まだ分かんねーとはな。
任務に出てから数週間。
変わらずオレの背に誰かがいて。オレはそいつの正体が掴めないでいる。
…オレも落ちたな…
まぁ、あれから撃たれてはねーけど。
「浮かない顔をして。どうかなさいまして?」
「ああ、いや―――特に何も。マダム」
と返せば眼前の女は軽やかに笑う。
ここはとあるパーティ会場。同盟マフィアの親睦を深めるための踊り場らしい。
…なんか、下手な暗殺任務や陽動任務よりも気が重いんだが。変な虫が寄って来るし。今まさにオレの前に。
「もしよろしければ一緒に踊ってくださいませんこと?」
「悪いが、オレの身長だと不恰好になって踊りにくいだろう」
一応言っておくが、オレこう見えて11歳だからな。身長も年相応しかないからな。酒の入ったグラスを手にしているも飲んでないし。
「では、お話でもいかが?」
やけに食いつくな。もうオレは愛人は持たない主義になったんだが。
「それは構わないが、オレと話すだけの覚悟は持ってるか?」
「え?」
きょとん、とした風な顔の女にオレは説明してやる。女・子供・そして恋人に優しいのがオレだ。
「オレはこう見えて、そこらかしこに恨みを買われてんだ。逆恨みで狙われる覚悟はあるか?」
「まぁそんな」
信じてねーのか? まぁそれも自由だ。
「例えば、オレと恋仲にあったという理由で命を狙われた奴がいる。そいつの命は助かったが、代わりに喉が潰れた。今でもそいつは声が出ない」
実例を一つ出してやれば、見るからに女の顔が引き攣った。…オレと恋仲になるつもりだったのか? こいつ。
女は途端に何か用を思い出したとかなんとかごにょごにょ言いながら逃げていった。まぁ、命だもんな。喉だもんな。これが普通の対応だ。
…あの馬鹿は逃げるどころか逆にオレに捨てられないかとびくびくしていたけどな。
びくびくしてたのは実はオレの方なんだが。
………獄寺。
獄寺に会いてぇなぁ…
「失礼。今お一人ですか?」
ああ、また羽虫が飛んできた。
うざいが、こいつらの相手を"紳士的に"するのが今のオレの仕事だ。
「そうだが?」
ああ、早く獄寺に会いたい。
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そう思いながらオレは相手の顔を見る。
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