思う。彼はどこまでを知っていて。どこまでを隠していたのかを。
想う。オレはそれを知ったとして。どう行動するのかと。
思って想っておもっても。出てくる感情はただ一つ。
重くて暗くて切なくて。泣き叫んでしまいたくなるほどの―――…後悔。
Though I was happy if I did not know it. (…But what expected it oneself)
「…実はな。数ヶ月前からボンゴレである計画が持ち上がった。…『時期ボンゴレ10代目最有力候補暗殺計画』がな」
「!?」
「あ、悪いちょっと語弊がある。…暗殺「未遂」計画、だ」
「未遂…ですか?」
それはつまり。オレを殺す目にあわせる計画ということか。しかし何故。
「マフィアのボス…特にボンゴレたるもの、常に最悪な想定をしておけってことだろ。―――例えば、側近の部下に裏切られる、とか」
「な…!?」
言葉を失う…と同時に納得する。ああ、それならば彼が選ばれるのは当然のことだ。
「でも、それを獄寺くんが承諾するとは―――」
言ってる途中に思い出す。彼の状態を。
…彼は、今。記憶を失っている。
「…じゃあ。今の獄寺くんの状態って…」
全ては。ボンゴレによる働きだったと。そういうことだろうか。
「あれ…? でもそれだと…」
それだと分からないことがある。
これがもしもボンゴレの計画だとすると、獄寺くんが襲われる道理はない。
「ああ、それはまた別件だ。ボンゴレの科学班はそれなりに成果を上げてるからな。資料を盗まれそうになることもしばしばなんだ」
ボンゴレの方でも被害はあったらしく。けれど資料は守られ向こう側の敵アジトも潰されたらしい。
…それだけでは飽き足らず日本にまで来て殲滅させてしまったというのだから、いやはやマフィアというものは恐ろしいものだ。
―――でも。それをそうだと納得するとしても疑問がまだ一つ残る。
「なら何故。獄寺くんはオレを攻撃しないんですか」
もしも。獄寺くんがその計画の中心人物の一人として選ばれたというのなら。それで記憶を消されたというのなら。
何故彼はオレを暗殺しようとしないというのか。まるで一般人のように笑っているというのか。
…オレを、守ってくれたというのか。
「おおかた薬が不完全だったということだろ」
黙っていたシャマルが口を開く。薬。彼は何かを知っているというのだろうか。
「診て分かった。隼人には様々な薬物投与の形跡があってな。まぁそれの複合作用なのかもしれんが…とにかく投与された薬が上手い具合に働かなかった、ってことだろ」
投げやりな口調で言葉を話すに覚えるは反発。
「上手い具合に働かなかったって…仮にも時期ボス候補の暗殺計画にそんなことはないんじゃないんですか?」
「その計画そのものが本当の理由を隠すだけのものだったとしたら?」
「は…?」
オレを殺す計画が隠れ蓑。そんなことってあるのだろうか。
いや、それよりも…そうだとすると本当の目的は何だというのだろうか。
「―――実験体」
短く放たれた言葉は不吉なもの。それに覚えるは恐怖。
「じ…っけんたいって。何言ってるんですか。そんなことあるわけ…なにを根拠にそんなことを……」
戸惑いながら、上手く言葉を放せないながらに言うオレにシャマルは無慈悲に、冷たい目で。
「傷」
短く、それはもう短く言い放った。
「き、ず…?」
「隼人の身体には薬物投与のあとがあるって言ったろ。…それ以上に隼人の身体には所狭しと傷があった。―――小さいものから大きなものすらな」
―――――嘘だ。
「しかも、傷の出来具合からして数ヶ月前からのもすらある。…随分と前から隼人は傷ついていたようだ」
そんなの、嘘だ。
だって。彼は、獄寺くんは。
ずっとずっと…そう、ずっと前から元気だったじゃないか。記憶を失っても、それでもいつものように笑っていて。
「ああ、あいつは今痛覚がねぇ。…それに今暑いのか寒いのかすらもわからねぇだろうさ」
「そんな…でも、それなら今までなんで訴えなかったんですか!? 記憶がないのなら不安になって訴えるはずでしょう!?」
「記憶がないからこそ、訴えなかったんだ。例え何かがおかしいと思いつつも人間ってのは自分の状態を正常と考える節があるからな」
例え今の自分の状態が異常なのだとしても。おかしいのは周りで、自分こそが正しいと思うのだとシャマルは言う。
…獄寺くんも、その状態だったのだとシャマルは言う。
「―――で、隼人はよくイタリアに戻っていたのか?」
「…それは」
確かに、その頻度はこの数ヶ月でかなり上がっていたけど、でもそれはダイナマイトの補充でって…
「―――そうだな。獄寺はこのところよく任務に借り出されれていだな」
自分の目が見開かれたのが分かった。リボーンの思わぬ言葉に付いていけない。
「…リボーン……? なに、言って…」
知らない。そんなこと知らない。だって聞いていない。
「オレも時折ボンゴレに駆り出されてな。獄寺はオレが来る前から既に戦場に出ていた」
「うそ…」
「嘘じゃねぇよ。獄寺は時には怪我を負って戻るときもあった。…あいつに頼まれて黙っていたがな。しかしもう意味はないだろう」
オレの頭の中にこの数ヶ月間の獄寺くんとの日常が通り過ぎる。
どの獄寺くんも笑っていて。いつも通りで。…とても無理をしているようには見えなくて。
―――なのに、獄寺くんは本当はそんなことになっていただなんて。
「…なるほどな。繋がった。悪かったな無理矢理話させて」
「いや、良いよ。―――ところでスモーキンの治療費はいくらだ? 多少は色つけて払うぜ」
「…いらねぇよ」
ディーノさんの言葉に、しかしシャマルは首を振る。
「助けられなかったんだ。だからオレにはそれは受け取れねぇよ」
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―――その言葉の意味を、オレは理解したくなかった。
…けれど。普段は頭の悪い、何の計算も出来ないオレなのに。
こんな時だけ、いやに分かってしまうという悲しさ。
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