久し振りに日本に来たら。あの悪童が大変なことになっていた。
あいつの容態は耳に入っている。…勿論全部だ。
なんとも、酷な話だ。
折角夢を掴む為に走っていたのに。
そんなあいつを待ち受けていたのは…病魔という。現実。
何の助けになれないのだとしても。放っておくことも出来るはずもなく。
…けれど。どうすれば良い?
こんなオレ如き。あいつのなんの力にも、なれなやしないのに。
3/ Dino Side
面会の許可を半ば無理矢理に取り、目指すはスモーキンのいる病室。
死を約束された身体。
あいつはきっと。死することぐらいは覚悟の上で過ごしてきていただろうけど。
でも、その死に方だけは考えてなかっただろう。
あいつはきっと。戦死を希望していた。
ファミリーの為に。仲間の為に。愛するものの為に。大切な人の為に。
…ツナの為に。死ぬことを望んでいただろうから。
気が付けば、目の前に扉。
この中に…スモーキンがいる。
オレは意を決して…ドアを開けた。
「………っ」
思わず。息を呑む。
部屋の中は荒れていた。
元から必要最低限の物しか置いてないであろう病人部屋だが…テーブルは倒され椅子は折られ。
…って良く見てみればこのドアも微妙に拉げているし。
この惨状を作ったであろう部屋の主は…ベッドの上で横になっていた。というか、横にさせられていた。
暴れるからなのか。両手足を丁寧に縛られて。
「………思ったよりも元気そうじゃねーか」
ぴくりと反応。横たわったままこちらに振り返る。
…その口には、なんの冗談か布が入れられていた。
―――こいつ…
「ったく、お前何やってんだよ」
唾液に塗れた布を取ってやる。スモーキンはぷはっと大きく深呼吸。
「ぁ…っと。はね…馬…?」
「よう」
軽い口調で言ってやるが、内心はその真逆だった。
身動きを取れないように縛られ。果てには口も満足に動かせないようにされて。
その真意は…自殺の防止だ。
「っは…れを、笑いに来たのか…?」
布に何か薬でも入れられていたのだろうか。上手く話すことが出来てない。
…まぁ、舌を咬まれることがないようで安心したが。
「馬鹿なことしてんじゃねぇよ」
そう言うも、こいつは皮肉気な笑みを浮かべるだけで。
「…ぇに、――にが、分かる…」
暗く歪んだ笑み。全てを否定し、拒絶し。…絶望しているものの瞳。
「………なぁ」
「あ?」
あいつからオレに話しかけてきた。
けれど、その内容は…
「シャマルが…な。オレの頼みを…聞いてくれねぇ、んだ」
止めろ。
「ひでぇ…よな。まったく…てめぇはさじを投げやがった、くせにさ…」
言うな。
「―――生きてても…辛いだけなのによ…」
そんなこと 言うな。
「な…でぃ、の…」
こんな時だけ、オレの名を呼ぶんじゃねぇ。
「―――オレを…」
お前は。決してそんなことを言うような奴じゃなかったのに。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
オレはそれを受け入れることが出来なかった。
オレはあいつから逃げることしか出来なかった。
ああ、自分の無力さに吐き気がする。
NEXT