マーモンとヴェルデが死体で見つかったと聞いた。
ヴェルデはまだ予想出来てたが…マーモンもかよ。
あいつも都合よく利用されただけみたいだな。誰にかは知らないが。
これで分かってるだけでもほぼ半数が死んだわけだ。
なんだ、意外と大したことないんだな。アルコバレーノ。
- 歓びと哀しみの追憶 -
オレは外に出る。ボンゴレから出る。
身体の痛みも、無視を決め込めばなんとでもなるもんだ。それとも自分の身体などどうでもいいと決め込んだからだろうか。
幻覚は消えた。幻聴も聞こえない。痛みは昔に戻ったんだと思えばそのうち慣れるだろう。
………いや、意外とすぐ慣れるかもな。
辺りに、殺気が。
アルコバレーノは今、狩られてる。
その事実が眼前に。
決してオレたちは世界に歓迎されていないという、事実が。
一対多数。
昔を思い出すようだ。
まだアルコバレーノの名前もなかった頃。実験と称され戦場に放り投げられたときのこと。
…ああ、
どうして、オレは今笑っているのだろう?
今思えば、オレは常に戦場の中にいた。
長いようで…だけど、今思い返せば短い間だった。
その中で得たものも、失ったものもたくさんあった。だけどそれも全てはもう過去のものだ。
ああ…だけど、
リボーンさん。
お前との思い出は、変わらずオレの中にある。
…お前は、たとえオレが世界から憎まれたとしてもオレを好いてくれるんだろうな。
驕りだと、そう言われればそれまでだが…だけどそうでも言わないと苦痛を浴びながらもオレの隣りにいてくれたお前に失礼だ。
結局オレから離れたが、お前はオレが望めばずっと一緒にいてくれたんだろうな。
…それこそ、死ぬまで。
―――オレはお前らの指導者として接していた。
だけど、オレにはその資格はあったのだろうか。
あの村で、結局あいつらの所へと戻れなかったオレに。
オレは、さっさと自殺でもした方がよかったんじゃないのか?
だけど―――…
―――それは、ボンゴレに所属してから少ししてからだった。
新人の教育現場を通り掛かった。
正直に言おう。全然出来てなかった。
罵声、罵倒。震え上がらせるだけ怖がらせ、ろくな指導になってなかった。
見てられなかった。
無理な成果を急激に求めても、そんなものは所詮付け焼刃にしか過ぎない。
早熟を求めれば求めるほど、質は落ちるに決まってる。
一人ひとりに充分な指導を。
それが教師の役割だ。
待て。
…一体、オレは何を口走ったのだろうか?
オレがやる。
…一体。オレは何様のつもりだったのだろうか。
今更、教師の真似事などと。
それも人を殺すための、指導などと。
それでも"生徒"に慕われて…覚えた感情はなんだっただろうか。
人を殺しにいった生徒が殺されて…込み上げてきた思いはなんだっただろうか。
自分も同じく戦場に出て…目の前で教え子を殺されたとき、オレは一体どうしたか―――
「―――化け物め!!!」
悲鳴のような声に、目が覚めた。
そうだ、オレは襲われてるんだった。まぁあっさりと返り討ちだが。
つーか弱すぎるぞこいつら。たぶん今回の騒ぎとは関係のない奴等だな。
…また、声が聞こえる。化け物と。
化け物? それを作ったお前らがそれを言うか。
化け物? 嘲笑と侮蔑を混ぜて呼んでいたな?
オレたちはお前らの道具じゃない。
穏やかな暮らしに満足していたのにそこから引きずりだしやがって。
お前ら……よくも。
過去の映像が現在の現状に被って見える。
オレの目の前にいるのは見知らぬ刺客であり、過去の研究員だ。
銃声が響く―――
過去の映像は現在の現状から剥がれて逃げた。
オレの目の前にいたのは見知らぬ刺客でもなければ、過去の研究員でもなく。
それはボンゴレの構成員の一人。
そいつには覚えがあった。かつてのオレの教え子のひとりだった。
感傷は抱かない。
広がる血の赤。
そこに映ったオレの顔に表情はなく。
そこに写ったオレの目に色はなく。
…気付けば、オレの足はまるで時を遡るかのように。真っ直ぐと今まで避けていたあの場所へと向かっていた。
生徒に殺され掛けた教師が向かうそこはかつての教師が死んだ場所。
教え子に手を掛けた教師が向かうそこはかつての教師の原点。
そこは―――かつての名もなき小さな村の跡。
今やそこには面影も見る姿もなく―――
ただ、呆然と空き地が広がるばかりだった。
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彼は壊れつつあります。
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