「…隼人は、どう思う」
ええ。貴方は立派なボンゴレ10代目となられました。
そしてオレはそんな貴方をずっと隣で見てきました。
だからこの場所を選んだ理由が良く分かるんです。
「…昔さ、オレすごいこんな所に住みたいって思ってた」
海辺に小さな家を建てて。周りに煩いものは何にもなくて
ただ毎日波の音を繰り返し聞いて。夜には綺麗な月が見える。
『獄寺くんも一緒にどう?きっと楽しいよ』
『いいっスね!』
二人っきりで。命の危険に脅かされることもなく、
忙しい仕事に追われることもなく。何の変哲もない人生を
一緒に歩けていたのなら。
「君を連れ出してあげれなくて、ごめんね」
吹き荒ぶ風が髪を揺らす。眩しそうに眼を細めるのが
なんだか優しく笑っているように見えて。きつく瞳を閉じる。
いつから、こんな風に狂ってしまったのだろう。
痛いものを痛いと感じない。
嫌なものを嫌と感じない。
嬉しいと感じるこころは偽りだと押し込み、
平気だと浮かべる笑顔はいつの間にか皆の真実となって。
……だから貴方はああしていつも笑っていました。
『10代目、大丈夫ですか…?』
『うん?何が』
オレはいつも片時も離れず貴方の傍に居ました。だから
貴方がだんだんと自分を殺して10代目として在ることが、
それが自分を取り巻く全てのものにとって最善であることを
理解していったのをオレは知っています。
…オレは、貴方が壊れても傍でいることを誓いました。
貴方の世界にオレしか居ないのならそれでもいいと思いました。
『"隼人"。』
『なんですか?』
『オレね、この"言葉"好きなんだ』
『…君を、呼ぶための言葉だから』
…イタリアへ渡って、ボスとしてようやく落ち着いてきた頃。
少しずつ言葉を覚えていった貴方がある日言ったこと。
貴方はオレの名前を好きだと言ってくれた。オレはその時
自分が、自分という一部が貴方のものになったと感じました。
貴方がオレに触れても、オレが貴方に触れることは出来ない。
だから、その時本当に嬉しかったんです。身体でも心でもない
ただ受け入れられた事実。言葉では表しきれません。
だけど。
それも全て偽りだったのだと。
…そう思わせるような太陽が、もうすぐ沈む。
「さあ。そろそろ時間」
貴方は始終穏やかに笑って。
まるでこれから死の遣り取りをするなどとは微塵も感じさせない。
きれいな、嘘のようだった。
銃を手にして。
馴れたように照準を合わせて。
引き鉄を引く。ただそれだけのことだから。
「隼人。オレはね君のことが好きだったよ」
オレもです。そう、言葉にしようとして。
けれど想いとは裏腹に、それとは違う温度のない声。
「--------…恐いですか?」
昔とは違って、直接だろうが間接だろうが、
人を殺すことに慣れてしまった貴方が?そう、問いかけて。
それでも淡く微笑んだままの貴方に恭しく最後のキスをする。
(ありがとう、獄寺くん。)
(ありがとうございました…沢田さん。)
心の中で互いに呟くと
最後の太陽がすっと水平線に消えていったのを合図に、
音もなく銃を構えた。
--------------- 響く銃声。
飛び散る赤。
鮮やかなそれとは対照的に暗くなっていく視界の先、
----------- いつものように笑った貴方がいた。
++++++++
*