芽生えた思いを、奥へ奥へ。


誰も、自分すら気付かぬほど、奥へ奥へ。





- 深海に鎮めた恋心 -





あなたを眼で追うのは何故だろう。


あなたを気にするのは何故だろう。


自分の事なのに分からず、そしてこういう時は何処からか声が聞こえてくる。





隠せ隠せ。


壊せ壊せ。


殺せ殺せ。





その声は誰の声だろう。


聞き覚え…というか、馴染みのある声の、ような。


そんな声に従う理由などないだろうに、オレはあの人から眼を背け、思いを無かったことにする。





隠せ隠せ。


壊せ壊せ。


殺せ殺せ。





そう、内心で呟きながら。





聞こえる声は自分のものである事は知っていた。


あの人が気になる理由も知っていた。


聞こえる声の意味も知っていた。


あの人にこんな思いを抱いてはならぬという事も知っていた。





全部、知ってた。





気付かない振りだけでもした方が楽だという事も。


思いを伝えて、あの人に迷惑を掛けて、拒絶された方がすっきりするという事も。


誰かに相談して、(その誰かが肯定派であれ否定派であれ)悩みを共有した方が落ち着くという事も。





全部、解ってた。





知ってる上で、知らない振りをしていた。


解ってる上で、解らない振りをしていた。





そうしなくてはならないと、自分が言ってる。


そうしなくてはならないと、自分は知ってる。





だって、駄目だ。





こんな思い、自分が抱いては。


こんな思い、あの人に抱いては。





許されるものではない。





だから、隠して。


だから、壊して。


だから、殺して。





そうして、全部、なかったことに。





隠したところで現れて、


壊したところで直って、


殺したところで復活するけど。





それでも、何度も。


きりがなくとも、何度も。


意味があろうが、なかろうが。





オレは何度も、オレを殺す。


オレが、本当に死ぬまで。