10代目は、オレとリボーンさんを一瞥して―――微笑んだ。


それはまるでいつも通りで。


あの出来事がなかったのではないかと思うぐらい、いつも通りで。


10代目は目線をパソコンに移し、操作しながら呟く。





「仲良いね」


「人生最後の言葉はそれでいいのか?」





リボーンさんの静かな怒りの声にも、10代目は怯まない。


リボーンさんが銃を取り出す。10代目に…向ける。





「仕事を引き受ける時…オレはお前に獄寺を任せると言ったつもりだったんだがな」


「確かに聞いたね」





そうだったのか。


知らなかった。





…あの日から。


あの日…オレが骸に不覚を取ってから、リボーンさんはいつも傍にいてくれた。


だからリボーンさんが任務に出る時、実はオレも少しだけ…不安を覚えた。





「だから、任されたじゃない」





10代目が、笑いながらキーボードを叩く。


スピーカーから、音声が流れる。





『ぁ…っ……んっ』





………っ


その、声は、オレだ。


全身が粟立つ。


身体中が強張る。


嫌な汗が流れる。





『大分胸で感じるようになってきましたね』


『…あっ…ぅ…あぁ……っ』


『ご褒美に、もっとぐちゃぐちゃにしてあげましょうね』


『ゃ…め……っ―――あっ!!』





骸の笑い声が聞こえる。


オレの呻き声も。


水音が響いて。


機械の、振動する音。


そして銃声。


………。


銃声?





見れば、パソコンが破壊されていた。


リボーンさんが銃で撃ったらしい。





「あーあ、せっかく編集してたのに」


「………」





リボーンさんは、何も言わない。


無言のまま、銃口を10代目に向ける。


10代目は怯まない。





「別に、独り占めなんてしないのに。言ってくれればリボーンにもあげたのに」





リボーンさんが引き金に力を入れようとしたのが見えて。


………。


オレは銃口を手で包んだ。


リボーンさんが眼で邪魔をするなと告げている。





「…獄寺くん?」


「10代目…」





オレの声は、自分で驚く程小さく、弱々しかった。


ああ、なんて情けない。


でも、ここは、オレがいかないと。





「10代目、オレ…分かったんです。…どうしてあなたが、こんなことをしたのか」


「………」





ずっと考えてた。


あの優しい10代目が、何故あんな酷い事をしたのか。


最初は骸のせいだと思っていたけど。


でも、それだけではなくて。





きっとその原因はオレにあるんだ。


そして…恐らくは、リボーンさんにも。





なら…10代目の心は―――





「10代目…あなたは……恋情を、抱いていたんですね」


「……………」


「…リボーンさんに」





何故か。


何故か10代目は机に頭を叩き付け、リボーンさんは頭を抱え、殺気を霧散させていた。


何故だろう。





「…そう来たか……」





10代目の方からそんな呟きも聞こえたけど、でもきっとこれで正しい。


リボーンさんほど魅力的な方と、あれだけ長く一緒にいて好意を抱かないなど…ありえないのだから。





「すいません、オレ…10代目の気持ちに気付かないばかりか、10代目にリボーンさんの相談を…何度も……」


「いや…あのね、獄寺くん」


「10代目…あなたは、死ぬつもりなんですね」


「………」





さっきから10代目はリボーンさんを煽ってばかりで。


その狙いは、殺されること。





「…自分の思いが実らないのなら、せめて愛するリボーンさんの手で…この世を去りたいと」


「…獄寺、もう黙ってろ」





何故か呆れ声のリボーンさんにそう言われてしまう。


何故だろう。


オレ…何か、間違っただろうか。





「…まったく、殺す気も失せた」


「あれ? 殺さないの?」


「…馬鹿二人を殺す手間を省いてくれたみたいだしな…それにお前の狙い通りになるのも癪だ……」





…え?


言われて、ふと室内を見渡し…気付いた。


部屋の隅で倒れている人間が二人。


二人は、赤い染みの上に倒れていた。


…骸と、ランボ。





「殺すつもりはなかったんだけどね…骸はリボーンが帰ってくると聞いて獄寺くんを連れ去ろうとしたから。ランボは…ちょっと殴ったら力が強すぎたみたいで、それで」


「オレが殺したかったんだがな……」





リボーンさんが、10代目に向き合う。


そして言う。


それは、決別の言葉。





「オレは今限りで、ボンゴレと縁を切る。…9代目の恩義も、掟も、知ったことか」


「………」





リボーンさんがボンゴレから離れる。


それは…オレとは、どうなるのだろう。


オレとも…離れるのだろうか。





それは…それは……


………。





「お前とも、金輪際会わん」





リボーンさんが、10代目に再度銃口を向ける。


リボーンさんが、オレを強く抱く。





「退職金代わりに、獄寺は貰っていくからな」


「―――え?」





間抜けなオレの声と、銃声が重なる。


銃弾の先には、10代目。


10代目が…倒れる。





「……殺したんですか?」


「その気は失せたと言ったろ。携帯を撃っただけだ」





見れば確かに10代目から血は出ていない。呼吸もしているようだし…どうやら銃撃の衝撃で気を失っただけのようだ。





「お前が望むなら殺すが? それとも、お前が殺すか?」


「………いえ」





あれだけ酷い目に遭って。


あれだけ裏切られて。


あれだけ汚されて。…犯されて。


それでも…やっぱり。





「10代目は…特別な方ですから」


「…そうか」





リボーンさんは短く呟き。


恐らくデータがあるであろう10代目の自室を爆破してボンゴレを去った。


…オレを連れて。




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