大きな抗争があって、その葬儀があって―――数日。

リボーンには休暇が与えられていたが…果たして、彼の心は休むことを知っているのだろうか。



呪われた身体で、休むことなど出来るのだろうか。





- 見えざる呪い -





深夜のボンゴレをひとり。リボーンは歩いてる。

辺りは暗く静まり返り、草木ですら眠りについてる時間。

出会うのは夜番ぐらいなものだ。しかも下手にサボっているとリボーンの容赦ない叱咤が飛ぶ。



そんな彼らとも次第に別れ、リボーンはひとり闇の中。

…ひとりだというのに、リボーンには誰かの腕が見える。



誰かの腕は、迷う事無くリボーンの小さな首に手を伸ばし、締めようとする。



…幻だ。だからリボーンは無視する。いつものように。

最初、この幻が見えたときにはついに末期だろうか? と勘潜ったものだがそれが何年も続けばいい加減慣れてくる。

リアルな幻にどれだけ首を締められても圧迫感はない。支障なしだ。痛みは幻とは関係なく日夜変わらず傍にいるので切り離して考える。



そう、支障といえばこの痛みの方にある。



時折…そう、時折だ。

まるで炎に焼かれるかのような。そんな痛みが走る。いつもの痛みよりも強い痛み。

そう、それはまさに、今こそ。



「………、」



強い痛みに、灼かれる。

そんなときに見る幻は一番腹立たしい。



オレに殺された奴なら、さっさと死んどけ。



いくつもの戦場で、いくつもの命を奪ってきた。

いくつもの争いを廻り、いくつもの屍を積み上げた。

この幻覚はそのときの奴らなのだろうか?



オレが加害者で、お前らが被害者だとでも言うつもりか?



とんだお笑い種だ。



死にたくなかったのなら、マフィアや殺し屋など選択せず別の道を選んでいればよかったのに。

なのに彼らはこの道を選んだのだから、自業自得だ。

それでもなお、自分たちが被害者だと主張するというのならば。



オレだって…被害者に入るんだぞ。



自分が望んでこんな身体になったとでも思ったか。

誰がなるか。呪われた身など。アルコバレーノなど。

最初から自分がヒットマンの道を選んでいたと思っているのか。



単に、この道以外を奪われただけだ。



こちとらこう見えて、若い頃は――今の外見の方が若いが――青臭い夢だって持っていたし、追いかけてすらいた。

それを、奪われた。

何もかも奪われた。喪った。そうして彼の最初の人生は終わり、今の最低な人生が始まった。



「………」



痛みは続く。幻覚も消えない。

それどころか…彼に纏わり付く腕がいつしか別の人間のものに変わっていた。

ごつごつとした男のものではない…華奢な、細い女の指。



それにはどこか、見覚えがあった。

振り返ると…初めて、腕以外の幻が見えた。

そこに見えたのは、かつての愛人の姿。



ねぇ。リボーン。



初めて、幻聴が聞こえた。



あなたが…苦しんでるって。私が知らないとでも思ってた?



そう言うビアンキは微笑んでいて。けれど泣いていて。その手は相変わらずリボーンの首に添えられていて。



私はあなたを助けたかった。救いたかった。…本当よ?



首に圧迫感が。



なのにあなたったら隠して。誰にも言わないで。ひとりで抱え込んで。



首が絞まる。



聞いてもはぐらかして。なんでもないって言って。嘘付いて。



首が締まる。



好きな人が苦しんでいるのに、何も出来ないもどかしさ…あなたに分かる?



首が絞まる。



だけれど、ねぇ。私思いついたの。聞いてくれる? リボーン。



首が。



あなたもこっちにくれば、きっとその苦しみから解放されると思うの。



首が。



だから。ねぇリボーン。こっちに来て。



首が。





大好きよリボーン。


あなたをだれよりもあいしてる。





首が―――





「リボーンさん!?」





気が付くと、すぐ目の前に獄寺がいた。

何故か必死な形相で、けれどリボーンの目の中の光を見ると安堵したようにため息を吐いた。



「よかった…リボーンさん何回呼んでも何の反応もなくて…驚きました」



そう言う獄寺にリボーンは特に答えず、首元に手をやった。

もちろん何の痕だって付いてない。息苦しさだって感じない。



夢か…?



しかし夢だとして、それはどこから?

久し振りに見た夢はリアルさ満点だった。ちっとも嬉しくない。



「…? リボーンさん?」

「―――なんでもない。それより、こんな時間にどうしたんだ。お前」

「どうしたって…オレ今日夜番なんですよ。それでリボーンさんを見つけて……声、掛けたんですけどリボーンさん、なんだか様子がおかしくて…」

「………」



「お前の姉に殺される夢を見ていたんだ」などとは流石に言えず、リボーンは口を噤む。その反応に獄寺はどんな思いを抱いたのか…ともかく。微笑んで。



「なんにしろよかったです、リボーンさん」



そう言って、リボーンに腕を伸ばす。

その細い、長い指がリボーンに近付く。

それは先程の夢と…リボーンの首を絞めようと纏わり付いてきた腕とリンクして見えて――



パシッ



気付いた時には、リボーンは獄寺の腕を払っていた。

きょとんとする獄寺。



「…気安く触るな」



そう言ってリボーンは獄寺から背を向ける。

数歩歩いた所でリボーンの懐に仕舞ってある携帯が振動した。

とりあえず取ると、幼い声が鼓膜を刺激した。



『チャオ。リボーン』



リボーンはその声に少なからず驚いた。

同じボンゴレにいるとはいえ、同類とはいえ…向こうはこちらを毛嫌いしているというのに。こうして連絡を取ってくることなど初めてではあるまいか?

そんなリボーンの心情など欠片も気に掛けず、向こう…マーモンはマイペースに言葉を放つ。



『呪いを解きたくはないかい?』



はぁ?



それがリボーンの率直な心情だった。





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彼の精神は不安定みたいです。