正解が見当たらない。何をしてもそれが正しいとは思えない。


だって。なにをしても。どれをしても。…結局行き着く先は同じなのだから。


考える時間すら惜しい。そうしている間にも共に過ごせる時間は刻一刻と減っていくから。





…そう、彼と。獄寺くんと共に過ごせる時間は。










Happiness I disappear, and to go for.










「………悪ぃ」

その小さな声にはっとする。見ると獄寺くんがしゅんと項垂れていた。

「え…ぁ―――いや…」

思うとおりに言葉を紡げない。泣きたくなるのをどうにか堪えて。ぎゅっと、握り拳を作って。



―――――けれど。



「ツナ」

獄寺くんは短くオレの名を呼んで。



「ごめんな」



なんて。記憶がないから何も分かっちゃいないくせに。今の自分の状態も何一つとして知らないくせに。

そうやって微笑んでみせる。そうして、オレの頭をくしゃりと撫でてみせる。



「つ、ツナ?」



堪えきれず涙がぽろりと。一粒落ちる。一度落ちると留めは利かずに溢れ出す。

涙を見せたくなくって。どうすることも出来なくて。オレは獄寺くんに抱きつく。獄寺くんが戸惑うのが分かる。

「え…あ、オレ…その、」



「―――――めんね」



「え?」

「…守れなくて…ごめんね」

「………」

「ごめん…ごめん」



守ると。絶対に助けると。そう誓ったのに。結局守れなかった。

そんな自分があまりにも不甲斐なくて。

涙が溢れて、止まらなくて。



…オレの謝罪の言葉も。止まらなかった。










「―――助からないって、なんですかそれ! どういうことですか!!」

食ってかかるオレにもシャマルは動じない。ただ冷静に淡々と語る。

「オレが診たときにはすでに手遅れな状態だったんだよ。…全く、なんでもっと早くに倒れなかったかが不思議なくらいだ」



シャマルの話によると獄寺くんの身体はぼろぼろで…限りなく弱まっていて。

下手な薬はそれこそ毒になって。獄寺くんの身体を壊してしまうから…そう、まさしく手の施しようのない状態らしくて。



獄寺くんはもう歩くどころか、ベッドから起き上がることすらもしてはならないらしい。

…いや、もうじゃなくて本当はずっと前…数週間前から、だったらしくて。

皮肉なことにそれは、丁度獄寺くんが記憶を失って戻ってきたときで。

もっとも、そのときにシャマルに診てもらったとしても。…やはり結果は変わらなかっただろうとのことで。



…獄寺くんは。

痛覚がないから。分からないから。一見は平気そうに見えるけど刻一刻と癒えない傷が獄寺くんを蝕んで。…それで。



もう、いつ死んでもおかしくない状態らしい。



その事実に、感じるは消失感。まるで手の平から零れ落ちる砂のような。まるで覚める直前の夢のような。

…何故だろう。

どうして、獄寺くんがそんな目にあわなくてはならないのだろう。



獄寺くんが、一体なにをしたというのだろうか。

獄寺くんはただ、ボンゴレに尽くしただけなのに。

何度も何度も任務に駆り出されて。そのたびに傷を負って。



なのに…その彼が実験体? 何故。



ボンゴレに恨みにも似た感情が湧き上がるけど…今はそんなことはどうでもいい。

今は…そう。獄寺くんと一緒の時を過ごしたかった。



―――最後の、最後まで。










「…落ち着いたか?」

「ん…うん、もう大丈夫。…あはは。ごめんねいきなり。オレ、カッコ悪い」



獄寺くんは最終的には泣きじゃくってしまったオレを突き放すこともせず。オレが泣き止むまでずっとオレの好きなようにさせてくれた。

「………ツナ」

獄寺くんがオレを呼ぶ。その声は力無く。オレを不安にさせる。



「な…なに?」

「―――ゎり、なんか…ねみぃ」

そういう獄寺くんの目は既に閉じられていて。もう意識は半分以上向こう側なのか力は抜けていて。



「え…あ、ご、ごくでらく…」

オレの言葉も虚しく獄寺くんはあっという間に寝息を立てて。…息の絶える気配のないことを確認してオレは安心して。



………そして、泣きたくなって。





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不安が止まらない。恐怖が拭えない。

こぶしを、ぎゅっと握り締めて。痛いぐらい、握り締めて。


―――涙を、堪えて。