「―――今日は、寒いですね」
「…そう? 暑いぐらいだと思うけど」
…思えばこれが、彼に気付けたかもしれない最初で最後のチャンスだったのかもしれない。
けれど…オレは気付くことが出来ず。
それどころか、笑ってしまう。
これが、彼と交わした最後の言葉になってしまっただなんて。
ああ…可笑しくて。
笑うしかない。
1/ Tsuna Side
「ツナ」
いつも通りの朝だった。
「なんだよ」
彼がいないだけで。あとは全部慣れてしまった日常だった。
「獄寺が死んだぞ」
なのに。気付いた時にはそれは跡形もなく砕け散っていた。
オレには日常と言う名の硝子のコップを手で支えることも。
それどころか、それが堕ちていたことにすら気付いていなかった。
嫌な汗が流れる。言葉を投げられただけなのに吐き気すら感じてしまう。
「な…んだよリボーン…またそんな…冗談言って、オレを騙そうとして…」
何故か声はからから。この数秒のうちに何があったのか口の中は乾き切ってしまっていた。
「これは嘘なんかじゃねーぞ」
彼はあの日。お昼休みにぶらりとどこかへと行ったかと思うと…そのまま姿を消した。
「だから…そういう嘘は効かないって……ていうかホント、止めろよな。縁起でもないし…」
けれど時々とはいえそれはあることだから。まだ日常の範疇だったから。
「嘘じゃねー」
だからまた。直ぐに会えるって思ってた。
「だから…オレには効かないって…!」
信じて、疑ってなかった。
「ツナ」
なのに。
「嘘じゃない」
―――ああ、そういえば現実って結構残酷に出来ているんだった。
忘れてた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
突きつけられた事実が唐突過ぎて。信じられなくて。
悲しさよりも喪失感が大きすぎて。大きすぎて。
…哀しいね。涙が出てきてくれないんだ。
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