がらりと、やや乱暴にドアが開かれた。





「…? って誰かと思ったら隼人じゃねーか。お前から来るとはめずらし…って、隼人?」





「avere…freddo……malessere…」 さむ…い、てか気持ちわる…





「隼人…って隼人、おい!!」





駆け寄って呼びかけるも、隼人はほとんど意識が朦朧としていて。オレの腕の中で気を失った。





嫌な予感が背筋を駆け、オレは隼人を診察する。その結果は…





「………vaffanculo」 ………くそったれ





毒付いたあと、オレは携帯を取り出して。隼人を連れてここよりも設備の整っている病院へと急いだ。







 2/ Shamal Side







…全てが終わり、溜め息を吐く。





そして、とりあえず目の前にあった椅子を思いっきり蹴り飛ばした。





喧しい耳障りな音が響いて。苛立ちが更に強く。強く。





ああ、畜生。





テーブルを思いっきり強く叩く。軋んでへこんだ。





どうして、オレは気付けなかった。





叩かれた振動で倒れる花瓶。それを掴んで壁へと投げる。





手を伸ばせば届く距離にいたのに。





苛立ちは収まるところを知らず。それどころか更に強く。強く。強く。





あいつを守りたかったのに。





鏡に写ったオレの顔。なんだか腹立だしくて拳で殴った。





オレなら救うことが出来たのに。





硝子の破片が皮膚に食い込む。ぶちぶちと異物が肉を貫き神経を切っていく。





もっと早く気付くことが出来ていれば…あいつを救えたのに。





鋭い痛みが脳内に伝わってくる。けれど全然気にならない。





ああ…畜生。





これからあいつが受けるであろう絶望感を思えば。この程度なんとも。





どうして…オレはあいつを見殺しにすることしか出来ないんだ。







あいつのいる病室へと赴く。





あいつは起きていた。横たわったままで。





室内に入ってきたオレに気付いたのか、あいつの無垢な瞳がオレを捕らえる。オレは一瞬躊躇する。





これから…あいつに伝えなければならないことを思うと。どうしても迷いが生まれてしまう。





だって。残酷だ。





けれど…教えなければならない。





それがオレの役目なんだと。自分に言い聞かせる。





あいつは何も言わないオレを見て、なにやら不審げな顔でオレを見つめているが。





「…シャマル?」





幼い声がオレを捕らえる。





「なんだよ、怒ってんのか? …悪かったよ。迷惑掛けて」





あいつが勘違いした謝罪をしてくる。





違うんだ。





本当に謝罪するべきなのは…





「隼人」





「…? なんだよ」





「落ち着いて…聞いてくれ」





「………?」





…本当に、謝罪するべきなのは………







「お前は。もう長くない」







それを聞いたこいつが死ぬのは。これからそう遠くない未来。










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それを止めることは出来なかった。

止めたかったけれど。それが無理なほどあいつの意志と絶望は大き過ぎて。

…これで保護者を名乗っていたのだから。哂ってしまう。



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