―――アルコバレーノ。
其れは老いを知らず。膨大な力を得た者のことではない。
彼らは、呪われた者たち。
悲劇と惨劇が約束された、悲惨な道を辿ることしか出来ない…孤高の存在。
これは黄色のアルコバレーノの、とても悲しい物語。
- 生と死の物語 -
戦場で迎えた朝。
生きているのはオレひとり。
殺戮で越えた夜。
朝日に映し出されるのは屍の絨毯。
辺りにあるのは死体だけ。それには敵も味方もない。
今踏みつけたのは、そこに転がっている手足は、オレのスーツに付いた返り血は、オレが殺したのは―――敵か味方かも分からない。
…数時間前まで、ここには大勢の人間がいた。
互いに殺し合っていたとはいえ…それでもその全ての命が消えてしまうとは驚きだ。
―――こうして殺しを繰り返していると、生きてる意味があるのか分からなくなる。
同時に、自分が殺していった奴らに意味なんてあったのだろうかと。
アルコバレーノであるオレがいると知ってなお、立ち向かってきた愚かな連中。
確かに、自分の見てくれはか弱い赤ん坊だけど。
―――朝日の差し込む日差しが眩しくて、手で影を作る。小さな手の平が目に映る。
こんな手が、今まで数え切れない程の人間を殺してきたとは驚きだ。
それが出来るのは、可能なのは。全てはひとえにオレがアルコバレーノだから。
アルコバレーノは老いを知らず。膨大な力を得る。
けれどそれを羨む者は誰もいない。
アルコバレーノは、呪われた者だから。
…ああ、身体が痛む。
外傷はどこにも、一つだってありはしないのに。身体が痛む。
呪いに身体を蝕まられる。
傷口がないから押さえることだって出来やしない。
難儀なものだ。
…帰ろう。
アジトに帰って、あの馬鹿共の顔でも見ればまだ踏ん張らないとって思えるからな。
そう思って、足を踏み出した。
視線と殺意を感じた。
見れば、生存者。
―――放っておいても死にそうだった。
だけど。
…悪いな。
今のオレは、優しくないんだ。
オレは相手の口の中に銃を突っ込んで。
「じゃあな」
そのまま引鉄を引いた。
運がなかったな。
生まれ変わったら、また殺してやる。
…見えない痛みは変わらずオレを蝕んでいる。
それでもオレは、歩みを止めることは出来ない。
…帰ろう。
あの生温い場所なら、痛みも気にならない。
ああ…でも、今日はその前に―――
「リボーンさんを迎えに行ってきます」
「獄寺くん?」
にこやかにそう言えば、10代目は何故だか少し戸惑う顔をした。
はて。どうしてしまったのだろう。
「…リボーンさん、もう任務も終わってる頃です。オレ近くに用事があるので…ついでに行ってきます」
「それはいいんだけど…獄寺くん」
「はい?」
聞き返せば、やっぱり10代目は何かに戸惑うように言葉に詰まった。
…? 10代目?
「あ…もしかして、何か急な仕事が入りました? ならオレやりますけど」
「いや、そうじゃない。そうじゃなくてね…獄寺くん、」
「はい」
「…あの、………あー…そういえば…用事って何? 何しに行くの?」
「ああ、それはですね」
オレはにっこりと微笑んで。
「姉貴の墓参りです」
…どうして10代目、聞かなきゃよかったなんて顔をしたんだろう。
その場所には、先客が訪れていた。
黒尽くめの小さな人影。帽子を脱いで頭を垂れて…静かに黙祷していた。
「…お前も来たのか」
暫くして、背を向かれたまま声を掛けられる。
「…ええ。リボーンさん」
リボーンさんの隣に立って、オレも黙祷する。
と、何故か離れていく気配。
「あれ…どこに行くんですか? リボーンさん」
「オレがいると、邪魔だろう」
「そんな事ないですよ何言ってるんですか。…あー、待って下さいリボーンさん。オレリボーンさんを迎えに来たんですから」
「…オレを? なんで」
「実はリボーンさんに聞いて頂きたいお話がありまして」
「…なんだ?」
「…その、姉貴の後釜を…ですね。―――もし宜しければオレに……」
―――その光景を、遠くから見てる人物がいた。
「クフフ…」
男は笑っている。にこやかに。不自然に。
「おやおや…隼人くん断られてますよ。結構勇気を振り絞っての発言だったと思うんですけどねぇ今の…」
男は独り言のようにごちる。そして笑っている。それはもう楽しそうに。
離れていく影。それを見ながら、男は更に小さく呟いた。
「僕の変わりに、見届けて下さい。…彼らの、行く末を」
頼みますよ、僕の可愛いクローム。
そう呟き終わった頃には、男の姿は女の姿へと変わっていた。
彼女はどこかぼんやりとしていて…やがてどこか虚空を見据えて、一言。
「はい。骸様…」
そう小さく呟いて、彼女は彼がずっと見ていた方に目を向けるが…
そこにはもう、誰もいなかった。
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彼は愛人を失いました。
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