眼が、醒める。


………。


ゆっくりと…ゆっくりと、時間を掛けて、起き上がる。


そうしないと、起きれないのだ。


…身体中が、痛くて。





その痛みは、オレが気を失う前までの出来事が夢ではないと顕著に語っていて。


部屋には、あの悪夢の痕跡などひとかけらもないのに。





今、ここにはオレしかいない。悪夢の具現としか思えない骸はどこにもいない。10代目も…ランボも、いない。


腕も、自由で。


シーツは綺麗なものに。


オレも裸でなく、衣類を纏っていて…


肌も…髪も。身体の汚れは、ひとまず取れている。





それはまるで、あの日の再現。





けれど、これをしたのはあの人じゃない。


あの人でない別の誰かが…恐らく10代目が……オレの身体を…





………。





今すぐに着替えたい気持ちになって。


服に手を掛け…





―――今のこの姿も、今この瞬間も撮られているのだと気付いて、動けなくなる。





…小さく息を吐いて。


横眼で時計を確認する。


いつも起きる時間より、だいぶ早いか。





…今日は何日だろう。





何ヵ月も―――何年も…ここにいたような気もするし。


たった一晩しか経っていないような気もする。





…これから、どうすればいいのだろう。


オレは、どうすればいいのだろう。





こんなことになって、もうボンゴレにはいられない。


だけど…


そうなると…あの人とも、別れることになるのだろうか。


それは嫌だなぁ…


とはいえ…だからといってここに留まるなど無理だろうし。





思考は纏まらず、動くことも出来ず、時間ばかりが過ぎていく。


そうしていると―――部屋の扉が開く音。





思わず、身体が強張る。


冷汗が流れる。


現れたのは―――





「戻ったぞ」





リボーンさん。


リボーンさんだ。


オレは何故だか平静を保とうと、いつも通りを演じようとして―――





「…獄寺?」


「………っ」





そんなの、出来る筈がないと、気付いた。


視界がぼやける。


オレの異常に気付いたリボーンさんが駆け寄ってくる。





「どうした? おい、獄寺!」


「………、」





リボーンさんの問いに、答えることが出来ない。





安堵からか。


安心からか。





オレの眼からは、水が。


溢れんばかりの、水が。





オレはそれを拭う事も出来ない。


リボーンさんに触れられる。


オレの身体が、思わずびくりと震える。





「ごく………」





リボーンさんの声が途切れる。


リボーンさんの視線が、オレの首筋に向かれている。


きっとそこには、身体中に付けられた痣の一つがあるのだろう。


リボーンさんは少しだけ、オレの衣服の隙間に目線を入れて―――


その身から、殺気を放った。





「獄寺」





リボーンさんの声。


リボーンさんの冷たい声。





「誰だ」





リボーンさんの眼が、オレを覗き込む。


リボーンさんの言葉に、オレの脳裏にこれまでの出来事が蘇る。


オレに添えられたリボーンさんの手に力が籠る。痛いほど。


リボーンさんが身を翻す。


向かうは…10代目の所だろう。


オレはリボーンさんの袖を思わず掴んでいた。





「…なんだ」


「オレも…行きます」


「そんな青い顔で、無理をするな。ここにいろ」


「…嫌ですよ」





ここは嫌だ。


この場所は嫌だ。





「…この部屋、監視されてます」


「…何?」







…それに。


あなたがいないのも嫌だ。


あなたと離れるのは―――もう嫌だ。





オレは痛む身体をどうにか動かし、寝具から…長い間、オレを拘束していた場所から抜け出す。


立てず、よろける。


…リボーンさんが、支えてくれた。


久々のリボーンさんのぬくもりに、香りに―――また涙が零れそうになる。





…って。


えっ





リボーンさんがオレを抱きかかえた。


え、嬉しいけど、めっちゃ恥ずかしい。





「り、リボーンさん!」


「お前の速度に合わせてたら、日が沈む」





そうかも知れないですけど!


って、え、まさかこの状態で10代目に会いに?





そのまさかだった。





リボーンさんは速足で、真っ直ぐに10代目の主務室へ。


扉を蹴飛ばして、一気に中に。


…部屋の中では、10代目が。


いつものように、10代目がそこにいた。





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