葬儀は盛大に行われた。







―――――あいつの、獄寺の葬儀は。







オレたちが帰ってくると、葬儀はすぐに行われた。







大きな棺桶に入れられた獄寺に、色取り取りの花や紙幣やコインが添えられていく。







あの金髪の兄さんがオレたちの元へ花を持ってきてくれた。







「イタリアじゃな、葬儀のときは花や金を死者に送るんだ」







死者。







その一声だけで、思わず泣きそうになったけど、何とか堪える。







オレは黄色い花を。







ツナは真っ赤な花を選んだ。







そして獄寺の元へと赴く。







獄寺のその顔はホントに綺麗で。



………何見てんだよ。



なんだか、待っていればそのうち起きてきそうで。



……山本?



そしたらオレは獄寺にちょっかい出して、獄寺は怒って、喧嘩して―――



おい、こら山本



ツナは慌てて止めて、でも獄寺はまだ怒ってて、オレは笑って―――



―――山本!!



「山本」





――ツナに呼ばれてはっとする。



……やっと正気に戻ったかよ



オレは……今…?







「添えないの?」



10代目に迷惑かけんじゃねぇ、バカ山



気が付くと、ツナは既に獄寺に花を添えていた。







オレは慌ててツナの置いた花の隣に花を添えた。







添えるとき、屈んで獄寺との距離が近くなる。



……んだよ



獄寺の顔が、よく見えた。










ああ、何で、お前。







そんな、幸せそうに、満足そうに、笑ってんだよ。







分かってんのか? お前、……お前







死んでんだぞ。



―――っ



「っ………」







思って、奈落に突き落とされた感覚に陥る。







そうだ、獄寺はもう……







オレたちの、目の前で……







思い出したら、涙が出てきて。







走って、誰もいないところで泣こうと思ったけど、服をツナに掴まれた。







「ツナ?」



10代目?



「どこに行くのさ」







ツナの顔は、獄寺を正面から見ていてオレからは見えない。







「ここが、獄寺くんとの最後の別れ場所なんだよ?」



………



「それぐらい、分かって……」







「分かってないよ」



10代目…



きっぱりと、切り捨てるようにツナは言う。その強気なツナの態度に、オレは少し戸惑う。







「山本、オレに言ったよね」



……?



