五日だった。


あの悪夢。


リボーンさんがボンゴレを経ち、帰還するまでの間。


思ったより短かったような気も、思った以上に長かった気もした。


…いや、短かった。


何故なら、あの悪夢が終わったのはリボーンさんが任務を早く終わらせて帰還したからで、リボーンさんがまだ仕事をしていたらオレは今も―――


………。





「どうした?」


「いえ…」





今、オレは、オレたちは移動していた。


リボーンさんの運転する車で。オレたちはボンゴレから…10代目から、どんどん離れていく。


………。


暫く走って。オレは口を開く。





「リボーンさん…ここで降ろして下さって…大丈夫です」


「何の話だ?」


「………」





気分が沈む。


身体が重くなる。


でも、言わなきゃ。…告げなきゃ。


震える声で、声を何とか絞り出す。





「オレ…は、汚れ、ました」


「………」





それはきっと、あなたの思う以上に。





「身体…も、おかしく…なって」


「……………」





オレはもう、前までのオレではなくなってしまった。


オレは…変えられてしまった。


そんなオレをリボーンさんに知られたら…見られたら。


きっと…嫌われてしまって。


捨てられて……しまって。


そうなるぐらいなら、そうなる前に―――





「おい」





リボーンさんの、声。


不機嫌そうな、怒っているような。





「"退職金"は、黙ってろ」


「………」





怒っているようじゃなかった。


怒ってた。


勿論、不機嫌だし。





リボーンさんはもう何も言わない。


オレを降ろす様子もない。


オレは黙ってろと言われ、その通りにする事しか出来ず。


気分の落ち込みに合わせて、顔を俯かせて。


空気は重く。


気まずさから逃げるように、オレは眼を瞑った。


広がる暗闇。


車の振動が身体を揺らす。


………。





気付けば眠っていたらしい。


リボーンさんの「着いたぞ」という声で意識が浮上する。


けれど…身体は動かない。


オレの身体に蓄積された疲労はまだ取れず。


むしろあの悪夢から解放されたことで、リボーンさんという安心出来る人が傍にいることで…いつの間にか緊張が解けたようで。





身体が休息を求めている。


浮かんだ意識が、また沈みそう。





でも、リボーンさんが呼んでいる。





応えなければ。


声を出さなければ。


でも、何も出来ない。


―――身体が、動かない。





リボーンさんが起きないオレを抱き上げる。










―――それは。


その感覚は、あの日に酷似していた。










あの、悪夢の、始まりの。





リボーンさんがどこかの扉を開く。


扉を閉める。


…鍵を、掛ける。


オレは声すら上げられない。


オレはどこかに横たわられる。


それは…その感触は……





ベッドの、上。





………。


何の、問題も、ない。


何も、おかしな事は、ない。


眠っている人間を、意識のない人間を、寝具で寝かせるなんて、当たり前過ぎて、当然過ぎる行動だ。


だというのに。










   余程、獄寺くんとセックスするのが楽しみなんだろうね。


   所詮はリボーンも、獄寺くんをこうしたくて仕方ないんだよ。










10代目の声が、脳内に反響して止まない。


違うのに、リボーンさんはあんな…あんな酷い事、決してしないのに。


いくら拒絶しても否定しても、10代目の声が響いて響いて。





「…獄寺」





リボーンさんの、声が、聞こえる。


リボーンさんの、オレを、呼ぶ声。


リボーンさんの、気配が、近付く。


リボーンさんが、オレに、触れて。





「―――――」





オレを―――抱き締めた。


強く―――強く―――強く―――――





それは、正直、苦しいほど。


それは、正直、痛いほど。


身体が折れそうなほど。


密着するリボーンさんの身体は、震えていた。





「…すまない……オレは、また…お前を……」





………。


謝るのは、オレの方ですよリボーンさん。


リボーンさんはこんなにもオレを案じてくれているのに。


なのにオレは…あの程度の目に遭った程度で、10代目の戯言に惑わされて。


ああ、本当に情けない。


オレは声を絞り出す。


あなたは気を病まなくていいんですよと、告げたくて。





「だい…じょうぶ、です…」


「…起きていたのか」


「ええ…」





リボーンさんがオレを見る。


リボーンさんの眼に、オレが映る。





…見ないで下さい、リボーンさん。


一瞬でもあなたを疑ったオレを。





そう思うけれど、オレは顔を背ける事も出来ず。


あなたは一目でオレを暴いてしまう。


あなたは弾かれたかのようにオレから離れた。





「あいつ…っ」





そして拳を壁に叩き付ける。


やっぱり殺しておけばよかった、と吐き捨てる。





「…リボーン、さん…悪いのは……」


「お前は悪くない!」





オレなんです、なんて言う暇も与えられない。


リボーンさんが自分を責める。


リボーンさんだって、リボーンさんこそ悪くないのに。


でもオレの言葉は届かない。


オレは身体を動かす。


多少横になったおかげで、リボーンさんが抱き締めてくれたおかげで少しは動くようになったオレの身体。


それでも自由に動けるには程遠くて。


オレは立ち上がれずベッドから転げ落ちた。





「獄寺!」





リボーンさんがオレに近付き、けれどオレに触れて良いものか迷っている。


だから、オレがリボーンさんに手を伸ばす。


頼りない腕はそれでもリボーンさんを掴んでくれて。


リボーンさんも、振りほどかないでくれて。


リボーンさんはオレの身体をどこに落ち着かせようか考えていた。ベッドの上はトラウマの塊だと思ったらしい。





…あなたがいてくれたら、もう大丈夫なのだけれど。





オレは…


………。


オレ、は―――





「リボーン、さん」





オレは声を上げる。


小さな、弱々しい、頼りない声。


それでもリボーンさんには届いたようで。





「…なんだ」





………。


オレは、眼を瞑って。


そっと告げる。





「上書き…して、頂けませんか?」





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