そして…静寂が訪れた。





無音の世界。ここにはもう何もないのだと主張するように。





暗い室内。今はもう、月明かりすら入ってこない。





だけれども、オレの目の前には赤い世界が広がっている。見えている。





見るも無残に飛び散った肉片。





そこから湧いてくる死の臭い。





オレの目の前には、先程まで生きていた獄寺隼人の死体が一つ。





オレはリボルバーを懐に仕舞った。







 4/ Reborn Side







空を見上げると、満月が雲に隠されながらも辺りを光照らしていた。





時は深夜。ここは病院へと続く道。





周りは寝静まっているのか明かりは灯っておらず。仄かに虫の声が聞こえてくるだけだ。





てくてくと誰もいない道を歩いてく。時間が時間だからか誰とも擦れ違わない。





まぁ、その方が手間が掛からなくて良いが。





病院に辿り着く。明かりは点いてはいなかった。





目的の場所は既に分かっている。ここよりも上階。そこを目指して歩く歩く。





―――と。





眼前に立ち塞がる影一つ。





足を止めてそいつと対峙する。間に降りるは痛いほどの沈黙。





「…何しに来たんだ?」





「分かってるからそこにいるんだろ? ドクター」





闇に鳴れた目に映るは、くすんだ白衣と。殺し屋と医者の顔を持つ男。





…今ここにいる奴は。果たしてどちらの顔なのか。





「…見逃してくれ」





「おめーはてめーのエゴを獄寺に押し付けてるだけだぞ」





「分かってる」





辛そうなシャマルの言葉。





オレには関係ないが。





「無駄な時間を過ごす気はねぇ。そこをどいてもらうぞ」





「………そうかい」





その言葉と同時に、生まれる気配。気配。気配。





それはシャマルの武器であるモスキートの大群の気配。





「お前さんを殺せるとは思っちゃいねーし、殺すつもりもないが…足止めぐらいにはなるだろ」





「いや、足止めにすらなんねーぞ」





「………」





返答はなく。代わりに眼を少しだけきつくさせて。モスキートの大群が迫る迫る。





そして。





パァンと、シャマルと対峙していたオレの形をしたものが。弾けて飛んだ。





「っ、レオンか…!」





「そーゆうこった」





オレはシャマルの背後に降り立って。言葉を言い終える前に引鉄を抜いた。





大きな銃声と、倒れる身体。





どうやらここにいたのは「殺し屋」のシャマルではなく「医者」のシャマルだったようだ。





「殺し屋」だったならば、この程度の策ぐらい即座に見抜く。甘い考えで痛い目を見るのは「医者」の方だ。





さて、とオレは今まで立ち塞がっていた壁には目もくれず。また歩き出す。





目指すべきは獄寺の病室。目標は…







ドアを開ける。音もなく。身を滑らせる。





室内に明かりは付いてない。





ただ、窓から。破れ取れたカーテンのかかってあった窓から月明かりが差し込んできた。





淡い光が室内を包む。





オレの眼前にはベッド。その上には獄寺。





獄寺は自身に降りかかった理不尽への怒りにか。嘆きにか。果ては絶望からか…





泣いていた。





「…こんな時間にお見舞いだなんて。珍しいですね」





「そうだな」





受け応えだけなら、あるいは日常会話のように。





けれどここは暗い病室。オレは見舞いの品の花束も持ってなんかないし、獄寺は変わらず涙を流し続けていた。





「ね。聞いて下さいリボーンさん。みんな酷いんですよ?」





オレはその声に応えない。だが獄寺は気にせず話し続ける。





「みんな おれを ころしてくれないんです」





獄寺の眼には涙。口には薄い笑み。恐らく心には病。





「もう死ぬことが確定しているのに。シャマルの奴がそう断言しやがったのに。もう10代目のお役にも立てないのに」







なのに みんなころしてくれないんですよ。







と。そう獄寺は全てを皮肉ったような笑みで告げる。その眼からは生気は既に失われていた。





オレは小さく一つ。溜め息吐いて。





「なら」





銃を取り出して。





「オレが殺してやるよ」





獄寺に向ける。





獄寺は。一瞬止まった。





視線を少し変えて。…ようやく、オレを見た。





「あれ…リボーンさん? いたんですか?」





「お前もいい感じにいかれてきてるな。最初からいただろうが」





「あはは…ごめんなさい。まさか本物だなんて思わなくて…」





一体今までこいつは目の前にいたオレをなんだと思っていたのだろうか。





まぁ、こいつがどんな状態であれ望みだけは同じみたいだが。





「オレを殺して下さるんですよね」





「ああ」





嬉しいです。と獄寺は笑ってる。





「――なにか言い残すことはあるか?」





「聞いて下さるんですか?」





「さぁな」





オレの返答を意にも返さず。獄寺は少し考えた。





「では…言い残すというよりもお願いなんですけど…良いですか?」





「聴こう」





「はい」





獄寺は真直ぐにオレを見て。





「10代目には。"獄寺隼人が死んだ"こと以外の情報を決して与えないで頂けますか?」





「それで良いのか?」





「はい」





「ツナは苦しむぞ」





「でも悲しみは軽減されます」





部屋から明かりが逃げる。月が逃げるように雲の中へと隠れていく。





「………そうか」





それでもオレたちは眼を背けようとはしない。明かりなんて意味はない。





「ツナが苦しむ思いをするって分かりきっているのに頼むなんて。お前は残酷だな」





「それでも聞き入れて下さるリボーンさんはお優しいですね」





オレは獄寺の遺言を暫し思案して。





「分かった」





言葉を言い終えないうちに、銃の引鉄を抜いた。







そして…静寂が訪れた。





無音の世界。ここにはもう何もないのだと主張するように。





暗い室内。今はもう、月明かりすら入ってこない。





だけれども、オレの目の前には赤い世界が広がっている。見えている。





見るも無残に飛び散った肉片。





そこから湧いてくる死の臭い。





オレの目の前には、先程まで生きていた獄寺隼人の死体が一つ。





オレはリボルバーを懐に仕舞った。





部屋を出ると、いつの間にか復活したシャマルが前に。





「…やったぞ」





「だろうな」





「後の始末を頼んだぞ」





「…分かった」





シャマルに背を向け歩いていく。





背後で壁を思いっきり殴る音が聞こえてきたが。無視した。





さて、オレはもう一つ仕事だ。







その翌日。オレは。







「ツナ」





「なんだよ」





何も知らない。知ることの出来ないこいつに。





「獄寺が死んだぞ」





ただの事実だけを伝えてやった。










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あいつの頼みのせいで、こいつにオレを憎ませてやることすら出来やしない。

それでもきっと。こいつはいつか知るだろう。

誰が望んでいなくとも。こいつはその道を選ぶだろう。



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