「?」







「――辛いのは分かってる。だけど、最後の別れがちゃんとしてないのって、もっと辛いと思う」



…んだお前



それは。



…10代目に向かって、んな大層な口聞いたのかよ



まだほんの、数時間前にオレがツナに言った、台詞。







「泣くぐらいが何さ」







ツナは言う。







「みっともないが何さ」







その声はとても力強くて。







「自分の言ったことに責任を持てよ」







オレの胸に突き刺さる。







「最後の別れなんだから、ちゃんとしろよ」







「……そうだな…わりぃ」







オレは謝って、また身体を獄寺へと向ける。



……情けねけぇ面。



一度逃げ出そうとしたオレが、また向き直るなんて、なんだか居心地が悪かったけどそれは自業自得だから仕方ない。







「獄寺くん……さよなら」



……はい



「じゃあな…獄寺」



――おぅ



オレたちは獄寺の顔をしっかり見て、そう言って、離れた。







暫くして、獄寺の棺に火が点けられる。







火葬だ。







燃えていく。獄寺が。







その様子を見ていると、ツナに話しかけられる。







「さっき、リボーンに聞いた話なんだけどね」







「ああ」







「イタリアじゃあ、葬儀は土葬が主なんだって」







「え?」







「でも、獄寺くんの前からの希望で、火葬ってことになったらしいよ」







獄寺の望みで……







オレは改めて燃える棺に目を向ける。







火は花に、紙幣に次々と燃え移り、その勢いを増していく。







その炎を前に。青空に栄えるその赤に。







オレはなんだか獄寺らしいと、そう思った。







オレの目から、また涙が零れ落ちる。







ツナを見る。







ツナは泣きもせず、ただ燃え盛る炎を見ていた。







「ツナは強いな……」







「強くなんてない…って言いたいけど、強くないと、マフィアのボスになれないからね」







それから会話は途切れる。炎が勢いをなくす頃、オレはツナに話しかけた。







「ツナ」







「ん?」







「ありがとな」







「何? いきなり」







もしもツナが、あの時オレを止めてくれなかったら、オレはきっと、この光景を見ることもなかったと思う。







ずっと誰もいないところで、一人みっともなく泣いていて、獄寺の棺が燃え始めても、戻ることも出来ずに一人でいたんだと思う。







そのことを言おうと思ったら、小僧に呼ばれて。







オレたちは、もう一度獄寺のほうを振り返って。







手を振って、小僧の元へと走っていった。







それが。







今から三日前の、話。












小僧に呼ばれたオレたちは、すぐにヘリに乗って、日本に帰った。







日本の土を踏んでも、家に帰っても、学校に来ても。







オレはなんだか夢の中にいるようで。







朝錬も身に入らなくて。







教室に入っても、当たり前だけどあいつの席は空席で。







教員が来て、オレたちに告げた。







「突然だが、獄寺は本日付けで、学校を辞めることになった」







ざわめく教室。冷静なのはオレとツナの二人だけ。







「なんでも、家庭の都合で急遽、イタリアに帰ることになったらしい。もう日本にもいないそうだ」







この世にもな。







女子の悲鳴が上がる。悲しそうだ。泣いてる子もいる。







男子もショックを受けていた。あいつ、男女平等に人気があったんだな。







それから授業が始まったが、クラスはそれどころではなかった。







何とか獄寺と連絡を取ろうと、オレやツナ、はては担任に詰め寄る奴。







授業サボって、獄寺の住んでたマンションまで行こうとする奴。







オレとツナは上手く周りから潜り抜けたから、教員が被害を被ることになった。







いくら調べても、足跡一つ残ってないであろう、それ。







たとえ見つかっても、それは偽の情報であろう、それ。







それに一喜一憂しているみんなを尻目に、オレとツナは早くも今までの日常の中に溶け込んでいた。







人の噂も七十五日とはよく言ったもので、二ヶ月ちょっと…とは言わないでも、進級する頃には、誰も獄寺の話をしなくなった。







オレもツナも、同じクラス。同じ二年になれた。







……あいつがここにいれば、きっとまた同じクラスになれて、また笑いながら馬鹿騒ぎしたんだろうと、何気なく思う。







オレは時々こんな風に、ありえない"もしも"を考えるようになった。







たぶん良くない癖なんだろうけど、直す気も、直せる気も起きなかった。







それからツナは変わっていった。







どこが、と聞かれれば言うのに戸惑うような、そんな些細な変化。







だけど、確実に。







ゆっくりと。







ツナは変わっていった。







それと同時に、オレも。







オレもマフィアになると分かった小僧は、今までの赤ん坊の皮を剥がしてオレをスパルタに鍛えていった。







思えば入ファミリー試験とか、トレーニングとか。アレは本気で、もしかしたら死んでたのかもしれなかったんだな。







そのことを悟ったとき、少し震えが走ったものだ。







鍛えられる度に、小僧は笑って、「やはりお前素質があるな」なんて喜べばいいのか悲しめばいいのか良く分からないことを言われた。







…お前に近付けて行ってんだから、喜ぶべきかな?



……馬鹿。そこは喜ぶところじゃねぇよ



……暫くしてツナがマフィアの、ボンゴレの10代目になって。







オレはツナの右腕…になっちまって。







オレたちはそれを否定したんだがなぁ。







だから一応肩書きとしては"ボンゴレ10代目の左腕"ってことになってるんだけど。







事情を知らない下っ端たちにはやっぱり"ボンゴレ10代目の右腕"ってことになってるみたいなんだ。







違うのにな。







オレはボスのケンコー骨。







ボスの…ツナの右腕は、お前なのにな。



…馬鹿



……初めての任務は、なんだっただろうか。



…おい



初めて敵地に一人乗り込んだ時の気分は?



やめろ



初めて洒落にならない怪我をした時は。




思い出すな



仲間を殺された時、オレはどうした。



考えるな



……初めて人を、殺した時の、感想は。



――山本!!



―――――ああ、わりぃ。



………



時々な、あるんだ。こんな時が。







後悔、してるわけじゃないんだ。







あの時。決めたときから。







辛いこと、苦しいことを山のように味わったけど。







後悔じゃ、ないんだ……







ただ、な。







時々、虚しくなるんだ。







もしも、オレがお前らのことを遊びじゃないって、分かっていれば。







もしも、お前らが本気でマフィアしていると知って、それでも構わずオレがボンゴレに入っていれば。







お前は、生きてたんじゃないかって。



馬鹿野郎…



分かってる。そんな甘いことにはならないと。







分かってる。そんなありえないこと考えても意味はないと。







でも、考えちまう。







そして、虚しくなるんだ。







……なぁ。



…ん?



そっちは、どんな感じだ?



こっちは…



オレはまだまだそっちに行けないけど。


出来れば、一生来んな

あはは。でも山本にはまだまだ頑張ってもらわないと


でも、いつかは行くから。


待ってるよ

……仕方ねぇなぁ


だからさ、オレがいつかそっちに行ったら、また馬鹿騒ぎしようぜ。


いいね、それ

……そうですね


言いたいことも、聞かせたいことも、沢山あるんだから。


楽しみにしてる…ほら、獄寺くんも

…ま、見ててやるよ


だから待っててくれよな?



………分かったよ



オレはそう、墓石の前で、誓う。願う。







そしてこれが。







「じゃあな」



じゃあね、山本



今から10年後の、話。



……………またな。山本





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だから。今のオレは10年後、そんなことになるだなんて、知らない。


後日談