんな表情をしているのかは分からない…が。


「そうですか」


きっとその顔は。


「いけない子ですね、隼人くんは」


笑っていた。


「お仕置きです」


その声が。あまりにも楽しそうだったから。



直後に響いたのは、獄寺の絶叫だった。



「ぁあ! あ、ああああああああ!!!」


苦痛に滲んだ声。獄寺は膝を付いて倒れこもうとするが…骸が獄寺の髪を掴んでそれを阻止する。


「クフフフフフフフフ…いい声です。そそりますよ、隼人くん…」


恍惚な表情を浮かべる骸。正直付いていけない。


「ねぇ。そう思うでしょうアルコバレーノ」


だから話を向けられても困る。


「…悪趣味だぞ。骸」


「おや。あなたと僕は趣味が合わないみたいですね。…まぁいいですけど」


骸がオレから目を逸らし、獄寺へと向ける。獄寺は両手で顔を押さえていた。


「お前…獄寺に何をした?」


「クフフ、気になりますかアルコバレーノ」


面白おかしそうにそう言うだけでもう骸はオレの方など見向きもしない。


「大したことではありませんよ」


ただ口だけを流暢に動かし続けている。


「隼人くんが目の前にいる恋人をちっとも見てくれませんので」


…絶叫が上がる前。骸は屈んで獄寺の落としたナイフを拾った。そして…獄寺の…顔に走らせた。


「僕を見てくれないのなら。そんな目は要らないな。と思いまして」


………どうやらそれは、獄寺の目を裂いたようだった。


骸はナイフを今一度捨て、両手で獄寺の顔を逃さぬようにしっかりと押さえつける。


そして…獄寺の目に口付けをした。そのように見えた。


濡れた音がするが、それは骸が今付けたばかりの傷を癒すように舐めているのかと思った。


…が。


「…ひ。ぃ、ぁぁぁあああああああ…」


獄寺の口から何かに恐怖するような声が上がる。


………まさか。


「おい、骸…」


気付いた時。悟った時。止めようとした時…既に遅し。


骸と獄寺の距離が。限りなく近かった距離が。零になった。


「あ"、あ"あ"、あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"・・・!!!」


ぽたりと雫が垂れる音が。嫌にはっきりと聞こえた。


骸が獄寺から顔を離す。骸の口元から朱の混じった粘液が糸を引いて…骸の口元にあるものを視界に入れてしまって。吐き気がした。


「クフフフフフフフフフ。美味しいですよ。隼人くんの眼球」


そう言うと骸は、獄寺の目を思いっきり噛み潰した。獄寺が痙攣している。


「もう片方も…食べて差し上げますからね?」


優しく言って、また骸は獄寺に近付く。舌先が閉じられている目蓋に触れたのだろうか、獄寺がびくりと大きく震えた。


「や…目、取らないで…」


「そう言われましても…これはお仕置きですし」


「いや…やだ。………リボーンさん」


獄寺は恐怖の中に何を見たのか…オレを呼んだ。


「リボーンさん…リボーンさんリボーンさん! 助けてリボーンさん!!!」


震えながら、恐怖に打ちのめされながら。それでも獄寺はオレの名を呼んだ。オレに助けを求めた。


「おやおや…」


それをつまらないと思うのは。骸。…当然のことだとは思うが。


「まだ…お仕置きが足りませんか?」


骸が。獄寺の首辺りに手をやる。


「―――――!!!」


途端に獄寺の声が途切れた。何かが潰れるような音がした。


支えを失い倒れる獄寺。その、首元…いや、喉元は抉り取られていた。


その部分の皮膚と肉は骸の手の中にあった。


「これで少しは隼人くんも反省してくれるでしょうね」


にこやかに笑いながらそう言って。そうかと思うとその笑みを消して。…オレを見る骸。


「さて…。知ってると思いますがアルコバレーノ。僕はお前が大嫌いです」


「………」


「しかも。お前は僕の大事で可愛い隼人くんを奪っただけでは飽き足らず。純潔すら奪いましたね」


大事で可愛いと本当に思うのなら眼を抉り声帯を潰すような真似はしないと思うのだが。そう思ったが黙っておいた。


どうせこいつには通じない。


「…楽に死ねるとは思わないことです。まぁ、解ってるとは思うんですけど」


緩んでいた触手の力がまた強くなる。


しかしオレの意識は骸ではなく獄寺に向けられていた。


…最後までオレに助けを求めていた獄寺。そしてそれに応えることが出来なかった自分。


―――すまない。


これから受ける苦痛が、せめてもの償いになればいいと。そう思った。





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ろくな死に方しないだろうとは思ってなかったけど、まさかこんな死に様とはな。


リクエスト「骸獄前提でリボ獄。の熊の全力エログロ。かつ誰か一人おかしくなってる。あと死にネタ厳禁」
R・鈴木様へ捧げさせて頂きます。
リクエストありがとうございました。