約束を破って貴方を泣かせるか、約束を護って貴方を泣かせるか。
さぁ―――どうしましょうか。
回帰
雲ひとつない空に、大きな満月が浮かんでいた。
辺りは無音といっていいほど静かで。オレはその光景に、一人陶酔する。
こんな夜、貴方はどうしているだろうか。
貴方はボンゴレの正式な10代目として、その役に就かれたけど。
それでも貴方は、未だにマフィアというものに怯えを感じているようで。
貴方は今夜も眠れない夜を過ごしているのでしょうか。
出来ることなら、オレが傍にいて、貴方を安心させたいけれど。
残念なことに、今オレはアジトから遠い地に赴いていてそれは叶わない。
山本や…雲雀がどうにかしてくれてると、そう信じるしかオレには出来ない。
………信じるなんて柄じゃないか。
そう思って。笑った。
―――血が、吐き出た。
ああ、もう、どうしよう。
………正直な所、オレの身体はもう長くない。
子供の頃から随分無茶ばかりしたのが原因か、オレの身体はもうぼろぼろで。
そのことを知っているのは、リボーンさんとか、シャマルとか。ごく一部の人間だけで。
だから、オレは難易度の高い任務ばかり志願して。
……間違ってでもアジト内で、貴方の傍で倒れるなんて。無様な真似はしたくなかったから。
どうせ死ぬなら。貴方の為に死にたかったから。
そして、出来ることなら貴方にだけはこのことを知られずにこの世を去りたかったから。
オレは目を閉じて、自分の身体の容態を計る。
まだ、大丈夫だろうか。貴方に悟られないだろうか。
……どちらにしても、この問題について迷うのは今回が最後になるだろう。
オレとしては、このまま死んでも、まぁ別に構わないのだが。
そんなオレの思考を思い止まらせているのは、たった一つの貴方との約束。
―――貴方のところへと、帰るという約束。
帰るべきか。帰らざるべきか。
貴方との約束を護るのなら、帰るべき。
オレの容態を知らせないなら、留まるべき。
けれど。どちらにしても貴方は傷付く。
それが、どうしようもないほど悲しい決定事項。
一体どっちの道がより貴方を傷付けないのか。
貴方はお強い人だから、きっと立ち直れるだろうけど。
でも、たとえ立ち直れても貴方の心には傷が付きっぱなしになるのでしょう。きっと。
………だったら、それならば―――
「―――――決めた」
口に出して。声に出して。己の意思を定める。
…10代目。
ごめんなさい。
オレは貴方を想う故に。貴方を愛するあまりに―――
―――貴方の命に、背きます。
オレはまた空を見上げて。大きな満月をその目に刻んで。
その光景を最後に、オレは闇の中へとその身を溶かした―――…
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「切ないから」に続く。